3.だから私は歌い続ける①
◇ ◇ ◇
初めて飛んだ蒼空は、喜びよりも孤独感・恐怖感の方が強かった。
この広大な空の下、たったひとりで、たったひとりを見つけ出さなければならない。
だけど。
(リックは見つけてくれた。今度は私が逢いに行く……!)
マクレガンは永劫死罪だと言っていた。その刑に処される者は、レミナのいた場所とは対極に位置する、もう一方の世界の果てに連れていかれると聞いたことがある。確か罪業の地とか。
(だったら、とにかく真っすぐ飛ぶ!)
レミナは必死に羽ばたいた。日頃軽い空中運動をしているとはいえ、きちんと飛んだことなどない。疲労はすぐにやってきた。
(不死のくせに、疲れだけは人並みなんだから!)
己の役立たずな体質を呪い、翼を動かし続ける。
延々と飛んだ。空の色も青から茜、紺のサイクルを何度も繰り返した。
そしてとうとうたどり着く。罪人たちの流刑の地へと。
「っ!」
はるか下に見える看板に気づき、レミナは高度を落とした。目を凝らして文字をたどる。
『これより罪業の地。許可なき者の立ち入りを禁ずる。この禁を破る者は、神罰を覚悟すべし』
「罪業の地だわ……ようやくたどり着いた!」
疲労のこびりついた顔に笑みを割り込ませ、歓喜の声を上げる。俄然元気が湧いてきて、レミナは力強く羽ばたいた。
(でも、神罰って……?)
一抹の不安に対する答えは、速攻で返ってきた。
「――っ⁉」
背中に、じゅっと灼けるような痛み。
翼がうまく動かない。ひと羽ばたきごとに羽が抜け、自身の高度も落ちていく。抜け落ちた純白の羽が、花びらのように空に舞っていた。
ぎこちないながらも飛び続けるが、ついには引きつるような痛みの後――わずかに羽ばたくこともできなくなって、レミナは大地に身を落とした。
「あぐっ……」
地面にしたたかに打ちつけられ、悲鳴がもれる。
しかしそれよりも気になったのは、背中の痛みだった。見ると翼が、根元からごっそりなくなっている。
「これじゃあ、飛べない……」
弱々しくつぶやいた後、きっと口を引き結ぶ。
飛べないなら歩けばいい。これほどの傷、いつ回復するかも分からない。だったら四の五の言わずに歩くしかない。
レミナは立ち上がり、歩き始めた。
「リック。私が必ず、助けるから……」
永劫死罪は最重罰だ。刑が重いほど処刑場は奥になる。
ただひたすら、最奥を目指して歩く。
途中幾度となく、手枷足枷をはめた罪人を見た。中には重労働を科されている者もいた。
それら全てを無視し、一心不乱に歩を進める。
一歩一歩、確実に……
確実に……
◇ ◇ ◇