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37話 国最高の……

ラグビー日本代表戦よかった……さて、三章もようやく動き出します


※マーサさんの描写が弱かったので少々多めに訂正いれました(10/22 20:30)


「あまぁぁい、口のなかでとけて……いくらでも食べれそう」


「本当ですね……これは、驚きです……」


 あの後他に選択肢もなく促されるまま店内に入り、出されたケーキと紅茶を警戒しながら手を付けたのだが……いや、正直驚いた。ケーキはシンプルなリンゴのパイだったのだが、リンゴが熱々トロトロ、パイ生地はサックサック。それでいて口の中でとろけていって……とにかく絶品としかいいようがない。

 それこそレティシアとフィーユが口々に絶賛の声をあげて手がとまらないのも無理がない。俺が前世を含めて食べたことがあるケーキの中でも指折りといって過言ではない出来栄えだものな。


「はは、絶品だろ? マーサはうちのメイド長をしてくれてたんだけどその頃から料理の腕前は突き抜けていて父もしょっちゅう仕事を抜け出してはあれこれねだって母に怒られていたくらいだからな」


「もうやめてくださいよ、アーサー様。今のあたしゃただの店主なんだからさぁ」


 ああ、なるほど。先輩がなんでこの店を知っているのかと思えばそういうことか。しかし、先輩の家のメイド長で料理を作ることを許されていたとなると相当に信用されていたってことだよな? 毒殺は一番警戒されることなんだからな。そんな人がこういう場所でとなると……


「正直……なんでここでお店を出されているのか疑問に感じます……」


「だよね? あたしもこの味なら学院の近くにあったら毎日通うよ。表通りとかにお店をだしてくれたらいいのに」


「ああいう華やかな場所はどうにも性に合わなくてねぇ。場所代が高くついて料理もなんもかんも高くついちまう。昼は一人大銅貨一枚、夜は酒を飲んでも大銅貨三枚、それでお釣りがでるくらいで商売したいのさ」


 ああ、やっぱりそういうことか。日本でも自分なりのこだわりで超一流の、それこそミシュランで星が取れてもおかしくない腕をもっていながら田舎で店をやったり大衆食堂を開いている人がいたけどマーサさんもそのタイプか。


「その……これだけ美味しいお茶でしたら……葉だけで大銅貨一枚とられてもおかしくないかと……」


「そこまで褒めてくれるのはありがたいけど茶っ葉は普通の安もんだし水だってあたしがだしたものだよ? 魔力の量と淹れ方に一工夫しているけどね」


 硬水と軟水、ってやつか? 俺はそこまで詳しくはないが水の種類でお茶やコーヒーの味が変わるくらいは流石に知っている。魔力の量やコントロールでそのあたりも見極め調整しているってことだろうが……


「レティ、水の質って変えることってできるか?」


「そもそもそんなことしてみようなんて思ったこともないよ」


 レティシアが断言するけどやっぱりそうだよな。俺も一応水は出せるが量とせいぜい温度を多少コントロールするくらいだ。いやはや、まったくもって恐れ入る。


「なんというか、参りましたって感じだな」


「そう、ですね……まさかここまで素敵なものを味合わせてもらえるとは……」


「お気に召したようで嬉しいよ。本当に、マーサの作る料理は絶品だからね。俺としちゃ正直今でもうちに戻ってきてほしいんだけど」


「お言葉はありがたいけどアーサー様の所ではもう十分働いたし、なによりこっちのほうがあたしを必要としている人が多いからねぇ」


 先輩の言葉もさらっと流すあたり本当に肝っ玉母さんというか、気負いも何もなくてそれを当然としている。金とか地位とかそういうのじゃないところに軸を作って生きているのが人生経験が浅い俺にも伝わってくる。


「先輩、ありがとうございます。素敵なお店につれてきてくれて」


 うん、本当に。図書館でさんざんおちょくられたけどそんなのが気にならないくらいここは素晴らしい店だし、来てよかった。疑ったお詫びとお礼はちゃんとしないと筋が通らないよな。


