55話 まさかの出会い
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「……何かトラブルを抱えていて結婚を申し込むのは控え目にいって、詐欺というものではないでしょうか?」
「はは、耳が痛いねぇ。いやまぁ、確かにそう言われたら騙し討ちとも言えるけどね。ただこちら側としても色々とあってだね」
フィーユの手厳しい指摘にカタリナは苦笑を浮かべている。まぁ確かに長期の信用を大事にするといっているカタリナにしてはトラブルを隠しているのはおかしな話だ。
「ちょいとあれでね。アタシは今さ、新しい航路に手を出していてね。その航路がまぁ今まで未開拓のそれなんだけどその分面白い品がどんどん入ってくるんだけど……ちょいとそこに力を入れすぎたのさ」
「新しい航路……無茶な鉱山投資でもしたのか?」
ああ、うん。すでに嫌な予感がするな。未開拓の新しい航路とか危険キーワードすぎる。
「いやいや、アタシは山師じゃないし鉱山になんか手をださないよ。手をだしたのは食い物さ」
「食べ物、ですか」
「そうさ。その航路から仕入れてきた新しい穀物、これがまぁとにかくうまくてね。しかも作るのはちょいと手間がかかるけど食うのは楽だし腹持ちはいいし、アタシの勘もこれはいいと全力で買ったんだけど……」
「うまくいかなかった、と」
「ああ。いざ売り出したところで色々とトラブルが重なって、そこをちと面倒なのにつかれてね」
「なに? 邪魔が入ったの?」
「ご明察。新しい儲け話にはハエがたかってくるのはよくあることだが、今回はドラン商会っていうケチで強欲で、自分さえ儲かれば周囲も客もどうなろうがしったことっちゃない最低最悪のハエがたかってきやがったのさ」
「最低最悪って、いくら敵だからってそこまでいうか?」
「いやもう最低だよ、本当に。従業員は契約やら弱みを握るやらで不当な条件で死ぬまで安くこき使うしまともな食事をやることすらないことだってある。そして女の従業員に関しちゃもうおもちゃ扱い、そこのバカ当主とバカ息子が揃って何人手籠にしてるかわかったもんじゃない」
あ、うん。聞いてるだけでドブラックにもほどがあるというか、まんま漫画やゲームの悪徳商会というか、越後屋ってるというか。
「それはその、どう考えても訴え出たほうが」
「クソ野郎だけど金と権力はもっているからね。なんせエスパガルを運営する中心商人の一人で、お偉いさんやお友達に金を握らせてるから訴えられようがなにしようがぜーんぶ揉み消せちまう」
なんというかもうコッテコッテでコッテコッテ、絵に描いたような俗物じゃないか。
「まぁそのクソ野郎がこっちのトラブルにつけ込んであれこれ騒ぎ立てたせいでこのままじゃせっかく仕入れた商品が売るに売れなくてね。おまけにその航路開発にちと資金をつぎ込みすぎて手持ちの金もやばいって状態で……そしたらあのクソ野郎がバカ息子と結婚しろ、だとさ。そうしたら融資してやるし商品捌くのにも協力してやるときた」
「それ、ていのいい乗っ取りじゃないか」
「そうさ! まったく、あんなクソったれどもにせっかく守ってきた商会と操をだーれがくれてやるかってんだ!」
なんか今さらっと重たいこと言われた気がするがきのせいだよな。うん、気のせいってことにしておこう。
「シャルロットに援助は……頼めるなら最初っから頼んでるか」
「そりゃね、それができたら楽だけどアタシはあくまでエスパガルの商人だからね。そこを弁えないとダチじゃいられなくなるからね」
シャルロットはブルロワのお偉いさんだからな。そこから資金援助、なんてされたら確かに色々と筋は通らないか。お偉いさんに異国の商人から援助ならまぁよくある話ですむんだろうけど逆はなぁ。
「……なるほど。ということはメディクさんの婿云々はその、ドラン商会との婚姻を断るために?」
「まーね。否定はしないよ。あのクソ野郎に捧げるより万倍いいし、断る口実にもいいものね。婿捕まえたから寝言いうなボケって」
ああ、うん。俺男として評価されてはいるのな。ただ比較対象が聞く限り酷すぎて素直に喜べないし……
「ただ婿云々までいったのはそれだけじゃないよ? さっきも言った通り勘でびびっときたのさ。全力で買い、逃すな、捧げて損はないってね。断りの口実だけなら部屋に誘わないし、そもそも婿候補のふりしてくれって頼むだろ?」
「……」
こ、これは。真正面からそんなこと言われるとさすがに心が動くというかぐっとくるというーーっ!
