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52話 予測可能回避不可能

おんせんしきにゃんーーしゃちょうーーどこーー?

 さてまぁそんなこんなで長期休暇に合わせて強制的に隣国に留学することが決まった。それはいい。費用やら手続きやらをシャルロットが手配してくれるとのことだし留年と留学なら留学のほうが絶対にいいのも確かだ。確かなのだが……


「なんでもう馬車に詰め込まれているんだよ俺は……」


 うん、学院長に留学しろと言われた翌日には、というか寝て起きたら俺は爺やの手によって留学先へと向かう馬車に乗せられていた。

 馬車の中で見せられた学院長の手紙によると、単位やらの帳尻あわせのためとせっかくの留学を少しでも実りがあるものにするため即日出立が必要だったから祖父とのつながりで知り合いだった爺やに協力してもらってとのことだが……これどう考えても俺の気が変わって留学取りやめられるのを防ぐためだよな。

 学院長も首がかかっているからってそこまでなりふり構わないでも留年と留学は比較するまでもないし、爺やもそこでノリノリで動かないでいいんだがなぁ。

 いや、うんそしてそれ以上に……


「メディ兄、何をそんなにぼやいているの」


「その……大丈夫ですか?」


 うん、目が覚めたら馬車だったのは良くはないがまぁ納得はしよう。だが、なんでその馬車に俺だけじゃなくてフィーユとレティシアまでいて、二人とも留学することになってるんだよ。


「いや……留学するのは俺だけかと思っていたからちょっと予想外でな」


「ああ、それ? それね、メディ兄は表向き実績はほとんどないからメディ兄だけを留学させると贔屓やズル、あるいはあちらを軽視しているようにも見えるし、あたしたちをまとめて送れば裏通りの件を留学の準備していたからでごまかせるって学院長言ってたよ」


「あとその……シャルロットさんが……“裏通りの功績者って意味ではあなたとレティシアちゃんもそうですしね! ここでメディク君だけ留学にご招待じゃさすがに不平等ですしあなたたちも留学してください“、と。費用もその……全部出してくださるとのことです」


 なるほどな。たしかに学院長が言っていることもシャルロットが言ってることも一々もっとも。俺の評価やら評判を考えると単独留学よりレティシアのおまけとしたほうが自然だし、二人にもご褒美の留学をというのは自然だよな。


「あとその……”メディク君を単独で送るとかマジでどうか召し上がってくださいってあちらに極上肉を送るようなもんなんでどうかそばにいて余計な虫をマイダーリンに寄せ付けないでください! というかほたってたらまーた女ひっかけてきますしそのガードもお願いします!”……とのことです」


 おいこらシャルロット。お前なんてこと言い出しやがる。というかフィーユに何いわせてやがんだ。学院長の時は悪趣味すぎだったがめっちゃ恥ずかしがってるじゃないか、顔真っ赤だぞ・


「フィーユ、律儀にシャルロットの真似しないでいいから。あいつのことだから”このまま完璧にマイダーリンに伝えてください! ええ、もちろんダーリンのところもですよ。え、恥ずかしい? 馬鹿野郎、普段絶対言わないような人に言わせるのがいいんでしょうが” ……とか言ってたんだろうけど」


「……あの、どこかで聞いていましたか? 本当にそのまま言われたんですが」


 本当に言ってたのかよあいつ。いやまぁわかるけどな、普段澄まし顔のフィーユを照れさせるとギャップでぐぐってくるの分かるけどさすがにいいぞよくやったもっとや……うん、やめよう。あいつの掌で転がされすぎになる。赤面フィーユ可愛すぎるのが悪いけど。


「なんとなくだけど察せるって。しかし女をひっかけてくるってあいつは俺をなんだと思っているんだ」

 

「ごめん、メディ兄。それに関してはメディ兄のフォローあんまりできない」


「そうですね……その……今回ばかりはシャルロットさんの懸念も最もすぎるかと」


 二人ともひどくないか?留学先で女ひっかけてなんて森鴎外じゃあるまいし。まぁ当時は舞姫の如く現地で愛人作って捨てて帰ってくるまでが留学の嗜みだったし、本気で結婚しようとして上司に強制連行されたとかあるから森鴎外を責めるのは筋違……いや、脱線しすぎだな。


