35話 ノワルでは評価されない能力ですから
前回のメディク君の婚活あれこれは実際に先輩や教授に言われたことをマイルドにしたものです。もっとシャレにならない話もまぁいくつか……
「あはは、ごめんごめん。勘違いさせちゃったかな? 別に僕はレティシア嬢をここで口説くつもりはかけらもないから。そのつもりなら今こんなこといわないだろ?」
ああ、確かにそれはその通り。もっと素知らぬ顔で距離をつめるなりなんなりするほうが自然っちゃ自然だよな。
「それじゃ、いったいどういう……」
「簡単さ。僕が興味をもって会いに来たのは君だよ、メディク=ノワル君」
「は、俺?」
レティシアじゃなくて、俺に興味? なにそれどういうことだ?
「いやいや、なかなかどうして面白いことをしているじゃないか。この数字による新薬の費用効果の証明は実に見事だし、最近軍部で話題の塩飴だって君だよね? 色々と噂になっているよ。ノワルの嫡男が色々と動いてるとね」
人の口には、か。表向きはまだ発表されてなくても知るやつはでてくると、この先輩みたいに。まぁでも……
「できることをしただけですよ。ノワルの人間としてふさわしいかはわかりませんが」
表向きにはこれに尽きるんだよな。俺がしたことを評価してくれる人はいるっちゃいるがあくまでそれは一部。多くの人間にとっちゃノワル家の失格嫡男の道楽扱いなんだよなぁ。
まぁノワル家としてふさわしいとかそういうのは正直俺はどうでもいいんだがあまり蔑ろにしても父さんたち困らせるだけだし、ある程度は気にしてる素振りを見せないといけないからな。特にこの先輩みたいに偉い立場だろう人には。
「本当に無理解なやつが多いよねぇ。もし君がノワル家の人間じゃなくてもっと別の……そうだね、それこそジッドの人間だったりしたら今頃絶賛されているはずなのに」
「~~っ⁉」
そこでフィーユの家を出すって何考えてんだこのパッキンイケメンパイセン⁉ フィーユが困ってるだろうが⁉
「先輩、何が言いたいんですかいったい」
「そう怒らないでくれよ。ただ僕は君のことを評価していると言いたいのさ、ノワル家の人間とかそういう肩書を抜きにしたメディク君自身がなした功績をね……でも、同時に聞きたいこともある」
「聞きたいこと?」
「いや、簡単さ。これだけのことができるのならノワル家の人間として、それこそ失格嫡男の名を払拭するのにふさわしい功績だって上げられるだろうになんでしないのかなって」
この先輩、何を……
「君ならわかっているよね、この新薬での費用効果の研究みたいに、数字で徹底して分析することは”攻撃魔法”の分野でも有効だと」
そうきた、か。この先輩、俺の発表をよくわかっているな。俺が分析した結果じゃなくて「手法」に、統計学に着眼している。いや、当たり前といえば当たり前であってほしいんだが。
「例えばそうだね。初級魔法で一番効率よく破壊できる距離はどのくらいか、とかどんな隊列が一番威力がでるかとかそういうものを数字としてまとめあげる。攻撃魔法の家の生まれでもなく、専門にしてない僕でもこれくらいは思いつく」
あー、たしかになぁ。ミサイルとかそういうのもそうやってデータ集めて分析改良してきたしなぁ……
「ノワル家の嫡男に生まれた君ならもっといくらでも思いつくよね? そしてそれをしたら君はさすがノワルの嫡男、ハンデをものともせず攻撃魔法の発展に大きく貢献した。なーんて大絶賛されるのは間違いないよね? 民衆はそういうの大好きだ。なのになんでそれをしないのかな?」
ハンデキャップがあるのにそれに負けず、一歩間違えば感動ポルノだがこちらの世界でもそれが好きな人が多い、ってか。そしてそれを武器にしないのか、か。たしかに戦い方としては正しいが……
「レティシア嬢に遠慮をしているのかい? それとも自分を認めない攻撃魔法の世界やノワル家のために何かするのなんてまっぴらってかい?」
「――っ⁉」
「レティ、やめろ」
このパイセンまじで何考えてるんだ⁉ やっべ、レティシアが入学式で雑草にむけてた比じゃなく切れそうになってるぞ⁉
「あはは、ごめんごめん。でも、はたからみたらそう見えなくもないのはわかるよね。だからどうしても気になってね」
そして雑草と違ってこの先輩は笑って流す、か。肝が座っているというか、なんというか……
「レティ、落ち着け。あっちが言う通りでもあるし、俺は怒ってない。なにより、図書館が火事になっちまう」
「……メディ兄がそういうなら」
