45話 牙剥く悪魔に挑みし精鋭たち
昨日は休んですいません。いよいよfgoのハロウィン?でふね
「それじゃしてほしいことを説明しますから中に……あと、セシル。はちょっと休んでいて」
「ちょっと待ってよ、メディク! 僕はまだ……」
おっと、セシルが無理に動けるアピールするけど……まぁ、無理だよな。俺より年下ってことは実質中学生くらいだし水も出せなくなってるからなぁ。
とはいえ、セシルは俺の先輩というか、白亜亭二代目のプライドがあるのか疲れているから休めっていっても素直に聞かないだろうし……
「セシル、この戦いは長丁場になってこれからも患者は増える。だからセシルの力はこの先絶対に必要から、今無理して動けなくなると困るんだよ」
「う、で、でも」
「頼むよ。今セシルに倒れられると本当にもうどうしようもなくなるし、弱って渇き病にでもかかったらマーサさんが悲しむし、俺も嫌だから」
「わ、わかった。そ、そこまで言うならちょっと横にならせてもらうけど……いたずらしたら怒るよ?」
「しないって」
「なんだよ、その断言。それはそれでムカつくなー……まぁいいか、おやすみ」
ブツクサ言いながら壁にもたれて座り込むとそのまますぐに寝息を立て始めてるし……やっぱ、限界まで疲れていたんだな。
「すまないねメディ坊。セシルの面倒までみさせて」
「いえ。これも大事なことなので……すいませんがマーサさんは」
「ああ、大丈夫さ。セシルと皆はあたしが面倒みておくからメディ坊はお節介さんたちに指示を出してあげな……魔法でなんとかなるなら、あたしが出ばるんだけどね」
セシルに毛布をかけながら、マーサさんはどこか遠い目をする。マーサさんは今までこの裏通りを自分が支えてきたという思いも、己の魔法の腕への自信もあるだろう。だがその魔法が裏通りを“渇き病”から救うのには通じない現状に思うところがあるんだろうな。
「マーサさんがいてくれるから、大きな混乱になってないので。俺が動けているのもマーサさんが白亜亭という地盤を作ってくれて、俺が言うことを受け入れてくれたからですよ」
だから、ちゃんと言っておこう。抱え込まないでいいことまで抱え込まないでほしい、と。実際俺がふらりと単身でやっても信用できないで終わりだった。マーサさんとセシルが俺を受け入れてくれたから、今こうして動けている。
「……そうかい、それはよかったよ」
俺の感謝の気持ちが伝わったかはわからない。けど、マーサさんの表情はちょっとだけやわらかく、いつもの笑顔に戻っていた気がする。
「それじゃ説明を開始します」
マーサさんにセシルたちを任せて俺とレティシア、フィーユに隊長たち十九小隊の皆はぎゅうぎゅう詰めになりながら白亜亭の倉庫に集まった。
いや本当はこんな場所でなくて広い場所でやりたいけど今から話す内容は割と過激になるから屋外で誰かよその人に聞かれたら大変だしな。
「えっと、現在この裏通りには”渇き病”が発生しています。この病気にかかった人は何も治療をしなかったらひたすら下痢を繰り返し体内から水とかなにやら全部吐き出させて干からびて死にます」
「何というか……聞いているだけで怖くなる病気、ですね。まるですぐに効果がでる兵糧攻めのような……」
「だったら食事が必要だな。ちょっと一走りして食事を用意させ」
うん、相変わらずご飯となると話も行動も早いな隊長。でもちょっと話を聞いてからにしてほしいな。なんせ……
「いや、食べても全部尻から出るから意味がないというかむしろ悪影響です。患者は体内にあるものを全部尻からダダ漏れさせる状態だから」
コレラの治療の大原則に絶飲食がある。消化管を使うとその分下からでてしまい患者の負担になると。だから俺がいた頃の治療は理想的には輸液だったんだが……点滴がないこの世界ではそれは無理、経口補水液に頼るしかない。
まぁ経口補水液なら簡単で安く作れるし、飲ませるのは誰でもできるから効果は落ちても現実的な治療だから未だに途上国では現役だけどな。
「ようするに食べても全部尻からでて出すのに体力を消耗するだけなんです」
「あの、もうちょっと言い方というものを……」
「取り繕い用がないくらいひどい病気と理解してください。そしてこの病気は回復魔法も薬も効果がありません。そしてこの病にかかった人は糞便から他人をこの病にする毒を垂れ流します。気づかずそれに触れた状態で飲食をしたら同じ病になります」
経口感染の説明が難しいので簡易的に。いやまぁ嘘は言ってない。コレラ菌がだす毒素が原因だ。
「……魔法も薬も効かず他人に移る病とかもう焼き討ちする以外手がないのでは?」
十九小隊の皆さんから当然の声があがる。うん、そうだよな。実際それが一番原始的だが効果的で手っ取り早い対処法だ。ただ、それは俺がいないなら、だ。
