32話 別れは秘密とともに
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さて、あの後意識を取り戻したということで担当の回復魔法師の人に傷口のチェックをされたのだが、むしろフィーユにつねられたあとのほうが悪いなと笑われる始末。毒の方も完全に解毒できたとのことで念の為一日様子を見て退院……いや、病院じゃないからその言い方は変だが、ともかく治療終了ということになった。
フィーユは最後までそばに、なーんて言ってたけどさすがにそれは丁重にお断りした。というか、どうみてもフィーユの方が寝不足だったからな。確保してあった別室で寝てもらっているし、俺も今夜はゆっくり……
「その……メディク殿、少しいいか?」
「隊長? どうされましたか」
なんだろうな、こんな遅くに。隊長はシャルロットとちがって用がなければ絶対こないだろうし。シャルロットは気まぐれだからなんか普通にきそうだけどな。
「その……あれだ。実はさっきシャルロット殿からの使いがきてな。色々と進展があったから今のうちにと思ってな」
「シャルロットから?」
「ああ。宿題をさっさと提出するとのことだ」
シャルロットらしい。俺がここを出ていく前にできることはってか。
「まず、メディク殿たちの実習だが……怪我が治り次第終了ときまった。補充要員も無事みつかったので、学業にもどられよ、ということだな」
「補充要員みつかったんですね」
確かに、俺たちの実習の名目はあくまで繋ぎ要員だったな。そこが解消されたならいつまでもいる理由がない。
「元々人員確保に動いていたしな。それに今回の怪我のこともあってシャルロット殿があちこちに連絡をとって急ぎ用意してくださった」
宿題はさっさと片付ける、か。本当に忙しいだろうに頑張ってくれたんだな。
「それから、塩飴や飲み物だが……十九小隊では正式に許可された。消毒やカルテなどとあわせて軍全体で検討するからそのテストケースとして、だな」
「それはよかったですね。今の皆さんから取り上げたら絶対大変なことになりますし」
「まったくだ。下手したら反乱や職務放棄を起こしかねないくらいだからな」
十九小隊の姿を思い出すと本当に起こしかねないんだよなぁ……でもまぁ、テストケースとして認められたっていうのは朗報だな。
なんせ俺達の発表が認められたって証拠だし、婦長に殴られる心配が一つ減ったともいえるしな。
「それでその、これが一番重要な知らせなんだが……ジャン元大隊長がなんでフィーユ殿の命を狙ったか、はっきりした」
「もう、ですか……シャルロットなら時間がかからないとは思っていましたがそれにしたって」
日本じゃありえない捜査速度だな。いったいどうやったんだ?
「えっと、シャルロット殿の命令で国屈指の書字魔法師をかき集めて軍の資料を徹底的に精査したおかげみたいだな。それで、その結果大隊長は繋ぎに過ぎなかったらしい」
「といいますと?」
「大隊長よりもっと上の存在に、十九小隊以外の部隊からも横領された金が流れていたらしい」
「それはまたなんとも……」
さらに上層部が関わった汚職だったか。想像以上に話がでかくなったが、あの場でフィーユを殺して時間を稼ごうとしたのには納得がいく。フィーユを殺して捜査を遅らせ、そのうちに上層部が逃げる時間を確保したかったと。
「反吐が出る話ですね」
「まったくだ。仲間の、国からの金を私利私欲のために組織だって利用するなどろくでもないにもほどがある」
隊長も鎧越しだが明らかに怒っていて、それこそ鎧の隙間から湯気がでてもおかしくないな。
「だが、今回の貴殿たちの働きで軍の膿出しが間違いなく大きく進む。シャルロット殿が何があっても徹底的に一人残さず摘発せよと命じられているし、大隊長……元大隊長も情報を絞るためなら何をしてもいいという扱いだからな」
死んだほうがマシって扱いなんだろうなぁ……そして数字にあれだけ強いシャルロットなら本気で妥協しないだろうな。
「……今回の件で軍としてもそして個人としても貴殿達には返しきれないほどの借りを作ってしまった。塩飴や飲水で訓練の質が上がったし、なにより貴殿たちが不正を暴いてくれたおかげで小隊の財政事情が大きく改善したからな。色々と修理ができそうだ」
よかった。さすがにライムすら買えない状態はまずいからな。これなら俺たちがいなくなってもなんとかなるな。
「なぁメディク殿、貴殿に此度の恩どう返せば」
「いや別に返さないでいいですよ?」
「……なに?」
「塩飴にしたってカルテにしたって、全部隊長が協力してくれたおかげですし財政状況に関しては本来の権利がもどっただけですしね。改めてお礼を言われることはないですよ」
うん、元々隊長の協力がなきゃとっかかりすらつかめなかったしな。お互い頑張ったな、ならともかく一方的に感謝されるのはやっぱりなにか違う気がする。
「いや、だが……」
「もしそれでも、何か思うのでしたら……今のままのまっすぐでひたむきさな、隊長でいてください。隊長が俺の好きな隊長のままでいてくれたら、俺は嬉しいです」
「……メディク殿、やっぱり貴殿天性のたらしではないか?」
「それはないと思うんですが」
前にも隊長に同じことを言われたけど、絶対そんなことないよな?
