表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

77/78

74話 甘く輝く黄金の日々

すりぬけでラッコ鍋ーーおのれぇ


「……本当にメディクさんは不思議な人ですね」


「ん? そうか? だいぶわかりやすい単純な人間だと思うけど?」


 フィーユが急に俺の方を見て言い出したが……俺が不思議ねぇ。いやちょっと前世の知識があるがそれ以外は極々平凡でわかりやすい人間だと思うがな。それこそ前世の頃だって周囲に掃いて捨てるほど俺より優れていたり突き抜けている奴らがいたし今だってそこは大差ないしな。


「いえ……全然単純じゃありません。渇き病や今回の病気……いえ、初めて会った時の図書館のタグ付けの時からここではない何かを見てきたかのような視点をもたれてますし……」


 本当に鋭いなぁフィーユは。いや、鋭いというよりも最近の俺は……あの時図書館でフィーユと出会ってからの俺は今まで誰にも教えることがなかった、教えまいとしていた前世の知識を出すことに抵抗を感じなくなってフィーユにずっと見せてきたから、かな。

 誰かに見せることはしてはいけないと思っていた。知られたらただでさえ存在自体が厄介者の俺の居場所は無くなるんじゃないかと思ってた。それで何かをなすことはただのズルではないかと、どこか後ろめたく思っていた。

 そんな思いを完全に断ち切って前に進む勇気と進まなきゃいけない義務をくれたのは婦長だ。誰かのために使うことを決めたのはレティシアが大火傷をした時で、学問として最初に評価をしてくれたのはシャルロットで、使うことを受け入れてくれたベアト。

 だけどそんな義務とか使わなきゃいけないという危機感や価値とかではなくただ純粋に俺の前世の話や知識を、もちろんそのままのものではないがそれを受け入れて楽しいと言ってくれたのは……思いを共感してくれたのはフィーユだ。

 そんなフィーユがいてくれたから、俺は婦長に認めてもらえるくらい前に進めた。フィーユが支えてくれたから、俺はレティシアに負けないように立ち向かいシャルロットが見出してくれた。フィーユが後ろにいてくれたから、俺はベアト達のために提案をすることができた。フィーユが一緒に進もうとしてくれたからコレラに立ち向かう時も勇気が湧いてきた。

 うん、あの時フィーユと図書館で出会えたから今の俺があって、こうして一緒にエスパガルの街を歩いているし、第二の人生をくれたこの世界に恩返しもできているんだよな。


「……どう、しましたか? 急に黙られて……そ、そのひょっとして、お気に障りましたか?」


「いやいや、そんなことないぞ。ただちょっと、フィーユと図書館であってからこっちに来るまで色々とあったなって思い出しただけだから」


 おっと、やばい。自分の考えに集中しすぎて黙り込んでた。


「そ、そうでしたか……た、たしかにそうですね。まだあの日から半年も経っていませんが……これまでの日々の思い出を綴るだけで一冊の書に出来そうなほど、いろいろなことがありましたね。メディクさんと出会う前図書館の中でただ書と字の海に浸ることが日常だった頃からは、想像することすら無理なことばかりでしたから」


「なんというか、すまないな。こう、色んな事に巻き込んでしまって」


 平和で静かで落ち着いていた日々を俺が完全にぶち壊してしまったわけだからなぁ。日常クラッシャーにもほどがあるだろ。


「い、いえ。そ、そのた、たしかに色々とあって私の日常は大きく変わってしまいましたが……その……それが嫌だとか不快というわけではなくて。むしろその、逆で……学院の図書館にいるだけではわからなかった知らない世界に……連れてきてもらって嬉しいですから」


 あ、やば……めっちゃその言葉と笑顔はキュンとズンっとくる……これはんそくでしょ……なんかもう顔熱くなってきた。うん、合わせて四十年は生きてるのにちょっと我ながら恥ずかしい……


「そ、そういや前にもそんなこと、言ってたな……籠っていたらわからないことを教えてくれたとか、すぐそばにいる物語の人みたいとか……」


「ええ……メディクさんといるとその……私自身も物語の登場人物になれたかのような気がして……その、すごくワクワクドキドキして……」


「そう言ってもらえると嬉しいな。しかし俺が主役の物語の登場人物となると……フィーユの役目はヒロインか?」


「ちゃ、茶化さないでください! わ、私はその、ひ、ヒロインとかそういう柄ではないかと。よ、良くてその……も、物語の主人公やお姫様に力を貸す魔女とかそ、それくらいの地味な立ち位置でひ、ヒロインとしての魅力に欠けるかと」


