68話 バチバチバトル
遅れながら投稿します……婦長配布やったー! 婦長はとても尊敬してますし楽しみです
「ちぇー、野暮だねぇ。せっかく未来の婿とヨロシクやろうって時に邪魔するとは」
「……させません、そんなこと」
ぞっとするほど冷たい声が響いたってのにずいぶんとお気楽というか、悪戯が 見つかった子供みたいなこと言うんだな、カタリナ。
しかしもうちょっと遅かったらやばかった、うん。まだセーフ、いろんな意味でセーフなタイミングだった。あとちょっと遅かったらどうなってたかほんとわからなかったからなぁ……ということで勘弁してくれないかなぁ。
「へぇ、どういう権利があって邪魔するっていうんだい? アタシはちゃーんと将来婿になってくれって責任をとるつもりで迫っているってのに」
あの、普通こういう時責任取るのは男側では? 特にこの世界まだ家父長のあれやこれやが強いんだから。嫡男なのに家を継ぎそうもない俺が言っても世話ないけど、逆に俺がこんだけ馬鹿にされるのはそのせいもあるんだしさ。
「……シャルロットさんに、頼まれてますから。メディクさんがそういう過ちを起こさないように気を付けろって」
「留学の出資者の言うことは絶対ってか。んじゃ今回の費用はアタシが全部だすから黙っていてくれないかい? いやなんなら倍額だそうかい?」
「そ、そう言う問題ではありません。じ、仁義の問題と言いますかなんといいますか」
「ふぅん、まぁ確かに約束を守るのは大事だよ。商売だって契約をお互いに守るから成り立つんだしそこを違えるのは商売相手としちゃ論外だし……でも、人の恋路を邪魔することが果たして正しいことなのかねぇ?」
「こ、恋路って……あ、あなたのはだ、打算が」
「うん、それは否定しないよ。でも同時に本気なのも否定させないよ。そのあたりも全部込み込みでああコイツとなら一緒に人生を過ごせば楽しそうだし絶対後悔しないなって思ったから全賭けしてるんだからさ」
お、おおう……毎度のことながらカタリナはこうど直球ぶつけてくるからこっちのほうが照れるというかなんというか……でも流石にこう、ぐっとくるものがある。
「だいたい、ブルロワよりエスパガルのがメディクには向いてるんじゃないかい? ここじゃ一部のバカ以外は生まれだけであれこれ考えないよ? それで有能な人材腐らせるほうがバカだからね」
「そ、それは……」
うん、たしかに。全体的にみて俺が評価されやすいのはブルロワよりはエスパガルだろうな。ブルロワじゃどこまでいっても失格嫡男やノワル家の失敗作って評価がついて回るし。
だからまぁ、このまま激流に身を任せてカタリナと一緒になるのも悪くない、というかむしろいいことなんだろうな。ここまであけすけに好意をぶつけて貰えて嬉しくないわけじゃないし、美人でぐっとくるし。ただまぁ……
「とりあえず、カタリナもフィーユもこのあたりでな。もう遅いしあとカタリナ、俺はなんだかんだで生まれ故郷を離れるつもりはまだないぞ? 理解者って意味じゃフィーユやシャルロットがいてくれるしな」
うん、なんだかんだで故郷に愛着はあるんだよなぁ、やっぱり。理解してくれる人は他にもアーサー先輩やベアトもいるし。
ただ、権力ある理解者って意味じゃシャルロットがなんだかんだで一番だな。一番最初に俺のことを評価して好きにさせてくれているし、話していて楽しいしな。
「だいたい、フィーユも言ってたけど俺がここにいるのもシャルロットのおかげなわけだしこのまま帰らない、なんて不義理はダメだろ」
「義理堅いねぇ。でもそこはちゃんと話を通せばなんとかなる範囲だろ。なんならアタシから話をつけてもいいよ?」
「……こじれる未来しか思い浮かばないんだが。“喧嘩売ってるんですね、いいですよ。買いますよ、買いますとも! 貴方が泣いても殴るのをやめませんよわたしは”とか言ってさ」
