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間話 あとしまつのはなし

いわゆる2.5章になります。


「えーと、この資料は回復魔法師団長にも読ませて……」


 メディク君が無事回復してわたしが手配した病院から屋敷に戻ると聞いてからもわたしは相変わらず職場で書類仕事にあけてくれていました。

 いや本当はあれですよ? こうメディク君が目を覚ました夜にでも資料を人伝になんてしないでわたしがもっていってあげてはーい、ダーリン、お見舞いにきたよ! 差し入れはわ・た・し! なんてからかいたかったんですよ?


「でもそれやるとメディク君ガチギレしそうだしなぁ……」


 ノリが良くても基本真面目なメディク君ですしね。まぁわたしとしても普段どおり接することができる自信もありませんでしたから断念したんですが。それに仕事も結構ありますし。


「ダーリンのためにお仕事に頑張るわたしって理想のハニーでは?」


「一体誰がハニーで誰がダーリンなんですか」


 おっと、独り言と思ってつぶやいたら突っ込んでくれる人がちょうどきましたね。あいも変わらず鎧姿、わたしの前でくらい外せばいいのに暑くないんでしょうか?


「ああ、隊長さん。メディク君のお見送りは終わりましたか」


「無論なにご……大きなトラブルもなく無事にな」


 ほんとこの人は嘘がつけませんねぇ。そこでつまるってトラブルありましたよって言ってるようなものですし。

 ふむ、トラブル。でもわたしにあえて言うほどでなくて小さくてメディクたちが起こしそうなこととなると……


「フィーユちゃんにメディク君がつねられて馬車でお話コースになった以外は無事なんですね、わかります」


「な、なぜそのことを!?」


 腹芸できなすぎませんかねぇこの人。メディク君でもも~ちょっとなんとかしようとしますよ。まぁそれがいいところでもあるんですが。

 しかし、どうしてそうなったかまでは断言できませんねぇ。パターンとしてはこの人相手にさらっとわたしにしたみたいな口説きをしたこととかが可能性高そうですけど? こう、わたし登場! したときにこの人明らかに反応がアレでしたし?

 よし、ぎりっぎりでからかってやりますか。


「ひょっとしてアレですか? 実はこっそりわたしからの連絡を伝えるのにかこつけて夜這いかましてその時その鎧をパージ! してあなだけはわたしの本当の顔と名前を知っていてほしいのぉ~! とかやって翌朝やだ、恥ずかしい。どんな顔していいのかわからないのぉしちゃったとか?」


 まぁさすがにないでしょうけどね! いやいや、いくらなんでもであってこの短期間でこの人の最大級の秘密までは……


「なななななな、なんであなたはそんなことまでわかるんですか!?」


「ちょ、マジでそれやったの!?」


 いくらなんでもちょっと想定外というかなんというか。え、なに? 本気でこの人教えてんの? わりとガチ目にやばい秘密なのに?


「うっわ……わたしの異母姉ちょろすぎ……なにやってんですかほんと。あなたの顔わりと大きな秘密ですよね」


「だ、大丈夫! ちゃ、ちゃんと姉妹とはいってないから! と、遠縁っていっただけですからセーフのはずです」


「それでも言い過ぎですよこのチョロ姉!」


 いやほんと、マジでこの人の身元かなりやばいんですけどね。お父様が敵国の捕虜をメイドってことにして自室につれこんであはーん、うふーんしてできちゃった子とか本気で爆弾なんですがね。つーか殺されてないことが奇跡みたいなものなのに。


「だ、だってしかたないじゃないですか。ロッテが彼のことダーリンだのハニーとよんでたとかいうしぃ! じ、自分だってメディク殿と仕事抜きで仲良くなりたかったんだもの!」


「そんなところで張り合ってどうするんですか! つーかメディク君ってあなたの好みからだいぶ離れますよね? あなたの好みってたしかこうもっと筋肉もりもりで頼れる感じの人ですよね? 白兵魔法師選んだのもそれもあってですよね?」


「え、えっとその……え、メディク殿は見た目が好みとかそういうのじゃなくて、いやむしろ初見ではなんだこのボンボン、つかえんのかなぁ? だったんですけど、こう、すごく誠実で頼れるっていうか信用できるっていうかまっすぐでいいなーっていうか?」


 うわ、鎧姿でくねくねしないでくださいよ。少し不気味っていうか……でもまぁ、言いたいことはわかります。


「はぁ……まぁいいです。なんだかんだでメディク君もノワル家の嫡男っていう看板背負ってますし、言いふらす趣味もないでしょうしセーフってことにします」


 うん、本当はだいぶアウトなんですけどまぁいいです。メディク君だし、最近脳みそまで筋トレしそうだったベアト姉がこんな乙女乙女しているのを邪魔しちゃ可愛そうですしね。それに……


「問題にするやつがいても今回の功績で黙らせることはできますしね」


「今回の……軍部の不正をみつけたことは大きいですけど、そこまでですか?」


「それはメディク君じゃなくてフィーユちゃんの功績にカウントしますよ。いや、メディク君にくっついていかせた学院長のでもいいですが」


 あの様子じゃメディク君気づいてなかったですしね。発見したのもフィーユちゃんで指摘したのも彼女ですし。

 いやー、大隊長も油断してましたねぇ。十九小隊に書字魔法使いの学生が来たらしいから早いところ追い出せばいいや、くらいに思っていたんでしょうけどやってきたのがまさかフィーユちゃんという規格外なんて、ねぇ。

