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6話 受け取れない厚意とかいてありがた迷惑とよむ

 うん、予想通りのことを学院長は言い出した。予期できていたおかげでノータイムで断ることができてよかった。こういう目上の人からの申し出って、先手を打って断れないとずるずる行っちゃうこと多いからなぁ。特に厚意からくる提案だと尚更。


「断る、じゃと? お、お主わかっておるのか? 儂が直々に稽古をつけるなどそれこそ王族相手でもなければありえぬ好条件じゃぞ」


「いや、その価値がわかっているからこそ断っているのですが」


「なに?」


 ノータイムで断られたのが流石に予想外すぎたのか学院長は声を震わせて正気を疑ってくるが勘違いしてもらわないように、それから遺恨を残さないように言うべきことは言っておかないとな。


「学院長はこの国歴代最高峰の攻撃魔法の使い手。そんな重鎮の貴重な時間を俺のような凡人の指導でドブに捨てるわけにはいきませんから」


 うん、考えたら誰でもわかることだよな。それこそあれだ、超一流の研究者に小学生のテストの採点をさせるような所業。無駄があるにもほどがある。


「い、いやじゃが儂なら誰もが匙を投げたお主の腕をなんとかできるやも」


 できるかも、か。うん、ありがたい申し出ではある。あるけど……


「祖父に恩があって指導して返してくださるというなら俺じゃなくてレティシアにお願いします。レティシアだって祖父の孫ですから」


 十年前ならともかく、今の俺には今更であり過分。豚に真珠なんだよな。なら、真珠は価値がわかる人間、身につけるべき者のところにないといけない。


「天才の指導をできるのは同じ天才か、その才能を磨くに足る研鑽と蓄積がある人だけ。そして学院長はその両方をもった稀有な人。石ころを磨く暇なんてないはずです」


「し、しかし。それではお主の評判は今のまま、いやレティシアの評判があがればより惨めに」


「それの何が問題ですか?」


 学院長は優しいな。俺の評判を気にしてくれるなんて。でも、正直今更すぎる。もともと上には上がいるのは慣れていたし、この十年で慣れるを通り越した。


「お主はその年でレティシアの踏み台になるのも厭わん、と。本当にそれでかまわんのか?」


「踏み台だなんて考えてませんよ。単純に時間あたりの成果を考えただけです。もちろんレティシアが可愛い従妹だからというのも否定しませんけど」


 たしかにレティシアは可愛いけどだからってチャンスやらなんやらを無償無条件で譲るほど俺はお人好しじゃない。

 でも今回のはどう考えても勿体無さすぎる。どう考えても俺に指導する時間と労力をレティシアに注いだらそのほうが大きい成果がでるに決まっている。同じ十倍するなら元の数字が大きいほうに、累乗だったら尚更だ。


「それにえっと……レティシアの名前があがればノワル家の名もあがります。俺の名前が下がったところでトータルで考えたらノワルにはプラスですしね」


 なんだかんだでここまで見捨てず育ててくれた両親にも、そして俺の世話をしてくれた爺ややそのほかの使用人にも感謝してる。そんな皆の利益になるなら俺がちょっと割食うくらい安いものだ。

 それに何も自己犠牲をしているわけじゃない。俺が多少割食っても家全体が富めば、そのおこぼれが俺の所に巡ってくるのは確定だしな。未来の不労所得のための投資と思えば割はいい。


「学院長、そういうわけですのでレティシアの指導の方よろしくお願いします」


 よし、言うべきことは言ったし帰るとするか。図書館の許可はもらえなかったがレティシアのことを頼めたし悪くない時間の使い方だったな。


「待たんか! まだ話は終わっておらんぞ」


 一礼してそのまま帰ろうとしたら学院長が慌てた声で呼び止めてきた。まだ話って何が……


「えっと、もう用事は」


「終わっとらん! そもそも、お主がここに何しにきたか忘れたか! ほんと、そういうところまでハデスに似おって」


 怒っているのか呆れているのか笑いをこらえているのか、学院長がなんとも言えない声でぶつくさ文句をいいながらなにやら書類にサインをする。


「メディク=ノワル、お主に特別図書館の利用を学院長ニコラ=レヴィの名において許可する……これがお主の許可証じゃ、持っていくがよい」


 そしてサインが終わったばかりの書類、図書館の利用許可証を俺にたいして差し出してくる。


「学院長、それは最初に不許可と」


「気が変わったわい。儂の指導をこうもあっさり袖にするようなやつが、軽々に書の呪文を試すとは思えんしの」


 ああ、そういや入館を厳しく管理しているのは貴重な書があるからと危険な呪文が記載された書がたくさんあって軽々に真似されたら困る、だったか。

 そして俺ならその真似をするほど馬鹿じゃない、と判断してもらえたわけか。顔も知らない祖父のおかげでもあるけど、なんだかんだで評価を目に見える形で示してもらえると嬉しいな。


「ま、儂に堂々と意見した親友の孫にご褒美じゃよ。儂の指導を拒否した分、それにふさわしいなにかをそこで得るといい」


「ありがとうございます、学院長」


 我ながら現金だが、久々に爺やとレティシア以外に褒められたからテンション上がってきたしやる気もでてきたし、図書館に行くか。



「どうぞ」


 で、許可証をもらったその足で先程拒否された図書館に舞い戻った俺を先程の受付さんが何も聞かずにもう一枚申し込み書類を差し出して迎えてくれた。

 いやうん、お気遣いありがとうございます。でもそれいらないんです。


「あ、大丈夫です。許可証もらってきましたから」


 苦笑まじりに俺は差し出された書類の上にもらいたてほやほやの許可証を重ねて提出する。


「――っ⁉」


 その許可証を見て、初対面からずっとポーカーフェイスだった受付さんが明らかに驚愕して体を硬直させている。ああ、やっぱ申請って厳しいし即日で許可が降りるものじゃないのな。


「失礼しました、許可証の方確認できました。どうぞお通りください」


 そして驚愕してもすぐに表情を戻してつつがなく入館を許可してくれる。うんうん、こういう時にすっと謝ってなにもいわずに手続きしてくれるのってほんとありがたい。こういう時あれこれ勘ぐられたり騒がれるとそれだけでやる気がそがれるしな。

 しかし、ここまでのことをしないと入れない、司書さんの感じだと本当に入れるようになるのが大変な図書館なんだな。

 どんな本があるのかワクワクしてきた。本は時に人生を変えることがあるし、俺の人生を変えてくれるような面白い本と出会えたりするかもな。


次話は14:10分ごろになります。まだまだ終わらせない……限度いっぱいまでいく……

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