2.あなたと飛べなきゃ意味なくて②
◇ ◇ ◇
「よっす」
いつもの挨拶。いつもの笑顔。
「さーて。早速、今日も解錠チャレンジいってみっか」
いつもの挑戦……
「無理よ」
レミナはいつもの流れを断ち切った。
格子にもたれるように手を添えていたリックが、指でとんとんと格子をたたき、口をとがらせる。
「なんだって水を差すかなー。決めつけるなっての」
「無理なのよ!」
鋭く告げてうつむき、押し殺した声でレミナは伝えた。昨日テオドに言われたことを。
――錠前のロックは一日サイクルでリセットされるんだ。かつての教訓を生かさないほど、僕ら天使は愚かじゃない。
「だからどれだけやってもゴールに近づかない。積み重ねに意味はなく、確率は永遠に千分の一なのよ……そんなの、絶対無理じゃない」
「でも可能性はあるんだろ」
なんともなさげに吐かれた言葉に、レミナは驚き顔を上げた。
目に入った微笑みはくしくも、残酷な事実を告げてきた時のテオドと同じ、慈しみに満ちたものだった。
「やり続ける限り、毎回千に一度のチャンスはある。そういうことだろ?」
「そうだけど……」
「だったらやる意味あるじゃんか。レミナだって俺といると――なんだっけ、贖罪の歌? 世界再生のためだとかの歌を、思い出せるんだろ? だったらウィンウィンじゃん。やらない理由がない」
「でもリック、あなた飛ばされるたびに傷を負ってるじゃない。小さな傷でも、永遠に続けばいつかは治らなくなるわ」
「大丈夫だって。悪魔は丈夫なんだ。それに最後に不死になっちまえば帳消しだろ」
にっと二本指を立てるリック。
結局その日もレミナは、消えるリックをただ見送った。
◇ ◇ ◇
宣告通り、リックは決して諦めなかった。毎日欠かさずやってきては、庇護の力に飛ばされた。そして翌日にはまた、けろっとした顔で訪れる。
だが……
リックは、日に日に弱っていっている気がした。
笑っているが、どこか疲れている。目に見える傷も増えてきた。繰り返されるダメージに、回復が追いついていないのかもしれない。
それでもリックは繰り返す。
まるで命を懸けた誓いのように。
「大丈夫だって。俺が必ず、レミナを自由にしてやるから」
レミナはいつしか本気で、千分の一を強く請い願うようになっていった。
◇ ◇ ◇