「すごく……いいそうですね」
「シャルロットのことよくわかってるねぇ。うんうん、あいつなら確かに言うだろうしやるだろうね。でも、そこをなんとかするのがアタシの甲斐性ってやつでね。難しい商談ほど燃えるってもんさ」
かっこいいこといって笑っているけど、目が笑ってないと言うかなんというか……さっきよりこう目線が艶めかしいというかなんというかなんだが気のせいだよな? あーうん、きのせいだきのせい。
「……なんてね。ま、今日のところはこのくらいにしとくかね」
「……今日のところは?」
「ああ。とりあえず本気の売り込みのおかげで脈があることはわかったしね、うん十分十分」
「脈が? いやだから俺は」
「“まだ離れるつもりはない”ってことは離れるつもりがないわけじゃないってことだろ? 今回の留学が終わってシャルロットへのしがらみがなくなってからなら十二分にチャンスがあるってわけさ」
「……離れると決まったわけじゃありませんから」
「離れないと決まったわけでもないだろ? ま、未来のことはまた追々ってね。それにまだまだエスパガルにいるわけだしチャンスはいくらでも。いやなんなら今からでも」
おい、さっき今日はここまでって言ったしそもそもフィーユが目の前にい……
「おっと、残念。今日は邪魔がはいったかい。時間切れ。もう来たかー」
カタリナがさらににじり寄ってきたところでノック音が響いてカタリナの顔が艶めかしいそれから商人のそれに一気に戻る。
助かったといったところだが……どういうことだ?
「時間切れ? もう来た?」
「そういうこと。いやー予想よりもちょっと早く成果がでたみたいだけど……メディク、悪いけど今からもうひと働きしてもらうよ。ドランを揺さぶるために、ね」
服装を正したカタリナ、それから俺とフィーユが呼びに来た執事に案内された先、そこには顔を隠した男女が多数待ち構えている。
「この人達は……」
「我々はドラン商会に雇われている者です。ただ……」
俺の誰何にフードをかぶった人の先頭にいる人が代表して答え、そして……
「……このように、傷を負いドランで働くしかなく使い潰されている、ですが」
「これは……」
フードを外して晒した代表で話している人の顔には大きな傷痕がくっきり……これは、ひどいな。まともな治療を受けてたらこうはならないはずだ。
「……ドラン商会の仕事中の事故や客とのトラブル。なかにはあのバカ息子の八つ当たりで傷をつけられたものもいます。そしてそうやって傷を負った我らにドランはまともな治療を受けさせず、そして傷を理由に賃金なども……」
「……ドランを、やめようとは思わないのか?」
「商人ってやつは信用商売であり客商売、でっかい、それこそ化粧なんかでも隠せないようなでかい傷があったりするとできる仕事は限られるから、どうしてもね……」
たしかに顔の傷は大きな要素だし、事故した時の賠償金やらの障害度でも顔の傷はとりわけ大きく扱われる。人は見た目がほとんどと、そしてその見た目で 顔が占める割合となると、な。
「ええ、その通りです。我らを新たに雇ってくれる先などなくそれをいいことに使い潰されているのです……ですが、あなたさまはこの傷をなんとかできるかもしれないと、そしてもし消したければこっそりと相談に来いとカタリナ様から……」
……そういうこと、か。カタリナのやつ、ドランを内側から崩しにかかっていたのか。
まったく、人を使い動かすのがうまいというかなんというか。カタリナ、俺がこの話を聞いたら動かないはずがないと読み切ってやがったな。
ほんとやられたというかなんというか……まぁいい、このしてやられた感は不快じゃない。むしろわかってくれているって気さえする。ならば……
「……いくつか条件がある」
この流れに乗ってやるとするか。
続きはいつもどおり。明日はちゃんと時間どおりに……!




