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60話 前提条件

遅れて申し訳ありません……60話です。サンタ婦長……かつてのイメージである白衣の天使なルーラーか、それともバトルサンタか。どちらにせよ戦争ですよこれは


「あたしがやったのがバカの所業? いったいなにがバカだって」


「そのままさ。だってカタリナがバカの所業と称した例え話での行動、これは全部今回カタリナがやったことの例えだからな?」


「は? なにいってるんだいあたしはここま……」


 怒りに任せて否定しようとしたその語気がどんどん弱まっていく。ああ、うん。さすが、気づいたか。


「えっと……メディクさん? その私にはいまいち、理解が追いつかないんですが」


「ごめん、メディ兄。あたしも」


 そして商売に馴染みが薄い二人は気付かない、と。まぁ 無理もない。今回の例えはあくまでカタリナに分かってもらうためのものだからな。


「店というのを従業員の体、その収支を健康状態と考えてくれ。それでなんとなくだが想像はつくはずだ」


「お店が従業員の体……」


「ということはえーと……真似した繁盛店がオコメを作っていた現地の人ってこと?」


 よし、レティシアには通じたな。レティシアに通じたならあとは説明したらフィーユも、もちろんカタリナにも分かってもらえるはずだ。


「そういうことだな。カタリナはオコメを食べるにあたってその食事を真似たわけだが……本当に現地でこの病気は発生してなかったのか?」


「……その報告は受けてない。現地で交渉した相手からもオコメを食べて体調を崩すなんて聞いてない」


「あの……言いにくいのですが、騙された可能性は?」


「無いと思うよ? 現地にいったヤツの話じゃオコメを調理して食べるのが前提の厨房でどこをみてもオコメを食べてたって話だし……食べもしないものを畑で作るとは思えないよ」


 まぁ脚気が米食によるビタミン不足、なんて栄養学がわからなければ経験則でなんとかするしかないからあちらが騙そうとしたとは考えづらいよな。


「となると、それこそ現地ではこの病気は当たり前に存在しているのかもしれないな。故意に隠したのではなくて発生して当然だから一々話さなかった」


「……ない、とは言い切れないね」


「単純に見落としたのかもね。一々どんな病気が流行っているかなんて意識しないと見過ごしちゃうんじゃない?」


 街並みと一緒だな。いままで意識しなかったチェーン店の存在を知った途端、通学路にあることに気づくなんてあるあるだ。


「……他にも現地とここ、立地や生活している場所の違いからかもしれないね。なのに上っ面だけ真似ていた、まさにあたしが指摘した大馬鹿の所業じゃないかい」


 さすが、商売を絡めたら理解が早い。だが、それは間違っている正しくは上っ面すら真似られていなかったんだよ、カタリナ。


「そうだな。そしてこれは俺の個人的な見解だが……一番問題だったことは贅沢に外側を捨てたから、だろうな」


「……捨ててる部分がクビにした従業員ってかい。あんたの理屈ならそうかもしれないね。でも、捨てる一手間で味が大違い、同じものをどうせ食うなら美味い方ってのが人情じゃないか?」


「そうだな、それはその通りだと思う。どうせ食べるなら美味しいもの、売れるのはそっちだろうな」


 実際麦食は不味かったらしいからな。それこそ海軍で出されたそれをパンと一緒に食べずに捨ててたっていうし。まぁそのおかげで脚気対策のカレーや肉じゃがができたからある意味ありがたい話でもあるんだが。

 そしてわざわざまずいものをなんのメリットもなく買う人はいない。それこそ安ければ買うんだろうが……現状輸入品だから黒パンのが安いだろうしな。

 だから手間暇かけて付加価値をつけてその味を売り込もうとしたカタリナの判断は商人としては満点だったがいかんせんものがマズかった、というところか。

 まぁそれを踏まえてもしっかりと指摘しないと悲劇しか産まないから……残酷なようだがやるか。


「カタリナ、似たようなことをして大きな差がでた場合、違う部分を探すのがこういう時って一番大事だ。そして聞いた中で今回、現地でオコメを食べている人とこっちで食べている人の違いはそこだろ?」