「……まぁいい、貴殿がそういうならこちらにも考えがある」
「かんが――っ⁉」
俺が返事するよりもはやく脱ぎ去られた隊長の兜。その下にあるのは、一度だけ見たつややかで豊かな銀髪。だが問題はそこではなく、その顔が……凛とした、シャルロットによく似た顔だった。
「た、隊長その顔……」
「あの人によく似ているだろ? まぁそのあの方とは……遠縁でな? 小さい頃はその、影武者のようなこともしたりしていた」
ああ、髪の色を変えたら本当に見分けつかないだろうしな……そうか、だから妙に親しげというか面識がありそうなことをしてたのか。
「じゃあ隊長が今も顔を隠しているのは」
「またいつこの顔が必要になるかわからないからな。念の為というやつさ。無論、白兵魔法師としての訓練のためでもあるが」
素顔を隠していても訓練だからでごまかせると……重たい鎧を着ていてもおかしくない白兵魔法師ならではだな。
「……なるほど、これが隊長の」
「ベアトリス、だ」
「え?」
「ベアトリス、それが本当の名前だ。もう呼ぶ人がいない、意味をなくした名前だが……メディク殿だけは覚えておいてほしい」
隊長の本当の名前……それは前に尋ねた時、置いてきたといった名前。おそらく、特別な意味があるそれ……
「……いいんですか?」
「ああ。貴殿には世話になったという言葉では足りないくらいの恩があるからな。だからこの顔の秘密とこの名……それが貴殿に差し出せる誠意だな」
正直、ただの学生である俺にはその秘密は決して軽くない。軽くないが……
「……ありがたく、受け取らせていただきます」
「そ、そうか。受け取ってもらえるか。な、なら……」
ベアトリスの体がすっと沈み、それと同時に掌に柔らかい感触が……おい、ちょっとまて、これって
「じ、自分の素顔を知る唯一の異性への誠意と感謝、それから……のあかしということで、こ、これくらいは許してくれ」
「い、いやでも……」
最後が何の証だったのかは聞き取れなかったがその……いやちょっとまて、まるで物語かなにかみたいなその……誓いの接吻をいきなり掌に、いや男女逆だけどやられるってそ、その……て、照れるというかなんというか。
「もし何か役に立てそうなことがあったら自分を呼んでくれ。何をおいても助力にいくからな」
「あ、ああ……その、ありがとう、たいちょ……」
「ベアトでいい。この顔の時だけは、隊長じゃなくてただの一人の女だからな」
「……わかった、ありがとうベアト」
「ああ、どういたしまして。なんてな」
くすりと笑うとたいちょ……ベアトの姿。それは短くも充実した今回の実習の終わりにふさわしく、まばゆいもの。
婦長の満足するレベルに到達してないが、それでも今回俺とフィーユが為すべきこととしてなした報酬としては、十分すぎるものだろう。
医の道に終わりはない。まだまだやれること、やらなきゃいけないことはいくらでもあるが……とりあえず今回のところはこれで十分としておくか。
第二章はこれにて完結となります。
次話は明日の08:10になります




