38話 なんでこうなるの?
10分おくれたああ!! 申し訳ありません!! ちょっとだけ短めです
※治療シーンの描写があっさりしすぎたので大幅訂正しました(10/22 20:30)
「ごめんよ、間に合ってるよ。もうすぐ終わるから」
「なっ⁉」
言われてみて、ようやく俺は気づいた。マーサさんがかざした手から出る光に触れた傷口は……血まみれだったはずのそこはまるで時間が止まっているかの如く血が止まっていた。
そしてそのまま今度はみるみるうちに傷口から肉が盛り上がっていき何事もなかったかのように、いやそれ以上に綺麗なシミひとつない肌ができあがる。
「うそ……だろ?」
どうみても重傷、出血量からして腹部の主要な血管が損傷していた可能性が高い。もし、あちらで治療するにもして相当な手術になる。なのにそれを、俺が膝の擦り傷を塞ぐよりも短い時間で……俺の擦り傷の治療よりも綺麗に仕上げられた。
「母さんの邪魔するなって言った意味、わかった?」
「……痛いほどに」
レベルが違うとかそういう次元じゃない。国最高の回復魔法師とは誇張でもなんでもなく、こういうことが当たり前にできるということ。
超一流とはこういうこと、か。なんというか恥ずかしくなるな、前世の知識とこっちで覚えた回復魔法で一人前以上に動けるとか知らず思い上がっていた。
「……治療以外でもなにか手伝えることがありますか?」
でもだからって何もしないのは、もっと恥ずかしい。せめて、できることを。自己満足かもしれないけどな。
「ふむ……なら、治療終わったからこいつを別室に運んでくれるかい。ここじゃお客から見えちまうしね」
「わかりました」
体力鍛えておいてよかった。気を使われて任されただろう仕事も満足にできなかったら恥ずかしいどころの話しじゃないからな。
「助かったよ。あたしもセリスもそこまで腕力があるほうじゃないから。いやほんと、偉いねぇ」
「……いや、これくらいは当たり前のことでは」
などと考えながら言われた部屋に患者さんを運んでもどってきたらマーサさんからお礼を言われるけど、これくらいでお礼を言われるのはちょっと、うん。
「そうでもないよ? 回復魔法師、特に学院出身だと魔法で傷を塞いだら仕事はおしまい、それ以外には興味ないってのも多いからね。魔法で出番ないってわかっても手伝うって言えるのは偉いことだよ」
あー……地球でも手術のことしか興味ない、ってドクターは医療漫画なんかでも定番だったけど、魔法師は魔法を使ってこそという風潮があるこっちじゃ特にそうもなるのか。
「ふーん、あんた学院の回復魔法師なんだ。あんな金ばっかりとるところよく行くよねぇ」
「こらセリス、失礼だろ!」
「いやだって、あんな所行ってなんになるの? それこそ街の人たちが何年も食べていけるだけのお金とるだけとってるけどたまにここに来るやつらみんな使えないじゃん」
この娘さんあれか、典型的な叩き上げタイプというか高学歴は使えない系になってるのか。ネットでもしょっちゅう見るけどリアルでも実際何度も言われるんだよなぁこれ。
学生の時社会勉強しようと薬局にバイト申し込みした時、面接担当したやつがもろにこれでやれ医学部さんは頭が良すぎて使いにくいだのなんだの……いやうん、よそう。思い出しても良いことなんもないしなんの役にもたたない。
「すいませんねぇ、育ちがわるかったのかどうにも口も態度も悪くなっちまって」
「いやいや、元気あって良いことですし、マーサさんの治療を直ぐ側でみていたらしかたないですよ」
娘さんの場合は目線が肥えすぎているんだろうしなぁ……基準がマーサさんならそりゃほとんどの人間は使えない認定になる。
「それでえっと、あの……そちらの娘さんは」
「娘さんじゃない! 僕の名前はセリス=ロメ、母さんの娘でここ”白亜亭”の二代目!」
「あんたに継がせるつもりはないっていつも言ってるだろ、勝手に二代目なのるなって」
おお、ボクっ娘。こっちでもはじめてあったな。しかしなんというか眩しいくらい元気がいい子だし、マーサさんのことが大好きなのが伝わってきて微笑ましくなってくる。ともかく名乗られたならこっちも名乗らないとな。
「なるほど……俺はメディク=ノワル。よろしくお願いするよ、セリスさん」
「うっ……さ、さんづけとかやめてよ。な、なんかそ、そのこそばゆいというかなんというか、ぼ、僕にはそういうのはいいっていうか、が、がらじゃないというか」
おお、思いっきり礼儀正しく挨拶したら顔真っ赤になってうつむいた。なんだこれ、かわいい。
「いやいや、礼儀は大事だしなにより柄じゃないなんてことはなイ――っ⁉」
あのフィーユさん、無言で背中つねるのやめてください。というか、またつねる力あがってませんか? 俺そんなつねられるようなことしましたか? あ、したんですね、そのジト目がもうそう言ってます。からかいすぎですか、そうですか。
