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28話 清潔!消毒!大事!

10万字突破!多数の閲覧ありがとうございます! 二章もあとちょっと……最後まで頑張ります!


「では続きまして今回、私たちが導入した新規の治療と管理について説明させていただきます」


 まだ塩飴の件で苦虫を噛み潰している幹部一同が俺の言葉にますます顔をしかめる。そんなに噛み締めて歯が残るのか人ごとながら心配になってくるが、まぁいいか。


「まず治療そのものについてですが、今回私たちは治療する上で傷口、それから私の手は必ず魔法で徹底して洗浄、それから念のため毒消しをほどこした上で回復魔法を使用しました」


 アルコール消毒はさすがにまだこの世界で普及は難しいが幸いにも毒対策の魔法は初級の回復魔法。本来は消毒用の魔法じゃないが代用としては十分だろう。


「聞けば聞くほど無駄ばかりですね。いったいどこをどうやったらそんな無駄なことをしようと思うのやら」


 先ほど痛い目を見たばかりなのに懲りないというか、逆に今度こそと思っているのか? どっちにせよこちらでも俺をやり込め用とするつもりか。うんうん、やりがいがある。クレソンやその取り巻き相手よりよっぽどやりがいがある。


「毒消は傷をつけた武器に毒がある場合や前の患者に備えて、洗浄は砂などの異物を取り除くためです。ご存知とは思いますが回復魔法はその場で傷を塞ぎますので、砂などがある状態で使用すればその砂などを取り込んで傷が塞がってしまいあとが残ってしまいます」


「痕の何が問題だ! 訓練の傷は戦いの記録にして魔法師の誉! むしろそれを奪うほうがどうかしている!」


「そうだ! 貴様は我らを侮辱するつもりか!」


「傷を持たぬ魔法師など臆病者の証拠! なにが残さないためだ! 余計なお世話だ!」


 うん、ジャン大隊長だけでなく他のお歴々も似たようなものか。これは白兵魔法師に限らず魔法師全体でその傾向があるみたいだからなぁ。レティシアの治療した時だって父さんも傷痕とか気にしてなかったし。ただまぁ……


「ですが傷痕を残すと相手に情報を与えることになりませんか?」


「なに?」


 俺の言葉に怪訝な顔を浮かべる幹部たち。ああ、うん。本当に思考停止してるんだな、この様子じゃ。


「小隊長、お聞きしますが目の前の相手が特定の箇所に傷が多かったらどう思いますか?」


「そうだな……傷の位置や種類から色々と類推できるな。例えば傷が膝にあれば機動力や持久戦に難がある。腕ならそこの防御が甘いとも考えられるし、指先の傷は針のような暗器を所持している可能性が考えられる」


 ゲームでも王道だものな、傷痕が弱点なんかのヒントになっているの。スポーツなんかでもそうだ。過去の怪我の記録とかから弱点となっている箇所を攻めるのは鉄板中の鉄板戦法、しないほうが失礼まである。


「“傷というのは戦いの記録”とは至極もっとも。なら“戦士たる自分たちにはその意味を読み取れて当然”といえる」


「ありがとうございます。このように、傷痕を残さないことはこのようにメリットもまたあると考えられます。少しでも相手に情報を渡さないのは実戦を想定したら有意義なことです」


 今まさに向こうが言ってきた言葉を流用するあたり隊長もわかっているというかさすがというか。おお、さっきそれ言ってた幹部顔を真っ赤にしているな。でもまぁ自分の言ったことだし、これで傷痕を残さない理由ができたし残さないことに文句は言えないな。


「で、ですが! たしかに傷をなくすことに意味があるとしても実戦を想定するなら魔力と時間の無駄遣いであるそのような治療は行うのはどうかと」


 うん、残さない理由ができたら治療方法そのものを否定するしかないよな。でも悪いな大隊長、そのあたりのツッコミは初日に隊長がしてくれていたんだよ。だから当然準備はしてある。


「次はこの表をごらんください」


①洗浄・毒消せずに治療した後、後遺症がでた:四十

②洗浄・毒消せずに治療して後、後遺症なし:六十

③洗浄・毒消して治療した後、後遺症がでた:五

④洗浄・毒消して治療した後、後遺症なし:九十五

⑤洗浄・毒消せずに治療した箇所:百

⑥洗浄・毒消して治療した箇所:百


 俺の言葉と同時にフィーユが発表会の時と違って今度は各自の眼前に一枚ずつ表を浮かび上がらせてくれる。これでは目を逸らすこともできないし、見えないという言い訳はできないな。


「これは十九小隊の皆さんの協力の上で行った、洗浄をしない治療と洗浄をした治療をそれぞれ百回行い、その後の結果をまとめたものです」


 スポドリのおかげ訓練が活気付いてるから傷口を二百カ所めるのも簡単だったし、治療法に差をつけるのも小隊長のためといったら一瞬だった。隊長、本当に慕われているんだな。誰も文句一つ言わずむしろ断るのに難儀したくらいだ。


「後遺症とは治療後しばらくしてから赤く腫れて痒くなったり、あるいは塞いだはずの傷口から再度出血したりなど、ともかくなんらかの異常を認めたということですが……」


「ずいぶんと差がでましたね」


「はい。洗浄・消毒なしでは百人あたり三十五人の違いです。これは言い換えますとおよそ三人洗浄消毒して負傷者を治療すると後遺症がでる患者を一人減らせることになります」


