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69話 善行なれども施しにあらず

おくれてもうしわけありません!

「メディクさん?」


 フィーユが意外という声をあげたのは普段の俺なら条件だなんだ言わずにすぐ動くのに、と思ったからだろうか?

 確かにそうだな、普段というか今までの俺ならすぐ動いた。ただ、それはフィーユと一緒に関わった案件がコレラだったりあるいはデータをとることそのものが有意義だったりするからであって、今回は少々事情が違うからな。


「まず、全員の分を綺麗に治せるかはわからない。見ての通り俺はまだ学生でそこまで経験を積んでないからな。その上で今の俺ではまだ無理という人には……」


 ふむ、顔を見せている代表の人もそしてそれ以外の人も承知しているという空気だな。いいだろう、なら最後まで言うとするか。


「治せるかもしれない方法でまだ試していない方法があるにはある。ただ、失敗したらよりひどくなる可能性まである。それでもいいっていうならその方法を試してもいい」


 俺が普段やっているのは傷痕に対してもう一度丁寧に回復魔法をかけ直して皮膚を再生させるという手法。これだけでも雑な治療しかされておらず、まだそこまで時間がたってない傷痕には効果がある。

 だが、もっと効果がありそうな王道というかお約束というか実際に形成外科でやっているという手法を回復魔法とあわせてやる手があるんだが、爺や十九小隊の皆にも試せなかった色々と際どい手法なんだよな。

 正直、俺も試すのはためらいがあるというか色々とハードルが高いんだが、リスクがあってでも治したいというなら試して見る価値は十分にあるだろうな。


「……その方法で治る可能性は、本当にあるのですか?」


「ある、というか治る可能性のほうが高い。ただ色々とキツイ治療なんで簡単には行えない。悪化するリスクもあるし、それ以外にも色々とな」


 勝算もなく試そうとするほどマッドじゃないからな、さすがに。勝算だけで試すほどマッドでもないが。


「これが前提条件だな。その上で、もし傷痕を消す治療を受けるというならタダではやらない」


「……お金、とるんですか」


 おっと、フィーユが意外そうな顔をしてるな。うん、金については今まで頓着してこなかったから予想外なんだろうな。でも……


「これが慈善事業というならタダでもいい。でもここは商人の町であるならタダでするのはお互いにとっていいことじゃない。ちゃんと対価をもらう、そのかわり責任をもって治療を果たす」


 婦長の言葉だが“構成員の自己犠牲のみに頼る援助活動は長続きしない”というのは実際その通り。現場を知り、そして奉仕の精神の重要性を知っているからこそ同時に善意だけで医療は成り立たないことを知っていて、だからこそ赤十字に反対してたんだよなぁ。

 それにタダっていうのは心理的なストレスが以外にあるんだよな。目に見えない貸し借りやら恩義やらが溜まっている気がしてこう、な。それが普段から金を扱う商売関係の人だったりしたら尚更。

 それを考えるときっちりと代金を請求して心理的な負担を減らして、その上で責任をきっちりと背負ったほうが両方にとって絶対にいい。


「……たしかにそれはその通り。タダで施されるよりはそちらのほうがいいのですが、その……我らに金銭的余裕は」


「料金については事前に設定して書面に残す。そして今すぐ前払いでとはいわない。ちゃんと傷が治って再就職できて生活が立ち直ってからカタリナに分割で無理のない範囲で払ってくれればそれでいいし、利子もとるつもりはないな」


 うん、さすがに搾取されていたって人に対して前払い要求するのは無理っていうもの。そして後から料金を設定するのも外道としか言えない、そんな悪徳商法したら間違いなく婦長に“教育”されてしまうし、かの黒い医師ですら治療費は事前に設定しているくらいだからな。


「……そこまでしてもらうとそれはそれで条件が良すぎて怖くなるのですが」


「良すぎるというか誠実であろうとしたら自然とこうなるってところだな。治療した結果生活が破綻したとかなるとなんのために治療したんだってなるし」


 とあるお米の国なんかじゃ破産理由の過半数が医療費という現実があったけど、それをこう自分の手でやりたいかってなるとさすがにな。

 それに搾取を抜け出すための治療で新たな搾取を生み出すのも精神的にキツイし本末転倒でしかない……誰かを破滅させた金で食べる飯は俺には不味いからな、うん。


「カタリナもそれでいいよな」


「いいも悪いも、そこでアタシがあれこれ口に挟んだらそれこそ野暮ってもんだろ? 口利きこそしたけど治療するのはアンタだし……ドランみたいなろくでなしにはなりたくないしね」


 うん、ここで躊躇わずにそう言えるのはさすがだよカタリナ。もしここで躊躇ったりぼろ儲けできるのにとかぐちぐち言うなら協力しようとはとても思えないからな。

 いや、そもそもそういうこと言うようなら最初っからシャルロットと友人なんて

無理だし、手駒として利用されるだけになるよな。


「それじゃ決まりだな。さて、こちらからの条件はこんなところだが……どうする? 不満っていうなら今帰ってもらってもいいんだが」


 誠意としてきっちりと全部話したわけだからこれで納得できないなら無理することはないんだが……誰も動こうとしない、か。

 それだけドランの搾取がひどいのか、傷が消せるということが魅力的なのかあるいは両方か……どちらにせよ、この人たちは覚悟を決めて前に進もうとしているわけだ。なら、俺もそれに答えないとな。ただまぁ……


「わかった。ただ本当に覚悟してくれよ……相当に荒っぽい治療だからな」


 念押しだけはさせてもらおう。本当にえげつない治療になるからな。


「構いませんよ、それでも傷が治るというなら……顔を洗うたびに思い知る日々からおさらばできるなら」


「……なら早速治療といくか。カタリナ、今からいうものを用意してもらえるか? それから、レティシアを起こして清潔で……周囲に誰もいない場所の準備も」


 今すぐできることは今すぐやろう、それが大原則。少しでも遅くなると、それこそドランにバレて動きにくくなるだろうし……情報が漏れるリスクもな。


「い、今からかい? いや、それは助かるけど……場所まで変える必要があるのかい?」


「いったろ、荒っぽい治療になるって……ここでやると少々目立ちすぎるし、できれば今夜中に全員終わらせておきたいからな」


 俺の言葉にカタリナも、そしてこの場にあつまった面々も動揺しだしてるが何か変なこと言ったか? 


「……私の仕事は、傷痕の記録を残すことですか」


「話が早くて助かる。そうしてくれたら後々のためになるからな」


 うん、そんな中でもフィーユはいつも通りでいてくれて助かる。記録を残し共有することの大切さを本当にわかってくれている。

 でもちょっと……うん、ちょっとだけ気になることがあるんだよな


「……金のことを言い出すなんて物語の主人公らしくないし、ちょっと失望させちゃったか?」


 フィーユは前に俺のことをすぐそばにいる物語の主人公、と言ってくれた。そんな彼女にさっき見せた姿勢がどう見えるか、ちょっとだけ気になってしまう。

 決して間違ったことは言ってない、俺の中の筋は通したつもりなんだが……それでも、こう、カッコつけたい相手にどう見えたかってのはこう、な。


「……そう、ですね。ちょっと意外ではありましたが……失望はしませんよ」


「本当にそうか?」


「ええ……誠実であろうとしていることは、よくわかりますから……むしろその、ただただ善意だけの人よりも……近く感じられました」


 ……よかった、失望はされなかったか。ならもう怖いことはないな。さぁて、張り切ってやるとするか!


明日はなんとか時間どおりに投下できるよう頑張ります……

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