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62話 外道にして王道の手

またしても遅れて申し訳ありません……


「ここがオコメ畑、か」


「ああ。まだまだ実るのには至ってないけど、なかなかのものだろ?」


 脚気患者に対して食事療法を開始した翌日、カタリナに案内してもらってカタリナの米畑を見にきていた。

 俺としては米を作っている=水田のイメージがあるがどうやら水田については伝わってないのか、真似られてないのか普通に畑に米が植えられているだけで、手探りでやっているというのが本当なのがわかる。

 それでもエスパガルからそう離れていない場所に作られた一面の米畑はなかなかに迫力があるし俺の中の日本人魂に響くな。


「そうだな……黄金色の畑、うん。楽しみだな。ここでできた米を早く食べてみたい」


「はは、気が早いねぇ。まだまだ先の話だってのに、それに食べてもないのに略すとかどれだけだよ」


 おっと、しまった。ついつい米って。こっちではたぶん向こうでお米ときいたから間違って覚えてしまったらしいオコメが正式名称みたいだからな間違えないようにしないと。

 こういうところから疑念をもたれかねないしな。最近散々前世知識を使っているし今更かもしれないけどそれで油断するのはダメだろ、うん。


「……メディ兄がなんでそんなにオコメに執着かわからないなぁ。別にパン食べてればいいんだし、食べて病気になるなら食べないでいいじゃん」


 レティシア、それは正しい意見だけど日本人的にはダメなんだよ。前世の頃は意識しなかったけどやっぱ米と味噌って定期的に摂取しないと寂しくなるんだよ。

 ああ、味噌作りとか漬物作りも勉強しておきゃよかった。家事なんてそれこそルーで作るカレーとか、ちょっとした揚げ物とか餃子くらいしかできないしな。

 動画とかSNSで流れてくる美味しそうな料理を真似るくらいしかしなかった前世の自分が恨めしい。もうちょっと頑張ってたらそれこそ母さんの味も……


「……」


「……どうかされましたかメディクさん?」


「あ、いや。なんでもないよ」


「そう……ですか? なんだかすごく……悲しげというか寂しげな目をしていたような」


 鋭いなぁフィーユは。うん、ちょっとホームシックになってたな。もう帰れない戻れないと割り切ってたから思い出さないようにしてたのに……やっぱ米ってのは日本人にとって特別なんだな。あって当然というか空気というか、なくなって初めて気づくというか……

 て、やばいやばい。本気でホームシックこじらせかけてる。今はそんな暇ないんだし気持ちを切り替えないとな。


「そんなことないさ。それよりカタリナ、準備の方はできているんだよな?」


「ああ、そろそろ……」


 カタリナの声に応えるかのように、街の方から昨日カタリナを出迎えた従業員を先頭にゾロゾロと男たちがこちらに向かってやってくる。


「来た来た。ご注文通り集めておいたよ、食いつめて本当にどうしようもなくなってるやつら三十人ほど」


「そうか……ありがとうな、カタリナ。金も手間暇もかかることなのにのんでくれて」


「なーにいいさいいさ。未来の旦那がアタシの事業をうまくいかせるためなら

これくらい投資のうちってね」


「ほんとことあるごとにそれいうのな」


「言うだけならタダだしその気になってもらえたら儲け物ってね。さて、それじゃ提案者としての一言頼んだよ」


 うわ、カタリナがそのあたりもやってくれるかと思ったんだがそうきたか。まぁたしかに言い出しっぺは俺だし、そこもちゃんとやらないといけないってのもわかるがどう見てもゴロツキにしか見えない奴ら三十人ほどに対してか……ま、やるしかないか。

 大丈夫、背中のイラストに傷が残らないように上手に縫合する必要がある所で研修した先輩の教えを信じろ。舐められないように虚勢でも堂々とすりゃいいんだよ。


「えー、今回の件をカタリナから任されたメディクだ。皆さんは説明を受けたと思いますが今からしばらくの間ここで畑仕事をしてもらいます。加えて住む場所と食事、それから賃金も支給します」


 俺の言葉に連れてこられたゴロツキだちがザワザワと騒ぎ始める。たしかに、彼らのボロボロでいかにもな人相などをみるに、条件が良すぎると感じられるだろうな。

 その感覚は正解だ。これは慈善事業じゃないからな。


「ただし、いくつかの条件を守ってもらう必要があります。一、まず食事はこちらが支給するものをきっちりと食べてもらうこと。二、外泊の禁止。三、規程の期間を終えるまで脱走を禁止。四、作っているものの持ち出し禁止。これらを守れなかった場合は厳しく取り締まります」


 厳しく取り締まる、の言葉でゴロツキたちは失笑をもらす。まぁ俺は見るからに弱そうだしいくらでも誤魔化せるとでも踏んだんだろうな。

 ああ、うん。その感覚は正しい。ただこのまま舐めてもらったら困るからこっちもちゃんと対策を練っているんだよ。


「レティ」


「ん」


 俺の合図でレティシアが指をパチンっと鳴らす。ただそれだけでレティの背後から巨大な火柱が沸き起こ……え、火柱? 俺は派手に風を起こしてといっておいたんだけど……


「もしメディ兄を裏切って逃げたりやらかしたらあたしが許さないから。今この場にいる全員の魔力覚えたから余裕で追跡できるからね?」


 ま、まぁうん。いいか。完璧に制御されているみたいだし、ゴロツキたちも完全に凍りついてるし。風よりも威圧感抜群だしな、うん。


「メディクを舐めるってことはアタシに喧嘩を売ることになると思っときな! アタシは無駄な喧嘩は嫌いだけど、未来の旦那に売られた喧嘩を買わないほどアタシは温厚じゃないからね」


 カタリナも追い討ちをかけてるけどその内容はどうなんだ。いや、たしかに脅し文句としちゃ最高だろうがな……まぁうん、あとでいくらでも訂正できるしするから今はこのまま乗っかっておくか。


「大丈夫、皆さんをこき使って使い潰すつもりは毛頭ないですし、むしろ元気に働いてもらうためにやることです。きっちりと回復魔法師で回復もしますから安心して働いてください。食事もパンではないですけど三食きっちりだします」


 そう、三食パンではなく“米”をだして強制的に食べさせ管理する。これこそがゴロツキを集めた最大の目的で、正直米作りの仕事をさせるのはおまけでしかない。

 いや、もちろんおまけといっても後々の米の普及を考えると極めて大事ではあるが今回の主目的はあくまで米を食べることの安全性の証明なので主な目的は米を三食食べさせることのほう。

 ようするにこれは“実証の王道”である“治験”なのだ。人間に一定期間三食食べさせたが誰も病気にならなかった、すなわち“オコメは安全な食べ物である”何よりの根拠であり証拠なのだ。

 だから待遇も良くするし、同時に後がない“ゴロツキ”をかき集めてもらったのだ。逃げ場がある人間だと脱走のリスクが跳ね上がるしそもそも怪しげすぎると話にのらない可能性がある。

 でも普段食えてない人間ならそのあたりを飲み込んでくるし……かつての治験もそうだったというしな。

 本来の治験は動物で安全性を確かめてからだが……今回はそんな悠長なことをしている暇はないし、安全であることを俺は知っている。

 だから治験というよりはむしろテレビの健康番組の手法に近いかもしれないな。実際に実験したところこんな成果がありました! というな。

 まぁいずれにせよ米の安全性を証明するための王道の一手……さぁ、まだまだここからだな。

明日こそはちゃんと時間どおりに投稿できるよう頑張ります

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