「大丈夫です。ようは下痢で体の中が兵糧攻めされるのが問題なので水と塩を……皆さん以前作ったアレをもうちょっと塩を濃くしたものをひたすら飲ませていたらそのうち毒が抜けきって治ります」
「なるほど出すより多く入れたらいい、単純な原理だな」
よし、伝わった。なら、あとは早い。ここにいるのが普通の人たちならまだまだゼロから説明だったがここにいるのは十九小隊の、スポドリと塩飴の効果を実感として知っている人達だ。
「皆さんならわかると思いますが、下痢でもやっぱり汗といっしょで体から塩が失われます。その塩を補充しないで水だけ飲ませても塩不足になるので、塩の切れ目が命の切れ目となる、それを覚えておいてください」
「なるほど……塩がいるな」
「ええ。必要な物資はすでにばらまかれた毒にかけると毒を殺せる強い酒、綺麗な水を溜めておく水瓶に桶。それから清潔なシーツ。そしておっしゃるとおり塩があればあるだけいいです」
塩を切らすな、患者を救うために一番大事なことを伝えられた。これで一つの山場はこえた。だが、ここからも本番だ。ここからは……
「あと十九小隊の皆さんで裏通りで倒れている人をここに連れてきてください。それとまだ元気がある人が裏通りから逃げ出そうとすると思うのでそういう人は症状があろうがなかろうが軒並みひっ捕まえてここに連れてきてください」
「うん? 倒れているやつを連れてこいというのはわかる。症状があるのに逃げようとするやつもだ。だが、元気なやつもか?」
ええ、隊長。その疑問はごもっともです。ですが……
「性質が悪いことに、この病の毒は飲んだ人を皆渇き殺さないんです」
「……どういうことだ?」
「元気な状態でこの毒を摂取した人は元気なまま、あるいはちょっと腹を下したかな? くらいの症状しかないんです……毒が腹の中で増えているのに」
「……ちょっとまて。それは」
「……ま、まずくない?」
隊長が、十九小隊の皆がそしてレティシアが顔色を変える。ああ、うん。よかった。俺が言わんとしたことが伝わっているな。
「そして腹の中で増えた毒を便でばらまく。だからもし元気だからと一人見逃したら泉に投げ込まれた毒袋を放置するようなもの。それこそ王都中に蔓延してもおかしくないですよ」
コレラは軽症なら放っておいても十日ほどで治るし自覚症状もない。だが糞便にはしっかりとコレラ菌が含まれている。そして当然そこから感染は広がる。考えれば考えるほど効率が悪魔じみていい感染の広がり方をしている。
「……裏通りから誰も逃げ出せてはならない、完全に閉鎖する必要があると」
「はい。現在、この辺りの顔役の人が下手に逃げるより白亜亭を頼れるここにいるほうがマシと説得はしてくれてますし見張ってくれてもいますが……知り合いが発症したら恐怖心のほうが勝つでしょうから」
知った人間が何人も一日二十回三十回も白い下痢を垂れ流し萎びていく。いくらマーサさんがいる、ほかに頼れる人はいないといっても目先の恐怖から逃げることを選んでもなにもおかしくない、というか逃げる。病気以外の何かでそういう事態になったら俺ならそうするし。
「わかった。物資の運搬と封鎖、あと要救助者の運搬は任せろ。誰一人逃がしはしないし、我々の白兵魔法はこういうのにはうってつけだ」
「……助かります」
困難であり精神的にもきついことを頼んだのに嫌な顔一つせず淡々と引き受けてくれる隊長には感謝しかない。ああ、本当にここに来てくれたのには感謝しかない。
さぁ、ここで止まってはいられない。次の指示もださないと
「レティ、レティは水を作ってくれないか。その、患者のために必要な分だけじゃなくてまだ元気な人たちが飲む水も」
「元気な人のも?」
「……毒が井戸とかに紛れ込んでいたら患者が増える一方だからな。井戸を全部封鎖して、その分レティが水を配ればそれだけで効果がある。だからその、無茶なことを頼んでいると思うけど」
「え? ううん、全然平気だよこれくらい」
「は?」
「むしろ嬉しいよ。メディ兄が頼ってくれて。うんうん、たった街一つ分の水を出せばいいなんて簡単簡単。それだけでメディ兄の役にたてるなんて来てよかった」
……天才ってすごいんだな、うん。給水車がいっぱい来たと思うとしよう、うん。
「じゃ、じゃあレティは頼んだ。それからフィーユは隊長たちが運んできた患者がどこで倒れていたか、どこを移動してきたか……そういった足取りの調査を頼む」
「……どこに毒がばらまかれているか、そして大元がどこにあるか探るためですね」
さすがフィーユ、話が早い。
「ああ。毒そのものは酒で殺せるからそれで殺して、大元を調査する……あと、渇き病に俺たちがしたことが有効だと認める資料にもなるから患者の記録は頼んだ」
「……はい、任せてください」
フィーユが力強く頷いてくれる。うん、その姿をみたら確信できる。これなら、いける。さぁ……反撃開始といくか!
続きはいつも通り明日の08:10に!