「まぁシャルロットが何を考えているかはともかく、ハニト……留学生やらなんやらを囲い込み自国の利益を分捕りにくるのは警戒して当然ってやつか」


「そうですね……古来より良くある話、ですから」


 たしかによくあるからなぁ。日本の研修医の囲い込み運動だけでなく世界中でこの手の話はありふれている。


「そういう意味じゃ俺よりフィーユやレティのが不味くないか?」


「あたしは大丈夫だよメディ兄いるし、下手なことしたら父さんと叔父さんが出てくるし」


「……よく知らない殿方との時間と異国での貴重な書との出会いなら迷わず後者かと」


 あ、うん。よく分かった。確かに二人ともそういうタイプじゃないしレティシアは手を出した時のリスクが洒落にならないか。

 そう考えると一応嫡男だがアレでなにで女の影がない俺が一番取り込みやすいし、うまくいけばノワルという超名門の血と縁ができるというのは美味しすぎると判断されるわな。


「わかった、気をつけるとする……それでその、俺たちはどこに留学するんだ? それからついでにその国がどんな国かも教えてくれると助かる」


 敵を知り己をしればじゃないがどういう国に行くのかをしっておけば対策もできるし、それこそメシマズ国なら是が非でもすぐ帰ろうになるから警戒する必要も減るしな……留学先も教えず詰め込みやがった学院長たちの尻拭いをしてもらうようで心苦しいけど必要なことだしな。

 それに俺も一応他国の名前やらは勉強しているが今は俺たちが住んでいるブルロワのことや自分の周囲のことで手一杯だしな。


「私達が留学するのは海と商人の国エスパガル……ですね。世界中から船や旅人、商人が集まりどんな国のものであってもエスパガルでなら手に入れることができる、とまで言われています」


「そりゃまたなんとも栄えてそうな国だな」


「はい……事実凄まじい富を誇る国で……そのためか商人の力も代々強くブルロワと違って王ではなく有力な商人たちが集まって国を運営しています」


 なるほど、だから商人の国か。しかし聞いているだけで活気がありそうなのが伝わってくるな。色々と楽しいことも……


「そしてエスパガルの最大の魅力はなんといっても世界最大といっても過言ではない大エスパガル図書館でしょうか。その豊富な資金力と世界各国と盛んな交易を背景にかき集められた蔵書の数々はまさに規格外の一言です。数多の希少本も集められていますが中でも世界に一冊しか存在せず大エスパガル図書館のシンボルとも言える“黄金の書”は世界中の名だたる書字魔法師、学者が解読に失敗したまさにこの世で最も貴重な書の一つ、書字魔法師としては一生に一度はその姿を見て巡礼をしておきたい聖地でもあるんです」


 うん、珍しくフィーユがちょっと興奮しすぎというか熱く語りすぎというか……まぁそうなるくらい書字魔法師にとって特別な場所というわけか。

 そりゃフィーユの両親も図書館にこもりっぱなしが基本な娘の留学なんて心配しかなくても、送り出してしまうよな。


「す、すいません。しょ、少々話しすぎました」


「いやいいさ。フィーユがそれだけ話したくなるほど凄くて楽しみな場所なのやフィーユが本が大好きなのは伝わってきたからさ」


「あ、ありがとうございます」


海と商人ってことは海上貿易も間違いなく盛んだし、そうなるといろんな食べ物も入ってくるよな?

 ブルロワじゃ新鮮な魚介類がさほど手に入らなくて諦めていたがひょっとしたら

刺身も、いや醤油がないと刺身はあれだがとにかくうまい海産物が食べられるか?

ああ、うん。やばいな楽しみになってきた。俺はやっぱり日本人なのか色気より食い気というか魚が好きなんだよな、なんだかんだで。


 なんてこの時は呑気に考えていたし、実際そのつもりだった。だが、だがだ。この数日後、エスパガルについた俺を待っていたのは……



「よぉ待っていたよ。あんたたちが今回シャルロットのやつが送り込んできた留学生、だね」


「あなたは……」


「アタシ? アタシはカタリナ、シャルロットのダチであんたらの留学のあれこれを手伝わされたやつさ。それであんたがメディクだね」


 カタリナ、と名乗ったその人は俺よりも少し背が高いまさに女傑と言わんばかりのエネルギーに満ちた雰囲気の美女でどこか黒曜石を思わせるその目でじっと俺のことを見つめ……


「うん、悪くない面構えだし気に入った。あんた、アタシの婿になりな!」


 とんでもないことをいいだしやがった。


続きはいつも通りに!

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