 この比較方法は絶対リスク減少率とNNTといって絶対リスク減少率はその治療を選択した場合どれくらいの割合で差がでるかを示すもの、そしてNNTは割合的に何人治療をしたら一人の罹患を防げるかを示すものだ。今回は母数を百で統一しているからとてもわかりやすいし、NNTもリスク減少率分の一で求められるから難しい考え方じゃないな。


「まだ動ける、軽傷といっていい相手でこれだけの差ですからもっと重症の人だったらさらに差がでるかと思います……戦死者の数も大きく減る可能性もあるかと」


 手洗いの父、センメルヴェイスは塩素消毒で産褥熱を激減させたりとてつもない成果をあげて数字でも示したが理解が得られず精神を病み不遇のまま死を迎えた。

 だが幸い俺の目の前には前回の俺の発表を評価できて、おまけに相当えらいらしいシャルロットがいる。なら、その有用性を匂わせて損はない。


「なるほど……もし、あの時回復魔法師が毒消しと洗浄をすればひょっとしたらあいつも……」


「おい、なに言っている。こんな小手先の数字になにを……」


「だが、実際回復魔法で傷を癒してもらってから死ぬことは少なくない。それが少しでも減らせたら部下達にとって……」


 おっと、ここで幹部たちの空気が割れてきたな。俺の発表に興味をもって、数値などが理解できてるかはわからないが実際に命を救ってくれると考えている層と頑なに俺の意見を認めたくない層。

 そしてジャン大隊長は……やっぱり後者か。まぁどっちでもいい。正直大隊長個人に興味があるわけでないし、それに今の空気で種まきは十分できているのはわかった。さぁ本命といくぞ。


「また、私たちはこれらの治療を施す上で患者あるいは患者を運んできた人に患者の名前、負傷した状況を聞いた上で負傷箇所、負傷の具合、施した治療と併せて全て記録しました」


「ば、ばかばかしいにも程があります! 治療屋は治療屋らしく治療だけしておけばいいのになんでそんな記録を残すのに時間をかけるのですか!」


 俺たちのことを受け入れる空気が出来つつあるから必死だな大隊長。でも、もう遅い。今からじゃ挽回は無理だし、させない。


「大隊長は忘れっぽいのですね……今までのお話をちゃんとご理解しておられないので?」


「な、なんですって! あ、あなたなにがいい」


「傷痕は敵に情報を与える、ならば治療記録もまたこれ以上ない情報ですよ」


 俺がそういうとフィーユが一枚のカルテを皆の前に浮かべてくれる。ほんと、これ以上なくいいタイミング。


「たとえば今皆さんの前に提示した隊員ですが五日前に右手、四日前に左手、三日前と二日前にも右手と腕の負傷が多く腕の防御に問題がある可能性が考えられます」


 そしてそのカルテの次は複数枚のカルテが並んで隊員たちの手元に映し出される。そうそう、次はそれだな。


「続きましてこの隊員Aと隊員Bと隊員Dは別々の日に右手を負傷しましたが状況記録によると全員の組み手相手が同一人物であり、この相手の隊員は右手への攻撃の加減が下手である、あるいは右手打ちを得意としているのでさらに伸ばせる可能性がある」


「……たしかにどちらも考えられるな。そろって防御が下手という可能性もあるが、AもBもDも他の隊員から負傷させられてない事実もあるし確認する必要はある」


 先ほど洗浄・消毒で俺たちに好意的だった人がカルテを見比べてうんうんと唸っている。よしよし、ちゃんと自分で考えてくれているし理解してくれているな。


「記録に残してそれを数値として分析すれば色々と見えてくるんですよ、こんなのはほんのさわりにすぎません」

 

「そんなの……隊長や自分がそれぞれ把握したらそれで済む話では……」


 不平を漏らすジャン大隊長。ほぉ、個別に把握か。それなら……


「大隊長、昨年の今日、あなたの部隊で負傷者は何人でましたか?」


「は?」


「大隊長、お答えください。昨年の今日、負傷者は何人でましたか? どこで訓練していましたか? その負傷者傷はなんでどのように怪我しましたか?」


「そ、それは……お、覚えているはずないでしょう! 一年も前のことを一々と!」


 語るに落ちるとはこのことか。大隊長は逆切れ気味に怒鳴り返してきているが今のは墓穴だ。


「このように、個人の記憶頼りでは限界があります。なんせ先週の夕食のメニューの内容ですら怪しいのが人間ですから……私も正直自信がありません、そういえば小隊長がおかわりを四回していたなくらいのものです」


「ご、誤解です! メディク殿、その日自分がしたおかわりは五回です!」


「そっちの誤解、というか覚えているんですか」


 俺の言葉と小隊長の切り返しでシャルロットをはじめとした一同がつられて笑い出してる。これはもう、完全に流れが変わったな。

 冗談に応じられるくらい場の空気が和んでいる今、もはやここはアウェーじゃない。ここから一気に締めまでいくとするか。


明日も08:10ごろに。先週投下予定だった新作はもうちょっとクオリティーをあげて量も書き溜めてからということで

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