俺がドラゴンでVtuberになったわけ
「……へ?」
鏡を見た俺は思わず呆けてしまった。
そこにいたのは二頭身の黒いドラゴンっぽい生き物。
今の自分の姿だ。
「あっちゃ……失敗したか」
世間では幻想の産物だと言われている魔術を使える俺は、たまたま見つけた竜化の魔術を興味本位で発動したのだが、結果はデフォルメなドラゴンになってしまっていた。
「仕方ない。解除するか」
そう思って術式を解除しようとしたのだが……変わらない。
「……は?」
鏡を何度みてもデフォルメなドラゴンのまま。
その後何度試してみても、人間に戻ることはなかった……。
「はああああ!!!?」
そんな事件から数ヶ月。
なんだかんだで俺はデフォルメなドラゴン姿に慣れていた。
術式を詳しく解析したところトラップがあったらしく、存在そのものを竜へと変化させるものだったようで、存在が人間ではなくなってしまった俺は人間に戻れなくなってしまったようである。
なお、デフォルメな理由はよくわからなかった。
「ま、幻術が使えたのは救いだったな。人に見せかければ生活はできるし」
人の認識を変えるものでなく、見える景色そのものを変化させるタイプなので、人に触れるときだけ気を付けていれば問題はなかった。
だが問題が一つ。
「継続させとくの、地味にキツいんだよな……」
世間では魔術はもとより、ドラゴンすら幻想の産物。
故に外に出ているときは常に幻術を使っていなければいけない。
それほど魔力をくう魔術ではないのだが、長時間になるとさすがキツい。
だからこそ、デフォルメドラゴンになってからは外出が減っていた。
「何かいい方法はないもんかなぁ……」
そう言って気まぐれで買ったパソコンでネットサーフィンをしていたそんなときだった。
とある動画投稿サイトに出会ったのは……。
「……ん? ブイチューバー?」
気になって見てみると、そこにはいろんなVtuberがいた。
普通の人間はもとより、天使や悪魔、ケモミミを生やした獣人、動物から何が何やらわからない謎生物まで……。
そんな存在が雑談したり、歌ったり、ゲームをしたりと思い思いのことを配信で行っていた。
「……これならいけるんじゃ?」
自分の姿は変ではあるがドラゴンで、数多くいるVtuberの中に紛れてもそうおかしくはないだろう。
パソコンもあるし、少し機器を買い足せば配信もできる。
サムネイルとかのデザイン力は……まぁ後々なんとかなるだろう。
そこまで考えたら、もう決意は固まっていた。
「よし、やってみるか!」
「どもどもー!デフォルメブラックドラゴンの黒河竜也ですー!!」
こうして、俺の配信活動が始まったのである。
「ん? ……また面白い可能性が出てきたな」
黒河竜也がいる世界とは違う……もしかしたらというイフの平行世界の一つ。
その姿は人だった頃の竜也の姿に酷似していた。
彼の名は黒河焔也。
竜也のありえた可能性の一つであり、数多の平行世界を観測できる特殊な能力を持つ存在だった。
「何かあったの焔也さん?」
「あぁ、どういう可能性を辿ったのかドラゴンそのものの姿になった俺がいてな。しかもアルテルムをデフォルメしたような感じで」
「えっ!?」
傍に寄り添った女性に愉しげに話す。
竜也が変化したドラゴンも知っているようである。
「それ大丈夫なの?」
「別に危険性のある世界じゃないしな。たまたま異能力をもってしまっただけの可能性みたいだし。動画投稿なんてやるらしいから精々楽しませてもらうさ」
「もう……程ほどにね」
それは数多の可能性の一つ。
デフォルメブラックドラゴンとなった黒河竜也はどのような道を歩むのか……。
それはまだ誰も知らない。