66話 落ちこぼれにできること
fgoはしばらくお休み期間。来週本番かな?
「では、英雄の息子ではなくただのメディクとして私に何ができるのか? 残念といいますか当然といいますか、私は商売についてはずぶの素人です。ずっと商いの側にいて金銭と共に過ごしてきた皆さんと競えるほどでなく、カタリナの足を引っ張ることになってしまうでしょう」
少々おべっかが入っているがこれも純然たる事実だ。金銭との付き合い方はいかにお金が動く環境で生きてきたかというのが大きいからな。
お金を使うこと、扱うことに慣れている先輩は奢り方が上手だったし躊躇わずにいいと思ったものにお金を使えてたし、逆にそういうのが苦手だった先輩はひたすら使わず溜め込んでいたり、あるいはソシャゲのガチャ以外使い道が〜なんて言って散財しまくってた先輩もいたな。
「幸いカタリナも、私にそちらでの働きは期待していないとのことなのでそこで無様を晒さずにはすみそうですが……そんな私が彼女のためにできること、それは“彼女に美しく健康で長生きしてもらうこと”です」
「ーーっ⁉︎」
俺の言葉に参加者の何人もが、特に女性の参加者が反応する。予想通り食いついたな。なんせ美容、健康、美食は人にとって最も根本的で強い欲望だ。それはどれほど金を持とうが偉くなろうが弱まることはなく、むしろ金を持てば持つほど強くなっていって際限がない。
秦の始皇帝なんて最たる例だな。中華を初めて統一した英明なあの王が権力の次に求めたのが不老不死で、そのためにどう考えても飲めたものでない水銀を常用していたわけだし。
「私はブルロワの学院で回復魔法を主に学んでますが、こちらも才能に恵まれたとは言い難いですが幸いにも一つ、誰にも負けないことがありまして。それは幼少時より従妹のレティシア……ええ、ご存知の方もおられるようですがノワル始まって以来と言われる彼女の訓練をサポートしてきたことに由来します」
レティシアの名前でさらに多くの人間が反応する。まぁ父さんの名前が大きいほどそれを超える才能と評されているレティシアの名前は大きくなるし、父さんがあちこちの社交界に連れ出しているから知られているのは当然といえば当然だし、そんな実子以上に可愛がられ家を継ぐであろうレティシアの名を家を奪われるであろう俺が親しげに出すのは予想外ってか。
「世間では天才だなんだと言われる彼女ですが、私にとっては可愛い同い年の従妹なわけでして彼女が攻撃魔法を学び始めた時幼心にこう思ったのです。“レティシアの怪我を綺麗に治したい。痕を残したくない”、と」
そう、これは俺の回復魔法を学び続けてきた根本の一つ。医者になろうとしたから回復魔法に興味を持ったのは事実だが、それだけじゃない。この思いがあったから学び続けられたし、爺やの地獄のしごきにも耐えられた。
「魔法師、特に攻撃魔法師は訓練や戦いの傷痕は恥どころか誇りと考える文化がブルロワにはあります。ですが私はノワルの落ちこぼれだったこともあってかその考えはどうにも馴染めなくて、可愛い従妹の肌に傷痕は残したくない、残してなるものかと回復魔法を学ぶ傍らどうすれば傷を残さない治療ができるか追求しました。その結果……」
ちょうどいいところにあったフォークを手に取り、皆に見えるように掲げて掌に突き刺す。
刺すような、いや実際刺してるけど、痛みとともに血が漏れ出るが平静を装って傷口を軽く洗いそのまま回復魔法で癒す。すぐに痛みはひいていくし……
「このように、傷痕を残さない治療が可能になりました。もちろん全部の傷を完璧に傷を残さず治療ができるわけではないですが、それでも他の回復魔法師のかたよりは綺麗に治せるでしょう」
この世界には美容形成の概念はまだない、というかブルロワじゃ特に考えがシンプルだからな。回復魔法師は命を救うことが肝要とされてそれ以外は軽視されている。魔法師の傷は誇り、という文化はその副産物なのかもしれないな。
