2.あなたと飛べなきゃ意味なくて⑤
空が突然虹色に変わった。
それは天界が出す合図だった。世界中に希望を届けるための。
「このタイミングで、なんたる朗報」
マクレガンが顔をほころばせる。
「代替聖女が覚醒した。彼女なら、贖罪の歌を完成させることもできるだろう」
「代替聖女……?」
「君と同じ……いや、君以上の力を秘めた聖女だ。もはや代替ではない。彼女こそが本物だ。長きに渡って探して探してようやく見つけ、力の覚醒をずっと待っていた」
マクレガンは拍手をして微笑んだ。
「おめでとう、君は用済みだ。その鳥籠の中で、尽きぬ命の中愛でも歌っていろ」
最後は冷たい笑みへと変えて、彼は背を向け去っていった。神官たちを引き連れて。
「や……待って!」
しかし彼らは戻ってこない。虹色の空も役割を終えたのか、その色を元へと戻しつつある。
全てが元通りだ。
自分は鳥籠にとらわれて。リックをまた助けられなくて。
どうしようもない無力感に押し包まれ、レミナはずるずるとへたり込んだ。
「私は……なんて愚かなの!」
格子に額をたたきつける。血が流れたが気にしなかった。どうせすぐに治るのだ。そう願っているわけでもないのに!
「私は……私は、馬鹿よ」
涙がこぼれた。ここ何カ月ものなにげない会話を、狂おしいほどに取り戻したくなる。
「愛する人を忘れていたなんて……テオドリックは……リックは悪魔に転生しても、私のことを思い出していたのに……」
自分のことばっかりで。偽りの愛に喜んで。
「お願い……リックを、助けて……助けて……」
この場にいない、そしてもう二度と姿を見せないであろう冷徹な男に懇願する。それ以外に、なにができるか分からなかった。
「お願い……お願い……」
衝動を抑えきれず、再び額を打ちつける。すると……
ぎぃっ……
格子が一本、きしんだ音を立てて傾いた。
「えっ⁉」
レミナは動揺した。神聖なる籠が、頭突きを二回した程度で壊れるはずがない。
(……まさか、リック……?)
思い出す。リックは事あるごとに格子に触れていた。そしてマクレガンは、悪魔は触れるだけでその身が灼けると言っていた。リックはなぜ、自分を傷つけるものに度々接触していたのか……
(聖なる籠が悪魔をむしばむなら、その逆も……?)
分からない。だけど壊れかけているならチャンスだ。
レミナは格子をつかんで激しく揺さぶった。
ばきぃっ、と音を立てて格子が外れる。
(もう一本外れればっ……)
額をたたきつけ、殴りつけ、とにかく手当たり次第に格子を揺らがせる。
歯を食いしばり、血を垂れ流して純白のワンピースを赤く染めても、レミナは止まらなかった。
やがてもう一本格子が外れると、なんとかレミナが通り抜けられる程度の隙間ができた。
「リック、今行くから!」
身体をねじ込むようにして外に飛び出すと、レミナは大空へと舞い上がった。
◇ ◇ ◇