54話 利益の追求
医者になりたい人に捧げたエッセイもよろしければーーメモリアルガチャ納税でまたダブり、24枚中8枚しかもってないのに3連続ダブりってなんなのー
裏通りの英雄、俺をそう呼ぶということはカタリナは俺が何をしたのか知っているということだ。
俺が裏通りでなしたこと、それを正しくしっているのはそれこそ当事者以外だとシャルロットやアーサー先輩、それから学院長くらいで国内でもほぼ知られていないのになんで他国のカタリナが……
「はは、そう警戒しないでもいいよ。別にとってくおうってわけじゃないからね。そうだね、シャルロットがあちこちからかき集めた塩を調達してやったのはこのアタシ……といえば安心できるかい?」
「カタリナが、塩を」
「ああ。アタシはこれでもエスパガルでも知られた商会のトップでね。シャルロットとダチなのもそれもあってお互い利用しあっているからってわけさ」
なるほどな。つまりカタリナはシャルロットの友人であり御用商人みたいなものか。世話役を任せるのも納得というか、エスパガルの商会トップに世話を任せるとかどれだけというか……しかし、なるほどこうなると。
「塩の動きから情報をかき集めた、ということか?」
「話が早くて助かるよ。物と金の流れはどんな噂よりも雄弁に真実を語ってくれる。塩は確かに生きる上で必需品、だけどその需要は安定していて急速に上昇することは滅多にない。なのにそれがあったのはなぜか? そこから物や金、人の動きを辿れば裏通りにたどり着くのは簡単さ」
たしかに、カタリナが言う通りだ。帳簿を見れば会社がわかる、なんてよく言われる通り金や物の動きというのはこれ以上ないほど情報が詰まっている。
塩が購入されて持ち込まれてから誰がどこに運んだかを辿っていけば裏通りには行き着くだろうし、裏通りで誰が動いていたかはそれこそ住民に小銭を握らせたり酒の一杯でも奢れば聞けるだろう。
「……言うほど簡単とは思えないけどな。自国ならともかく異国でとなると」
「何言ってるんだい。金に国境はないんだ。そして情報と金は仲良しこよし。あればあるだけいいし、むしろ集めようとしないで商人が名乗れるかってんだ」
見事、としかいえないな。さすがシャルロットが信用しているだけはある。こうも情報の価値を理解し、行動しているだけでカタリナが商人として優秀なのが伝わってくる。
「……そして集めた結果、俺が裏通りでなにをしていたか知ったと」
「そういうこと。欲得なく渇き病に立ち向かい勝ってのけたのはまったくもって胸がすく話さ。おまけにその功績でいくらでも名をあげられるし儲けられそうってのにそれらを蹴っ飛ばすのも痛快極まりない。アンタと一緒なら実に楽しく生きられそうさ」
カラカラと笑うそこに悪意はかけらもない。純粋に俺のことを評価してくれているのが伝わってくるし、カタリナの小気味よさもわかる。
いきなり求婚されたのはさすがにあれだが、こういう人俺は嫌いじゃない、というかむしろ好きだ。おまけにこれほどの美女ならなおさらな。
「ま、だからあんたの世話役をシャルロットに頼まれた時はこりゃ面白いぜひとも縁を結んでいい感じに商売をって思ってたんだけどいざあってみたら見てくれも悪くないし、身の上だって保証済み。止めにあたしの勘が全力で買えといってるならシャルロットが唾つけててもためらわないってもんさ」
「おいちょっとまて、シャルロットが唾ってなんだ唾って。そりゃ俺は立場的にはあいつの派閥の一員、になってしまっているんだろうがその言い方だと別の意味に聞こえるぞ」
「……それは本気で言ってるのかい? それともジョークか謙遜かい?」
「意味がわからないんだが」
「あーうん、なるほどねー。こりゃシャルのやつも苦労してるね。いや逆か、こうだからあいつもああなのか」
なにがこうでなにがああなのか全然わからないんだが……まぁうん、褒められてないのだけはわかるな。
「その……メディクさん、さすがにちょっとシャルロットさんがかわいそうといいますか……いや、気づかれたら気づかれたで面倒なのですが……」
「メディ兄、こういうところわりとひどいよね」
二人ともなんか俺を見る目冷たくないか? 俺何か悪いことしてるのか?