「はは、うちのお転婆がこうなるとはやるねぇ」
「目の前でからかったからってからかい返さないでください……」
フィーユのつねる力がまた増すんで、あとなんかレティシアがスネを蹴ってくるんで。
「はは、色男にはいい薬さね」
誰が色男だ。そういうのはアーサー先輩のほうだろ。どうみても身分高そうだしさらっとこういうところにつれてくるし、絶対色々としているはず……おっと、アーサー先輩といえば。
「先輩、先輩が俺たちをここに連れてきたのは……」
「そうだよ。マーサとセリスを君に会わせたかったからさ」
くっそ、この人本当に性格悪いと言うかなんと言うか、掌で踊らされている感が半端ない。悔しいことにマーサさんたちに会わせてくれたことは感謝するしかないからなおさらだ。これほどの使い手と直接あって、間近で治療をみることができるなんて今の俺の立場じゃまず無理だからな。
「そのことに関してはお礼を言うしかありませんけど……しかし、マーサさんほどの回復魔法の使い手がなんで酒場を……」
「別に対したことじゃないよ? さっきもいったけどアーサー様のところでの仕事は恵まれていたしやりがいもあったけどこっちのほうが必要としている人が多い、それだけの話さ」
さっき言ってたあの言葉は必要としているって人は料理のことだけじゃなくて、そういうことか。必要とされている人がいるところに……ね。
「奥にベッドがあったり休む場所があるのは飲みすぎや仮眠用じゃなかったんですね」
「そういうこと。さっきセリスが拾ってきたみたいにけが人やら病人やらはとりあえずここで面倒みてやってるからね」
「あ、あの……このあたりはそんなにけが人が多いんですか? それにその、そういう人たちはまずちゃんとした治療院に……」
フィーユ、それはたしかにその通りだけどたぶんそれは……
「このあたりにいるのは地方の食い詰めた次男坊三男坊、借金抱えてたり前科があったりでここに逃げてきたやつ、あんまりお嬢ちゃんたちの前で言いたくはないけどたちんぼやら。とにかく、訳ありでまともな仕事も治療も望めないやつらばっかなのさ」
「……」
フィーユも、そしてその横にいるレティシアも黙っている。ここに来るまでの景色を思い出して言るんだろうな……レティシアはノワルでお姫様扱いだしフィーユはこもりがち。俺が感じている以上に治安の悪さなんかを強烈に感じたはずだ。
「そんな奴らでもとりあえず一日頑張って働いてここに来ればうまい飯と酒が食える、そういう場所があればやけっぱちにならずにまぁなんとか頑張るかって気持ちになるもんさ」
「だから、ここで酒場を……」
「そういうこと。回復魔法についちゃ近所で産気づいたのをなんとかしてやったらできるってのが知られちまってから頼られちまってねぇ」
本当になんでもないあたりまえといった感じで言い放つ姿に気負いもなければ押し付けもない。ただただ本当にできることをやっている、それだけのつもりなんだろうな。ここを選んだことも、必要とされていて自分ならできるからやっている。
「……すごいですね、まったく」
医療者の端くれとして、頭がさがるなんてものじゃない。敬服せざるを得ない。
「でしょ? 母さんは本当にすごいんだから!」
「そこでなんであんたがいばるんだい、まったく」
たしなめられているけどセリスの気持ちもわかるな。そりゃマーサさんが親だったらいいたくもなるよな。しかし仲がいい親子でなんというか、微笑ましいというか癒やされるというか……
「メディク君、ここいいところだしマーサとセリスも素敵だと思うだろ?」
「え? ええ、もちろん」
なんだこの先輩、なんで急にこんなことを聞いて……
「じゃあちょうどいい。メディク君、君ここでアルバイトするつもりはないかい?」
……は?
「先輩、何をいって……」
「そのまんまさ、ちょうど白亜亭にさ、男手が一人欲しいってマーサが言っててね。君なら条件的にちょうどいいかもなーって思ったんだけど反応見る限りドンピシャみたいだし」
「いや条件的にって」
「学院にあまりいたくなくて、回復魔法が使えて、若い男でこういう場所に抵抗がなくてセリスと仲良くやれそう……ほらぴったり」
「それ先輩が勝手にそう思っているだけですよね?」
「まぁまぁそう言わずに、ね? マーサのそばにいたら色々勉強なるから君にプラスは多いと思うよ?」
「そりゃマーサさんのそばなら勉強になるなんてものじゃないですけど……」
なんでこの人は決定事項みたいにいってくるんだ……いやほんと、ちょっとまってくれよ……どうしてこうなるんだ?
続きは明日のいつもの時間……明日はちゃんと時間通りに投稿します……




