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輪郭、情に馳せる

作者: 芹川紅菜




コツコツと規則的な音が頬を掠める。広さ60平方と少し、学徒の集う箱庭と鼻腔を漂う雨足の香り。

勝手知ったるこの場所は、僕と貴女の思い出の場所ではなかったの?

正直、何を話されるかは分かりきっていたけれど、何故か惨めに追い縋る気にはなれなかった。

捨てないで、と叫べれば良かったのだろうけど、愛想を尽かされた時に思った以上に気持ちが残っていなかった。


涙を溜めた君が言う。

別れませんか?と。

涙の一つも出さない僕に、女はひゅうひゅうと息を漏らし謝る。

別に好きな人が出来てしまった。貴方には会えない。合わせる顔が無いけれど、認めてはくれませんか、と。

悲しく無い。彼女と過ごした一年と少し、人生の1/17を共にしたのに、出てくるのは枯れた呼吸だけ。

別にいいですよ。生きてれば、そんな事もあります。貴女は、ちゃんと僕に伝えてくれたから。


軽い。言の葉と言うには余りにも、落ちた緑に意思がない。

許してくれてありがとう。

そう言うと、彼女は頭を下げて教室から出て行った。

やがて足跡も消えて、残った寂寥に嘆息一つ、近くの背もたれに尻を乗せた。

話の最中はどうでも良いなとしか思えなかったのに、なんでか今になって、彼女との思い出が無性に恥ずかしい。

頬が熱い、叫び出したいくらい、一つ一つの情景に虫唾が走る。


仲良くなれそうだと、わくわくしながらメールを返した事。貰ったプレゼントのお返しに、何なら喜んでもらえるかなって考えたこと。一緒に歩いた事。目を見て話した事。

全部全部に恥辱を感じる。



「あぁ、なるほど」


濡れた窓に揺れる泳ぐシルエット2つと、自分の感情を理解した。


僕は恥じていたんだ。

過ぎ去ればこの程度の感傷に、僕を曲げて費やした事に。

普段ならば入らない店、言わない言葉、しない態度。

その全てが、吐き気がするほど悍ましい。


ごめんよ僕。

君を蔑ろにしてまで、手に入れるものじゃなかったみたい。

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