「おっと、お礼を言うのはちょっと早いよ? 僕がわざわざここまで君を連れてきたのは何もお茶とお菓子のためだけじゃないからね」


 ちょっとまて、それはどういうことだ? この先輩、まだなにかかくして……


「母さん! 手伝って! そこで倒れてた!」


 俺が問いただす言葉よりも、店のドアが開け放たれるのが早くそしてそこから一人の少女が……たぶん、俺たちより一つか二つ年下の女の子が頭と腹から血を流した男の肩を支えて入ってきた。


「はいはい、まったくまだ陽が高いってのに忙しいねぇ。すぐに行くから奥に転がしときな」


 いやいやいや、マーサさん? 平然としているけどこの出血量はどうみてもかなり深い傷で、刃物で刺されたかあるいは……いや、考えている場合じゃないな。


「マーサさん、俺回復魔法が使えるんで俺が治療を」


「あー、いいよいいよ。気持ちだけ、頂いとく。でも服汚れるしお客さんはそこに座っておいて」


「いやですが」


 気持ちだけとかいわれても、この状況で黙って座っとくのはさすがにないだろ? とにかく、できることを手伝わないと……


「ちょっと、母さんは座ってろっていったでしょ。誰だか知らないけど母さんの邪魔をしないでよ」


 それでも立ち上がろうとしたらこんどはけが人を運んできた子、お母さんと言ってたからマーサさんの娘なんだろうが、とにかくその子がけが人を置いてそのまま俺の前に立ちふさがって、立ち上がることすら許さないといった空気だ。


「だが傷は少しでもはやく処置を」


「あー、メディク君。気持ちは立派だが少し座っていてくれ」


「先輩、先輩まで邪魔を」


「そうじゃない。邪魔なのは君だしなにより”すぐ終わる”」


「は?」


 先輩の言葉と同時だった。エプロンを脱いで別の白い上着を羽織ったマーサさんが寝かされたけが人の元に膝折り、手をかざして患者の全身を光で包んだのは。


「これは……まさか、いやでも」


 正直、俺は自分の口からでかかった言葉が信じられなかった。だって、それはあまりにもおかしいことだから。

 マーサさんが回復魔法を使ったというのはわかる。だが、マーサさんからいま出ている魔力の量は明らかに俺、いや俺の師である爺やとも比べ物にならない。それくらい圧倒的な格の差を感じる。


「先輩、マーサさんはいったい何者なんですか?」


 先輩はマーサさんをメイド長といった。だが、今使っている回復魔法は明らかにその範疇を超えている。爺やも祖父といっしょに戦争を駆け抜けた一人前以上の使い手なのだからそれ以上となるといったいどういう人が……


「言った通り、マーサはうちの元メイド長で料理の名人だよ。ただ……」


「知らないの? 母さんは昔国最高の回復魔法師として名をはせたのよ?」


「は?」


 国最高の回復魔法師? マーサさんが? それはいくらなんでも……待てよ?


「もしかして、”白亜”のマーサ?」


「よしておくれよ。人のことをそんな昔の名前で呼ぶのは。さすがにむず痒くなってくるよ」


 どうやら大当たり、か……正直まさか、という思いしかないがでもその言葉が本当なら納得も……


「あの、メディクさん。”白亜”のマーサとは……」


 おっと一人で納得していた。さしものフィーユも知らないのか。


「俺も爺やから聞いただけなんだが……爺やが知る限り最高の回復魔法師で表舞台から退いたものの、確かな技量と敵味方関係なく平等に治療をする気高さで慕われていた、とか」


「メディクさんの爺やさんって確かメディクさんに回復魔法を教えた方……その方がそこまで……」


「母さんがアーサー様の家で働けたのもこの腕あればだからね。もし何かあってもすーぐ治療できるからってすんごく信用されてたんだから」


 マーサさんの娘さんが胸を張って言うのもうなずくしかないが、しかし一体何がどうなっているんだ? 国最高と言われた回復魔法師がメイド長で裏通りで飲食店やっているっていくらなんでも状況がごった煮すぎるだろ。

 だがまぁ……


「マーサさん、何か手伝えることありますか」


 色々と聞きたいことはあるがまずは目の前の患者のことをなんとかしてから、だな。


続きは明日の08:10ごろに!

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