「デレデレ、しすぎです」
ふぃーゆさんこそつねるちからつよすぎです。いやこれはしかたないとおもうのですが、おれはわるくないんじゃないですか?
「はは、尻にひかれてるねぇ。これはたっぷり教育のしがいがありそうだ」
「なにを教育するのよ、なにを」
「そりゃま色々とね」
「……話を戻そう、な」
でないと俺の背中の肉がやばい。そのうちえぐれるんじゃなかろうか。
「おっと、そうだった。まぁこれがざっとあたしが追い込まれている窮地ってやつさ。それで……」
「そもそもの発端であるトラブルに俺の力を借りたい、ってところだろ?」
「はは、流石にバレバレか。ああそうさ。渇き病をなんとかできたアンタならなんとかできるかも、そういう打算ももちろんあるさ。このクソめんどくさいときにアンタらの世話役を引き受けたこともそれもあってさ」
「まぁそうだろうな……ともかく、案内してもらえるか? 俺の力を借りたいのはどういうことか、現場をみてみないと」
「メディ兄、本当にいいの? あたしは正直気が進まないんだけど」
「私もその……メディクさんを利用しようとする意思が見え見えすぎて、その」
おっと、レティシアもフィーユも手厳しいな。二人とも俺に気を使ってくれているんだろうが……
「いいんだよ、利用するのはお互い様。どうせしばらく帰れないわけだしカタリナに恩を売っておけばここでの滞在は快適なものになるだろ? まさか自分のために尽力してくれるっていう異国の客人を無碍にするなんてありえないよな?」
「はは、言うねえ。でもその通りさ。ここまで話を聞いて力を貸してくれようって客人を無碍にするなんてしみったれたことしたらアタシの名も信用も地に落ちるってもんだ」
「そりゃ助かる。力を貸す甲斐があるってものだ……それに、学生の俺に商会のトップが頼るくらい切羽詰まっているんだ。ここで動かず見殺しにしたら俺は自分が許せないからな」
対価を払う覚悟をもって助けを求めてきた救える人に全力を尽くさない、なんの因果かこちらの世界でも医の道を歩んでいる俺がそれをするのはダメだよな。
そもそも留学だって俺の見識を広め多くの人を救えるようになるためだし、そのために白亜亭だってやめたんだ。
「メディクさん……そうですね、メディクさんはそういう人、でしたね」
「ちょっとお人好しが過ぎると思うけど、メディ兄らしいか」
二人ともありがとうな。でも俺はそこまで純粋でも善人でもないんだよ。ここで逃げたら婦長の薬箱を叩き割ったパンチが確実に飛んでくるってのもあってかっこつけて退路を断っているだけだから。
「……なるほどねぇ、シャルロットが夢中になって手放したがらないわけだ。なんというかアンタみたいな男は初めて会うよ」
「そりゃどうも。それで、案内してもらえるか?」
「ああ、もちろん。あんたに直接見てもらったほうが話が早いし……おっとそうだ、その前にお近づきの印ってことでこいつを渡しておこうか」
わざとらしく前屈みになってカタリナが俺に小さな、綺麗な刺繍が施された布袋を胸と一緒に押し付けてくる。
「これは?」
「アタシの商会の紋章入りの小袋さ。アタシがこれをもっている奴を全面的に保証する証で、エスパガルでそいつをだしたらだいたいのことはなんとかなるはずさ」
「……ずいぶんと気前がいいな」
「ま、未来の旦那様とそのお連れにはこれくらいはサービスしないとね」
まだいうかこいつ……っと、てっきり布袋は空かとおもったら何か入って……
「ああ、中にはお守りがてら勝負をかけている穀物を入れておいたんだけど、それはそのままじゃ食えないから気をつけてな」
ああ、わかる。言われなくてもわかる。これは、これは間違いない。間違えるはずがない。もう何年ぶりかわからないが俺が、いや、日本人がこれを間違えるはずがない!
まさか、まさかここでこれに……米に出会えるなんて……
続きはいつもどおりに!