俺の言葉にまだ不満そうだが、レティシアが魔力を霧散させてくれる。やれやれ、どうにかなったか。いや、もしこのままブチ切れてたら図書館に被害がでてフィーユが悲しむところだったぜ。
「ここはありがとう、と言っておくところかな? それともごめんなさいかな?」
「どちらもいいですよ。それより先輩、先程の先輩の質問の答えですが」
「おっ、答えてくれるのかい? さて、いったいどんなこた」
「先輩が言ったこと、正直考えたこともなかったですね」
「は?」
「評価してもらってますけど俺は基本的に目の前のことでいっぱいいっぱいの凡人ですから。自分の評価をあげようだとか、そんなことまでは頭が回りませんよ」
うん、本当にな。言われるまで統計学を攻撃魔法の研究になんて考えもしなかったし。いやぁ、我ながら発想力が貧困というかなんというか、視野が狭いわな。
「じゃ、じゃあ今からでも遅くないからやってみたら」
「あ、そういうのはいいです。俺攻撃魔法はもうお腹いっぱいですし……人の怪我を治したりするほうが向いているみたいなんです」
婦長と約束したこともあるからなぁ。今更そっちの方の研究は……いや、わかるぞ? それで攻撃魔法師の能力が向上したら国の安全やら平和に貢献するのは。でも正直凡人の俺にはそっちまで手をだす余裕ないし、そんなことしてたら次婦長にあった時殴られるじゃすまなそうだし……
「それこそ先輩、先輩がやったらどうですか? あるいは先輩の知り合いでやりたがっている人がいたら。俺にわかるやり方くらいいくらでも教えて差し上げますし」
「い、いやいやいや、ちょっとまとうか。そんな簡単に言っていいのかい? それこそ君の立場をなんとかできるかもしれないし、そのやり方はもっとこうもったいぶっても」
「前の発表でもだいたいどういう風にデータを集めて分析したか説明してますし。国単位で秘匿するならまぁわからないでもないですけど」
有益な科学技術やらなんやらを国が秘匿するのは極々当然のことだからな。それこそマイセンの制作方法編み出した人を他国にパクられないように幽閉したのなんていい例だ。
人類全体の科学の発展は確かに大事だが、他国に技術渡した結果他国が栄えて国を滅ぼされるなんて笑えない。自国「だけが」栄える技術で戦争をする事が当たり前の時代では大正義だし、そうなるよう運用するのも自然なことだ。
「俺個人が秘匿する意味ほぼありませんから。大事なのは”誰が”それをなしたかではなく、それでどれだけ国が栄えて皆の暮らしが豊かになるか、ですよね?」
ただ、それはあくまで国の事情。俺個人があれこれ秘する事情にはならない。俺一人でできることは限度があるしな。だいたい婦長もいってたが知識は武器といっしょ、なら多くの人がその武器を装備したほうがいい結果を生むってもんだ。
「……それで君は自分が評価されないままでもいいと? レティシア嬢と比較され、蔑まれノワル家を継げなくても」
おいおい、さっきもレティシアを切れかけさせたのにまだここまではっきり言うかこの先輩。まぁこの先輩なりの誠意なんだろうな、言いにくいが事実であることを真正面から指摘するのは簡単なようで難しいし。
「レティシアのほうがノワルとして優秀なのは事実ですから。後をレティシアが継ぐなら俺は文句言いませんよ。できる範囲で支えて……お家騒動になりかねないなら出ていくだけで」
血筋の嫡男、出来のいい弟でのお家騒動なんてそれこそ徳川三代目をはじめいくらでも転がっているからな。俺がいたころだってもうドロドロのあれこれがいくらでもだったし。兄私立の歯学部、弟国立医学部の医者の家とかもうねぇ?
ま、俺がこれでもうちょっとノワル家としては並かそれよりやや下レベルの攻撃魔法の才能があったらまた話は別だったんだろうが完全無欠の落ちこぼれだから逆にやりやすいってもんだ。
「大丈夫だよ、メディ兄。絶対あたしが守るから。それにほら、あたしが家を継いでメディ兄がお婿さんになれば完璧だって叔父さんもいってるし」
「……ジッドの家なら間違いなくメディクさんのことを高く評価しますし、されますから。無理にノワルにこだわることはないかと」
ああ……やばい、泣きそう。レティシアだけでなくフィーユまでここまでいってくれるなんて。うん、本当にありがたすぎる……俺は、恵まれてるな。
拝啓ヒポクラテスをかきながら他所様の作品を読んでいると別のも書きたくなる不具合……
続きは明日の08:10ごろです




