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56話 バカボン襲来

遅れてすいません!


「アタシの爺様は商人になる前は船乗りでね。昔、嵐に巻き込まれたかなにかでたどり着いた先にあたり一面黄金の国があった、なーんてことあるごとに言っててね」


 カタリナに商会の本拠地に案内されながら、俺はカタリナから差し出された袋の中身……米についての話を聞いていた。


「親父はぜーんぜん信じなかったんだけどアタシはどうしても爺様が嘘やホラを話しているとは思えなくてね。親父が流行病でぽっくり死んでアタシが後を継いでからちょっとずつ準備を進めて……ようやく、それがこの前形になってその国へとたどり着いたってわけさ」


「そしてそこでこの穀物を見つけた、と」


「ああ。アタシは残念ながら商会の仕事があるから行けなかったけど、こいつは現地の主食で“オコメ”と呼ばれていてこれが実ったときはもう見事な一面黄金色らしくてね、爺様が言っていた黄金ってのはきっとこれのことだってピンときたよ」


「黄金でできた建物じゃなくて黄金色に輝く作物だった、と」


「そう言うこと。だから色々と面白い品もあったけど一番のお宝はこいつ、アタシの勘はそう言っていてだから現地でこいつを作っている奴を拝み倒してたり貢物をしたりして余っていたオコメや苗を売ってもらって今まさに挑んでいるわけさ」


 米について、そして祖父について話すカタリナの目は初対面から見せていたやり手商人のとでもいうかどこか隙を窺うような、値踏みするような目ではなくキラキラと純粋な、それこそ子供が将来の夢を話す時やオタクが自分の趣味を話すような

楽しくてたまらないという感じだ。


「それで、うまくいっているのか?」


「はは、こいつが中々難儀でね。いやー、現地から技術者ひっこぬこうと思ったけど上手いこといかなくてあれやこれやと手探りで真似ている状態さ。金も時間も人手もかかる、まぁでもだからこそ楽しくてやりがいもある。手間隙かかるお宝こそ愛おしいってね」


「それでお金を使いすぎて自分の商会を窮地に陥れていたらどうしようもないんじゃない?」


 レティシア、お前なぁ……いや、実際そうだけどカタリナにあたりきつくないか?


「はは、耳が痛いねぇ。いやでもあれだよ、ちゃんと投資した金額は身持ちを崩すほどのものじゃなかったんだよ? アタシは博打は好きだけど博打打ちじゃないから取り返しがつかなくなってからが本番なんていうつもりはないしね」


 あー、借金してからするギャンブルこそが本当の醍醐味とかいう奴前世でもいたなぁ……


「だとしたら……なんで商会が……」


「それはまぁみてもらったらはや」


「はっはっは! こんなところにいたのかカタリナァ!」


 カタリナの声を遮って妙にでかい声が響いてきて、カタリナの顔がさっきまでの楽しげなものから一瞬でもう苦虫を噛み潰したなんてものじゃないくらいきびしくなる。

 いやうん、人前で商人がその顔はどうなんだってレベルだがでもなんというか気持ちがわかる。声の感じだけでもうなんというか色々と察せるから。


「いやぁさがしたよ、我が婚約者! どこをほっつき歩いているんだい? 愛しい俺が食事の誘いに来てやったというのに!」


 カタリナのそんな表情を気に求めず声の主がドカドカと音をたてて近寄ってきたがその格好がなんというか悪趣味でしかないな、もはや。着ている服の生地は間違いなくこの世界でも高級品である絹だがド派手な原色使いまくりだし、ジャラジャラと金や宝石のアクセサリーをこれでもかってくらい身につけている。

 もう絵に描いたような成金というかバカボンというか、私大にもいなかったぞここまで露骨な金持ち趣味。せいぜい外車かスポーツカーにロレック……いや、それでも大概か?

 ともかくこりゃ間違いないな、こいつがカタリナが言ってたドラン商会のドラ息子だな。


「アンタに会うほど暇じゃないっていつも言ってるだろ。アタシは忙しいんだよ」


「忙しい? 君の道楽のせいで大変なことになっているのに良くいうよ。無駄な足掻きをしないで一日も早く俺のモノになって傅くのが一番大事なことってなんでわからないんだ?」


 これは話に聞いていた通りというかそれよりひどいというかここまで典型的なアホボンが本当にいるなんてな……いやうん、とにかくこいつの相手をするのは時間の無駄だし精神衛生上よろしくないな。


「カタリナ、そろそろ」


「おっと、そうだった。いや、悪いね。アタシは今から“アタシの婿候補”を案内しなきゃいけないからアンタの相手なんてしてられないのさ」


「はぁ!?」


 カタリナ、お前それは卑怯だろ……いや、気持ちはわかる、わかるけどここでそれを出すとか……いや、婿と断言しないだけましだし仁義きっているということか。まったくしょうがない……貸しだぞ。



