表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/9

2.あなたと飛べなきゃ意味なくて①

◇ ◇ ◇


 (しょく)(ざい)の歌を一部とはいえ思い出したことは、テオドを大いに喜ばせた。

 ――やったじゃないかレミナ。この調子で、少しずつ思い出していこう。

 顔をほころばせるテオドを見て、レミナの心は弾んだ。

 ただ、歌とともにテオドとの記憶を()たことについては話さなかった。

 テオドとの大切な思い出の一部を、忘れていたことすら忘れていたなんて、話せるわけがない。

 思い出してみれば、確かにあったことだと納得できるのに。


(テオドとの思い出、どうして忘れていたのかしら……)


 リックは毎日やってきた。そして毎日歌って解錠を試みては、()()の力に飛ばされた。

 なぜだかリックの歌を聴くたびに、レミナは(しょく)(ざい)の歌の(へん)(りん)と、テオドとの失われていたらしい記憶を思い出した。



 ――レミナ。君が不死って本当かい?

 ――そうよ。死なないし、これ以上の老化もない。

 ――ははっ。それは羨ましいなあ。

 ――全然良くないわ。みんなみんな死んでいくのに、私だけ取り残されるのよ? 昔はここにも住人がいた。でも今は私だけ。こんな鳥籠の中で、ひとりぼっち。

 ――だったら僕が不死になれば、君はひとりじゃなくなるのかな?



 ――ねえテオド。大空を自由に飛ぶって、どんな感じ?

 ――最高の気分だよ。でも君と飛べたら、もっとうれしい。

 ――あのね。

 ――なんだい。

 ――私もほんとは、空高く飛びたいの。

 ――知ってるよ。だからいつか、僕と飛ぼう。この鳥籠を飛び出して。

 ――ええ。



 レミナが毎日歌うのは、テオドを導くためだった。

 しかしいつしか、テオドのためだけではなくなっていた。


「よっすレミナ。また来たぜー」

「懲りない人ね」


 言いながらも、レミナは笑って毎度の訪問客を出迎えた。彼の屈託のない笑顔に、心癒やされている自分がいた。

 リックが扉横の格子を握りながら、満面の笑みを浮かべる。


「レミナ知ってるか? とうとう今日で百の大台だぜ!」

「そうね、百回目の外れね」

「あ、おい。なんで百回目も当然のごとく外れになってんだよ」

「だってきっとそうだもの」

「よーし覚悟しろよ、目に物見せてやる。こんにちは俺の不死!」


 リックは消えた。


「また明日(あした)ねお気楽悪魔さん」


 レミナは笑って挨拶を送った。


◇ ◇ ◇


「やあ。今のが、君がいつも話している悪魔かい?」


 舞い降りたテオドが、リックの消えた辺りを見ながら言う。


「ええ。リックは私に、(しょく)(ざい)の歌を思い出させてくれるの。でもそれだけじゃなくって、一挙一動が面白いのよ」

「そんなに楽しそうに答えられると、僕としてはなんだか面白くないな」

「もしかして嫉妬してる?」

「少しね。最終的には君を信じてる」


 格子を挟んでテオドに寄りかかりながら、レミナは聞いた。


「ねえテオド。もしリックが鍵を開けたら、あなたは焦る?」

「どうだろうね。でもどの道関係ない。彼に鍵は開けられないさ」

「でも続けていれば、いつかは開くでしょ?」

「聖女を(まも)る鍵が、そんなに単純なわけないだろう?」

「え?」


 驚いて身体(からだ)を離したのは、言葉の内容そのものだけではなかった。

 いつも優しく穏やかなテオドの口調に交じる、わずかな嘲笑を感じ取ったからだった。

 顔を上げると、テオドはいつもの慈愛に満ちた(ほほ)()みで先を続けた――


◇ ◇ ◇

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