「なるほどたしかに……大きな違いは、そこですよね。“現地でも滅多にやらない”ことを日常化したため齟齬がでた……話としても一番スッキリします」


「……たしかにそうかもしれない。けど、まずい状態でしか売れない食えないてなると間違いなく買い叩かれるし、わざわざ作ろうってならないんだよねぇ……」


 フィーユの言葉にカタリナは頭を抱えているけどまぁ無理もないよな。商人としては売れるものが大正義、栄養の考えがないとわざわざ商品価値を落としと、それこそ宝石の原石を加工せずに売れと言われているようなものだからな。

 でも普及ということを考えたら白米の美味さは武器になるし、白米を食べたらいけないなんて広まったら米食文化の未来をつぶすことになる。

 白米は美味しく安全に食べられるものだと証明しつつ、脚気の治療と今後そうならないように対策を行う。まったくハードルが高いなんてものじゃないな。

 それでも、手はある。ごくごくシンプルかつ基本に忠実で、そしてある意味とても外道な手が。


「カタリナ。一つだけ確認していいか?」


「……なんだい?」


「カタリナの俺への頼みはこの人たちの治療にオコメを食べても大丈夫と証明すること。そのためにできることはなんでもするんだよな?」


「ああもちろんさ! アタシに二言はないよ!」


「……なら、条件をいくつか飲んでもらえるなら俺はなんとかできると思う」


「条件、ね。いつもなら報酬はたんまりっていうところなんだけど……アンタは金で動くタイプには見えないけど」


「いや、金で動くぞ俺は。ただそれ以外も大事にしているだけで」


「どっちにしろ金だけで動かないのはかわりないじゃないかい。しかし金だけじゃだめとなるとあれかい? 女かい? アタシだけじゃ満足できないってかい? こんな美人で金持ちで尽くす嫁さんもらえるのにたりないってかい」


「ないから、そういうのじゃないから。そんなこと言ってたら協力する気がなくなるぞ」


 あと俺の背中と腿の肉もな! ギチギチいっててなんかもう痛いを通り越しつつあるぞ!


「ちぇ、なんだよ。アタシの婿になったらもっとこう強欲になってもいいんだよ。金も欲しい女も欲しい名誉も欲しい、欲しがる力は生きる力、成功への活力だよ?」


 その通りだがそれは制御できるなら、だけどな。そうでなきゃさっきのバカ息子みたいになるだけだ。


「そういうのが欲しくないわけじゃないが優先順位が違ってな。というかそれを優先するなら商人の道を歩むぞ」


 まぁ歩む選択肢はないけどな。婦長から任された仕事果たさないと死んでも死ねないし、フルボッコにされる未来しかないしな。

 それになんだかんだで、即物的な欲よりそういうことを優先させている自分が気に入っているしな。


「はは、そりゃそうか。それにそういうヤツなら婿にってそもそもアタシは考えないだろうね。うん、自分で納得しているならこれ以上は野暮だねぇ」


「そりゃどうも……それじゃ条件のほういってもいいか?」


「ああ、教えてくれよ。その条件ってのはなんなんだい?」


 真剣な、商人としての顔に戻ったなカタリナ。よし、なら言うとするか。どうしても必要なことだからな。


「一つ、俺はたぶんこの病気を治せるだろう方法も知っているしどうすればいいかも頭の中にあるが“なぜ“と聞かないこと」


「なんでだい?」


「うまく説明するのが難しいからさ、感覚的なことが主でな……」


 正直前世の知識という曖昧なものがベース、その出所を疑問に思われたら難しい。

 一応本を根拠にごまかしてはいるが、シャルロットがコレラの対処で俺がなにかしら抱えていると気付いていたしカタリナも気付きかねない、いやむしろ気づく。これほど勘に優れた商人ならな。

 だから先手を打っておく必要がどうしてもある。今までならそれは難しかったが……


「ただ、成果はきっちりとあげる、任せてくれたならな。根拠は……カタリナの勘と、“裏通りの英雄”の名前でどうだ?」


 コレラ対処で実績をあげた今なら、ゴリ押せる。いや、ゴリ押す

。今のこの窮地を脱出するためわらにもすがりたいカタリナにとってこの名前は無視できないはずだからな。


「……それを言われるとなにもいえなくなるね。無理に説明を求めたりぎゃーぎゃー騒ぐと、それこそアンタを買えといってるアタシの勘にケチをつけることになる」


「なら」


「……ああ、条件をのむよ。アンタがやろうとしていることにケチをつけないし深く追求はしない、それでいいかい?」


 よし。大前提はこれでクリア。ここからが本番だ。


実績はそのまま説得力なのです。続きはいつもどおりに

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