まぁだから、前世のおかげで美容形成について知っていてそしてレティシアのためにずっと独学で磨いてきた俺の回復魔法は綺麗に治すことにかけてはレベルがだいぶ上だ。
レティシアが火傷の痕を残さず済んだのも、それから十九小隊で実践した傷を洗浄して痕に残らない治療だってある意味この研鑽のおかげだしな。前世の知識と照らし合わせて回復魔法を使ったからこそできたことだ。
「ふ、ふん。それがどうカタリナの役に立つと? ただちょっと綺麗に治せるだけで何をえら」
「ええ、ただ綺麗に治すだけ。ですが、日常生活のちょっとしたことや不慮の事故でどこかしら怪我をすることがこの先あるかもしれません、皆さんでなくて皆さんのお子さんやお孫さんかもしれません。そんな時、私が積み上げた回復魔法が少しはお役に立てるかもしれませんね」
こいつは自分が怪我をしたこともなければ怪我をした人のことを考えたこともないんだろうな。ちょっとしたことで怪我はするし、痕は残る。もし顔に痕が残ったらそれを一生隠したり気にすることになったりもするしな。誰も彼もが魔法師のように傷痕を気にしないわけじゃない、ましてや商人ならな。
実際俺の話を最初はワイン片手に興味なさげにしていた参加者の少なくない数が真剣そのものの顔で聞いていて……何人かワインこぼして衣装を台無しにしているくらいだしな。
黙り込んだシャイロックはもうどうでもいいな。それよりも熱心な人たちに見てもらうとするか。
「とまぁこのように、純粋な魔法の才能で劣っている私は回復魔法そのものよりもこういった工夫や学術的なことを学んでおりましてこの国に来たのもその勉強も兼ねてです。そしてカタリナのもとでどのようなことが体に良いのか、悪いのかなども試させてもらっていてその結果……」
「ーーっ⁉︎」
俺の言葉にあわせてカタリナがずっと今日のパーティーでつけていた仮面を外す。ただそれだけ、それだけのことで多くの人が、それこそシャイロックを含めた多くの人が絶句し見惚れる。その顔……その肌の美しさに。
「ま、見ての通りってね。いやー、アタシも驚いたよ」
うん、驚いたのは俺もだからな。俺がしたのはごくごく簡単なこと。生活指導で睡眠時間をちゃんと確保させて寝る前の酒をやめさせたこと。
そして最後に“米糠の美容効果”を教えて治療のために絞り汁をとった残りで洗顔料を、それからついでに化粧水や入浴剤、あとヌカパックを作ってみたこと。
日本酒とまぜたりするのが本当らしいがあいにくないので水やパックは小麦粉と混ぜて作っただけの簡単なものだが……それでも効果は抜群、元がとんでもなくいいから目立つこと目立つこと。いやまぁもともと天然素材で手入れとかあんまりしてなかったらしいがそれにしてもこんなすぐ効果でるものだっけか? まぁうん、実際効果でたしこういうのは専門外だしそういうこともあるで済ましておくか。
「ちょっとメディクに教わったことを実践して、うちにあったもので作ってもらったあれこれを肌につけたらものの数日でこれだからね。どうだい、奥様方、すごいと思わないかい?」
そしてカタリナはにひひと笑いながら上機嫌で見せびらかしてるけど何も自慢ばかりじゃないからな。これだけ効果があった美容知りたいだろ? 知りたいならどうすればいいかわかるよね? という宣伝であり交渉だ。仮面で隠していたのも一番派手に宣伝できるタイミングを伺っていたからだしな。
美しくみせることの追求はそれこそ強く、それこそ日本でも白粉に鉛や水銀を入れて体がボロボロになっても使っていたくらいだしな、絶対に食いつくだろうし……さて、折角だからダメ押しもしておくか。
「美しい宝石やドレスは皆さまの美しさなどを引き立ててくれるでしょう。ですがあくまで引き立て。主役はあくまで身につけている人自身ですから。主役が本来もつ美しさを守り引き出すお手伝い、これが今の私にできることだと思います」
そう、美しいドレスや宝石も素敵だが同時に自分自身が美しくなることのほうがもっと好き。さぁ、興味があったらぜひこちらにどうぞってね。
美容は専門外なのですーー続きはいつも通りに!