「お初にお目にかかります。ブルロワよりきましたメディク=ノワルと申します。この度は」


「メディク=ノワル……ああ、あれか。ブルロワの英雄最大の汚点である出来損ない息子。なんだ、とうとう国にいることすら恥ずかしくなって逃げ出してきたのか? いやぁ跡継ぎでありながら才能がカケラもないってのはつらいなぁ」


 人の挨拶遮るってこいつ商会の跡継ぎのくせに礼儀ってものしらないのかよ⁉︎ でもまぁいい、これくらい想定内だ。


「……ご存知のようで幸いです。ですが幸いまだ放逐には至っておりませんで、この度はこちらにカタリナ殿のお世話で留学させていただくことになり、そしてその縁もあってカタリナとかような話がもちあがりまして」


「ははは、寝言は寝て言えよ落伍者。お前みたいな出来損ないがカタリナの婿? 笑わせてくれる。クズはクズらしく這いつくばっておこぼれだけで生きていろよ」


 ああ、うん。これはアレだ。クレソンの同類項というか上位互換といか、あいつのがまだマシまであるな。

 アレはまだ本人が一応優秀だし人として最低限の仁義は弁えていたしけどこいつはあれだ、そんなものカケラも持ち合わせてない。品性のない愚劣な金持ち、一番大嫌いなやつだ。


「そこの美しいお嬢さん方、こんなゴミ屑みたいなやつを捨てて俺と一緒にこないかい? お望みとあらばその美しさをより輝かせる宝石にドレス、そして最高の美食と素敵な夜をいくらでも」


「……相手に名乗らせて自分は名乗ろうともしないかたはちょっと」


「おっと、これは失礼。いやここでは俺の名前を知らない人はいないから名乗るってことをついつい失念していたよ。俺はシャイロック=ドラン。エスパガル一のドラン商会の跡取りでカタリナを妻とする男さ」


 ……うん、もうなんというか何も言えないなこれ。レティシアもフィーユも絶句している。いやうん、事実は小説よりなんていうけどここまでアレなのって本当にいるんだな。


「さ、名乗ったところで是非と……あっちぃ⁉︎」


 なんだ? まだ口説こうとしてきたシャイロックが突然絶叫して転がり回り出して……良く見たら煙でてるな。そしてレティが小さく手をあげてて……うん、よくやったなレティシア、グッジョブ。


「な、なんだこれ、なにが……あっつ、あっつ!」


「シャイロック、よくわからんないけど悶えてないで屋敷戻ったらどうだい? そんな無様に転がり回って服も台無しだしアタシはメディクもだけどブルロワから正式に留学にきたお客人を持てなさなきゃいけなくてね……それともあれかい? ドランはそれすら邪魔するのかい?」


「くっ……しょ、しょうがない。きょ今日のところはここまでにしておいてや……あっち! あっち!」


 無様に叫びながら全力で逃げ出すシャイロック。うん、捨て台詞までここまでテンプレだといっそ笑えてくるな。


「……すまないね、無様を晒して」


「いや、いいさ。なんというか……苦労しているんだな」


 あんなのに四六時中言い寄られて弱み握られて結婚させられそうとかかわいそうにも程があるな。


「メディ兄、全力で頑張ってアレ潰そう」


「ですね……さすがにあれは……」


 レティシアにフィーユまでいきなり優しくなっているのも無理ないな。


「いやうん、さすがにアレはない。カタリナがかわいそう……正直ここがブルロワならあのまま問答無用で燃やしてた」


「いやブルロワでも燃やすなって」


「そうですよ、レティシアさん。そういうのは良くないですよ……やるならちゃんと証拠が残らない形でやるか、生まれたことを後悔させるくらい徹底してやらないと」


 ……たまに思うんだけどレティもフィーユもちょっと過激すぎませんかね? 鎌倉武士じゃあるまいし面子汚してきた相手に対して殺すって選択肢が普通にでるのはどうなんだろう。


「はは、いやさすがシャルロットが送ってきただけあってただのお嬢さんじゃないか、うんうん。いいね、気に入ったよ」


 そしてこれを聞いて爆笑するあたりカタリナもなんというか……俺の周りちょっと強い女性多すぎませんかねぇ?


明日はちゃんと時間どおりに

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― 新着の感想 ―
[一言] 毎日更新お疲れ様です。いつも楽しくみさせてもらってます。 あのバカボンとお米の在庫をどう捌くかすごく楽しみなので、これからも頑張ってください。
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