 伊達にあの学院長が全授業受けなくてもいいなんて条件で招き入れたわけじゃないんですよね。あの巨大な学院の図書館の蔵書を入学早々ほぼ全部把握しているとか尋常でないですよ。あの規模なら普通何人がかりだと……


「えっと、じゃあ……塩飴とかの功績で? 不正に比べたら全然たいしたことないと思うのですけど」


 ああ、うん。この脳みそまで腕立て伏せしてそうな姉はほんとわかってないんですねぇ。


「メディク君はこう言ってました。手洗いと毒消しによって後遺症が出る傷病兵が減らせる、それこそ戦死者の数を減らせるかも、と」


「ええ、たしかにいってましたね。それが……」


「軽い傷での後遺症の減少が三人に一人減らせたんですよ? 下手したら戦死者も同じ割合で減らせて……その分だけ戦中の兵の補充、それが無理でも戦後の労働力になってくれるんですよ」


「――っ!?」


 おっと、さすがに現役の軍人。ここまで言えば伝わりますか。


「戦争の規模が大きくなればなるほど、この差は大きくなる。それこそ今回のこの手法と成果が相手国に漏れていなければ、消耗戦になればこちらの方が優位にたてるし戦争の傷が癒えるのも早くなる」


 まぁ死ななかっただけで戦えるのか? 戦後もちゃんと働けるのか? とかいう議論も必要ですが、生きているならリソースになりますしね。ゼロとゼロじゃないかの差はあまりにも大きいですよねぇ。


「これらの価値は兄さんもちゃんとわかってくれましたよ」


「にいさ……あの、ひょっとして」


「ええ、第一王子様。未来の王様ですよ~。いやぁ、さすがにこの話したら目の色かえてメディク君が提案した塩飴やら記録やらと含めて即採用! 急いで国として検討にはいりまーすですよ」


 わたしだけじゃなかなかここまでの速度じゃ動けないですからねぇ。少しでもはやくメディク君の努力をかたちにしてあげるためにしかたないからわたしが動かせる最大の相手を動かしてあげたんですよ。ああ、ほんと、わたしってば尽くす女。寝ているダーリンのためにせっせと働いてるんですから!


「そ、そうでしたか。即導入されたのはそれもあってでしたか」


「そういうことです。不正を暴いて云々の部分抜きにすごいことやってるんですよメディク君は」

 

 不正も実はかなりやばやばな案件なんですがね。大隊長より上も上までつながっているし、しかもその金の一部が敵国に流れているかも、くらいな案件ですし。

 ま、そっちはそっちで徹底して調査してるから時間の問題ですしね。フィーユちゃんを、書字魔法師一族として有名なジッド家の子を狙ったせいで書字魔法師が軒並み協力してくれてますもの。


「とりあえず、ハニーとしてはやれるだけのことはやって宿題もだいたい片付きましたし、あとはあれですかね。やらかしてくれた元大隊長への落とし前くらいですかね。さてどうしたものか……」


「落とし前、ですか……その、大隊長はどれほど牢にいることに」


「え? 何言ってるんですか。わたしが言っているどうしましょうかってのは”どう殺すのが一番いいか”ですよ?」


 メディク君が今回とこの前の発表でもたらしてくれたもの、そして今後もたらしてくれるだろうものがどれほどになることか。それを思うだけで公としてのわたしが絶対に許すなといっている。

 でもそれ以上に彼の側で過ごせる、ただのシャルロットとしての素敵な時間を奪おうとされ……目の前で彼が崩れ落ちた姿を思い返すだけで胸が張り裂けそうになる。

 ああ、本当にメディク君ってば罪な男ですねぇ……こんなにもわたしを振り回すんですから。


「とりあえず、顔を袋で隠してメディク君に回復魔法の練習台として贈ったら喜ばれますかね?」


 死んでもいい重罪人を魔法の練習台にするのは珍しくないですし、回復魔法は人に使ってなんぼですしね。上位の回復魔法の練習台としては後腐れなくて最高だと思うんですけど。


「……本人に聞いてみたらどうですか、いりますか? って」


「ふむ、それもありかもですね」


 鎧越しでもわかるくらいげんなりとした目線むけやがりますか、この姉は。まぁいいです。できるハニーはちゃんとプレゼントなにがいい? って聞くものらしいですし、聞いてあげましょうか。


「ま、始末をつける前に情報を絞れるだけ絞ってからですけどね。そしてその間にまたメディク君がなにかやらかしてくれてプレゼントにおまけをつけなきゃになるかもですし」


 ほんと、楽しみにさせてくれますよね、メディク君は。さーて、次はなにをしてくれますかねぇ。


続きは明日の08:10予定です。

二章はちょうど本1冊分としての区切りと考えました。

リアルも忙しくなってきたのでどこまで続けられるかはわかりませんが

きっちりと終わらせる予定です。


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