 おいおい、シンデレラの魔女がお似合いだとでも言いたいのか? いや、魔女衣装は似合いそうだけどでもそれはちょっと違うと思うな。


「たしかに俺はフィーユに力を借りまくって今ここにいるけどフィーユを脇役だとかただ力を貸してくれる人とか思ったことはないな。少なくともフィーユがいてくれなきゃここまで来れなかったし、俺が評価されていることのほとんどはフィーユがいてくれるからこそだし」


 傷痕を消すことはまぁ俺だけでもできたが、それ以外のことについちゃ説得力をもたせ周囲を納得させ、将来普及していくだろう形にできたのはフィーユが書字魔法で数字という問答無用の形にしてくれたからだしな。そしてなにより……


「だいたい、脇に置いとくにはちょっとフィーユは魅力的すぎるしな。ヒロインとしての魅力が足りなかったらいったい誰がヒロインになるんだよ」


「〜〜っ‼︎」


 おお、フィーユの顔が耳まで真っ赤に。ちょっと前に出過ぎだか? でもまぁ実際その通りだから仕方ないよな。


「しゃ、シャルロットさんとかカタリナさんがここにいたら怒りますよ……ヒロインは自分だって……特にカタリナさんはメディクさんに求婚してる、といいますか婚約を確定させようと必死なんですから」


「ああ、劇だなんだで……でもカタリナには前に言ったがまだまだブルロワを離れるつもりはないからな」


「ですが……カタリナさんがそれくらいで諦めるとは思えませんから……こう、 心配といいますかなんと言いますか」


 いやまぁたしかにフィーユには言えないけど最近のカタリナほんと隙あらばこちらを誘惑してくるからこうやってちゃんと言っとかないと流されそうになるからなぁ。前世が日本人だからか押しに弱いところあるし、俺。あんな美人に迫られたらヘタれるよりも流され気がついたら墓場に直行便なんてありえすぎる。

 舞姫るには俺のメンタルの強さも経験値もたりてないし、だいたいカタリナが大人しく舞姫られるはずがないんだよなぁ……


「ま、まぁうん。とりあえずカタリナ達のことは置いておこう。今日はフィーユと出かけられる貴重な日なんだからさ」


「そ、そう、ですね。ようやく、時間がとれてメディクさんと大エスパガル図書館に行けるのですからね。カタリナさんにもらった紋章を見せれば本来入れない場所や本も……それこそ“黄金の書”までみせてもらえるとのことですし」


 よし、話が変わった。でも実際こっちきて初めてフィーユと二人で外出できる貴重な時間。散々手伝ってもらったお礼の日なんだからこうするほうがいいよな、うん。そう思っておこう。


「黄金の書、か。エスパガルに来る時にもフィーユは言ってたけど、たしか誰も読むことができてないんだっけか」


「はい……書名だけが伝わっていて、誰一人解読することができた人がいない謎の言語で書かれた本で……大エスパガル図書館のシンボルとまで言われている書です


「いったい何が書いてあるんだろうな」


「色々と想像ができてそれこそ一国を支配できるような魔法が記されているという伝説すらあったりしますが、メディクさんはどんなことが書かれていると思いますか?」


「そうだな。この手のお約束なのは触れたもの全てを黄金にできる魔法だとか黄金を作ることができる特別な石の作り方とか……フィーユは?」


「私、ですか? そうですね……では、メディクさんがいうものとは逆に個人の日記、その人にとって一番素晴らしかった思い出の日々を綴ったというのはどうでしょうか」


「黄金の日々の回顧録、か。ああ、いいな。そういうのも素敵だ」


「読めないからこそ、想像が膨らみますね。いったいどんな書でどのような字で記されているのか……それだけで楽しみです」


 はは、フィーユが本当に楽しそうでなによりだ。しかし黄金の書か、いったいどんな本なんだろうな。まぁフィーユほどの興味はないが退屈はしないですみそうだ。 




 なんておもっていたのに……これは……やられた、というかこういう展開は流石に予想してなかった。


「……メディクさん? どうされました?」


 なるほど、たしかにこれは黄金の書だ。納得するしかない、なんせ表紙にはっきりと“黄金の書”と漢字で、日本語で書いているのだから。

明日でエピローグで4章はしめとするよていです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