「はは、メディク。あんた結構というかだいぶひどい男だねぇ。というかひょっとしないでもあれかい? 経験ないのかい? ここはそういう店も盛んだしちょっくら練習もかねて連れて行ってやろうかい?」
「遠慮しとく。そういう店は好きじゃない」
カタリナがナニかとんでもないこと言い出したがそういうのいいから。ほんといいから。興味がないわけじゃないが、性病の勉強していたらちょっとその手の店はリスクしか感じなくて興奮よりも怖さが先にきてしまう。
だからそのフィーユもレティシアもつねるのやめて、本当にやめて。
「はは、そうかいそうかい。ま、下手に刺激を教えて身持ち崩されたらシャルロットがなにいってくるかわからないからやめておくか。それに女遊びが嫌いなのは婿にするにはもってこいだしね」
「婿にするつもりなのはかわりないのな……でも、商館のトップの婿は俺には無理だと思うぞ? 俺は商人になるつもりは」
「ああ、別にアタシはあんたに商いをさせようなんて思ってないよ。いや、やりたいなら鍛えてやってもいいけど銭は人を大量に、そして簡単に殺す。向いてないやつにやらせたら誰にとっても不幸でしか無いからさせようとも思わないよ」
「じゃあ、俺を婿にして何をさせようと」
「何をするのか決めるのはアンタだろ? アタシは婿たるアンタに生活を保証し金をだす。アンタはその金を使って好きなように、ここでやろうとしていたように勉強して病気について学んで調べりゃいい」
「伴侶っていうよりはパトロン……後援者だな。しかしなんでまたそんなことをするんだ? カタリナに利益はないだろ」
「はぁ? なにいっているんだい、あるよ利益。それも莫大な利益がね」
「どういうこと? メディ兄はお金儲けに興味ないから儲からないと……」
「いいかい? アタシはね、たしかに金儲けが大好きで損することが大嫌いさ。中でも一番大嫌いなのは目先の利益を優先しすぎて結果長期的に見れば損すること、そしてそれに気がつかないこと。例えば安全管理を怠って従業員や信用に傷をつけるなんて最悪さね」
信用が財産、安全管理の大事さ。うん、これだけでカタリナが優秀なのがわかる。このあたりに手を抜いたりケチったせいで結果大惨事になっている例なんて掃いて捨てるほどあるからな。
「そしてメディクが研究して何かの病気をそれこそ一つでも二つでも減らせたらそれだけアタシの従業員と顧客が減らずにすむし、メディクを見出し支援し支えたアタシの名もあがる。これほどアタシの信条にぴったりで美味しい投資が他にあるかい?」
「……俺が環境と時間があれば成果を出すと評価してもらえているんだな」
「そりゃね。渇き病に対処した実績、あのシャルロットがなりふり構わず囲い込んでる現状、そしてアタシの勘。評価しない理由はないよ」
コレラについては知っていたから対処できただけ。だが、それでもここまでいってもらえるのは嬉しくあるし、正直悪い話じゃない。
大富豪のパトロンでのあれこれは中世の学者や芸術家ではお約束だったからな。ましてや婿なら将来安泰、不労所得万歳! といってもいいところなんだが……
「そこまでいってくれるなら、わかった。“今あなたを悩ませていること“について話を聞かせてもらおうか」
「……なんだって?」
「評価してくれていることも俺を内側にとりこみたいこともわかった。けど、それだけなら婿になれ、じゃなくて金を出すから研究しろで済む話。なのにいきなり婿だなんだは俺をここに留めたい理由があるからだろ?」
「それだけあんたにピンと」
「それにこうもいってたよな。“勘を信じているし窮地に陥っても先がある“って。それはつまり、現状勘に従って窮地にあるってことじゃないか?」
まぁそれこそ勘、だけどな。でもいくらなんでもこれだけの美女で金も権力もある人がシャルロットに喧嘩を売ってまで婿だなんだいってくるのは勘だけですまない何かがあるはずだ。
「……やれやれ、まいったね。こうも見抜かれるとはアタシも焼きが回ったかねぇ」
ああ、どうやら大当たり、か。本当に優雅なバカンスどころじゃなくなりそうだな、これは。
続きはいつも通りに!




