3話 さらば幼少期、こんにちは学生生活
急募:原稿かきながら黄金の羊を自動でもふる方法
俺とレティシアが魔法の訓練を開始してからおよそ十年が過ぎ、俺たちはそろって十六歳になった。
「メディ兄、今日から学院だけど大丈夫かな」
「レティシア、メディ兄はまずい。ちゃんと学院ではメディクと呼び捨てにしろよ」
あれからレティシアは父さんだけでなく父さんの人脈を駆使した超一流の講師陣に鍛えられることとなった。そしてその面々が尽くレティシアの才能と成長に舌を巻き、方方でレティシアのことを褒めまくった。その結果、噂が噂を呼び今では国で一番期待されているノワル家の秘蔵っ子、ノワル家始まって以来の才女と国で知らぬものはいないといっても過言ではない。
その一方で俺はというとあれから訓練こそサボったことはなかったが、レティシアを昼寝しない兎とするなら俺は打ち上げられた海亀、比較すること自体が間違いの完全無欠な落ちこぼれだ。
正直それだけなら愚兄賢弟ならぬ愚兄賢妹(従妹だけど)でよくある話ですんだのだけど、ノワル家はもともとこの国では知らぬものがいないほど有名な攻撃魔法の大家。おまけに父さんは国(お約束というか王政だ)の宮廷魔法使いの長といわゆる魔法使いの頂点で英雄とまで言われた男、母さんは俺を生む前はその右腕として数々の功績をあげた才女。
そんなノワル家や親族の名に恥じない才能をレティシアが示せば示すほどその真逆を行く俺のダメっぷりが浮き彫りになるわけで。もはや俺はノワル家の不肖の息子、失格嫡男、レティシアの出がらし(俺の方が先に生まれているのだが)、恥さらしなどなど片手の指では足りないくらいのあだ名をつけられている有様だ。
そんな俺達だがこの度揃って国が運営する魔法学院へと入学することとなり、今まさにそこに馬車で向かっているところだった。
その学院は父さん、そして母さんも卒業したこの国で魔法を生業とする一流どころの登竜門。卒業するだけで食うに困ることはない。まぁ、日本で言うなら東大みたいなものだな。
「はーい。でも、伯父様と伯母様の母校、あたし達も入れてよかったねメディに……メディク」
「俺が入れるのはほとんどレティのおまけみたいなものだけどな。普通なら俺は門前払いさ」
そうなのだ。揃って入学と言ってもレティシアは学院側に請われての入学であり一方俺はお情けというか完全にバーター、お荷物である俺を入学させるという条件なら父さんたちがレティシアを説得してくれるだろうという意図が見え見えだ。
「でもメディに、メディクは回復魔法すごい上手じゃない? あたしが練習で怪我をした時いつもすぐ綺麗に治してくれるし。だから普通に入れるんじゃ」
「外でもなかでもノワル家の基準は攻撃魔法ありき。そしてその分野じゃ俺は完全無欠の落ちこぼれだから論外扱いは変わらないさ」
レティシアはフォローしてくれようとするが事実は事実として受け入れないとな。悲しいがそれが現実だ。
「それに俺が使える回復魔法はほぼ初級、中級魔法でも使えるのは数えるくらいだぞ」
この国、いやこの世界なのかもしれないがとにかくこの国での魔法の評価は高難易度高威力主義。ようするに難しい魔法を使えるほど優れた魔法使いであり、威力が高いほど魔法は優れている扱いだ。
そして俺が使えるのは攻撃魔法は初級未満の幼稚園レベルの代物、回復魔法も基礎とよばれる一般的な魔法がほとんどだ。
なんせ指導者は爺やしかいなくて爺やが使える魔法しか習えなかったし父さん達はレティシアの指導に夢中でこっちまで手が回ってなかったからなぁ。
あと、回復魔法は攻撃魔法と違って実際に使わないと成否がわからないのも大きかった。けが人いないと練習にならない、症例を集めるには患者がいないと無理というね。
いや、爺やは自分が上級回復魔法の練習台になるからとかいってたけど上級回復魔法が必要になる怪我を自前で用意されたら逆に困る。
前世で外科の教授が外科医は患者を死なせた数だけ成長するって言ってたけど納得するしかないな。
「でもでも、やっぱりメディクの魔法はすごい上手じゃない。あの時だってメディクがいなかったら……」
レティシアがあの時というのはきまって今から一年くらい前、レティシアが父さんと訓練をしている時にレティシアが新しい魔法に挑もうとして制御の失敗してしまったことだ。
これ自体はよくある話で終わるがレティシアの場合はそうもいかない。速く走る人ほど転ぶと怪我が大きいというがレティシアの場合もろにこれ。挑んでいた魔法が高度でレティシアの魔力も桁外れとあってその被害も甚大、レティシアは己の魔力で火だるまになってしまったのだ。
幸い火はレティシアが自力ですぐに消すことができたのだが、それでもかなりの火傷を負っていた。その壮絶な光景に一緒に訓練していた父さんや見守っていた使用人たちも誰も動けなかったのも無理はない。そして……
「レティ大丈夫か⁉︎」
とっさに動けたのは、その時近くで自主練をさせられていた俺だけだった。
「邪魔だからどく! 父さんは氷をいっぱい出して! あとだれか爺やを呼んで!」
今思い返すと恥ずかしいというか余裕がなかったというか。前世の救急車実習で心停止の人に胸骨圧迫させられた経験が生きたというべきか。いやうん、あの実習やらされた時は学生にやらせていいのって頭真っ青になったけど、おかげで火傷したレティシアを前にしても動けたんでありがたいと思わないといけない。
「メディク、そんなことより早く回復魔法をレティシアに」
「ごちゃごちゃ言わない! まずは冷やす! だいたい服の上から回復魔法をかけたら変な治り方して余計危ないだろうが!」
「いやだが現場の回復魔法師は」
「うるさい! いいから黙って氷を作れ! それでレティを冷やせ!」
「あ、はい。それじゃ服は邪魔っていうなら脱がしておく」
「勝手に脱がすな! よく冷やさず脱がすと火傷が悪化するし痕が残るだろうが! いいから黙って氷作れ!」
「はい……」
うんまぁちょっと切羽詰まり過ぎて父さんに対して怒鳴り散らしたりもしたけど、緊急時だったししかたないよな。
で、父さんを黙らせてからも俺はとにかく必死に、国家試験のために詰め込み、覚えこんだ近代医学の知識を引っ張り出してできうる限りの応急措置を施した。それが終わってから爺やと一緒に回復魔法で治療をしたんだけどその結果……
「あの時、ほんと熱くて痛くて怖かったけど……メディ兄の声がすごく頼もしくて……痕も残らないで綺麗に治って」
うん、幸いにしてレティの綺麗な肌に瘢痕は残らずすぐに良くなった。
「そう言ってくれてありがとうな。レティの綺麗な肌に痕が残らないように頑張った甲斐があったし……あの時は俺がいてよかったよ」
実際レティシアの肌に火傷やら凍傷やらの痕が残らないようにキレイに治すってのは普段からものすごく気を使ってるしな。かわいいかわいい妹分に下手な治療痕を残すのは論外だろ。
というか、あとから聞いたけどあの時レティがしたくらいの火傷なら治療痕は残って当然。むしろ魔法師としちゃ修行の成果で誇らしいとか言うけどそれとこれとは話は別ってもんだ。
「うん! メディクのおかげでまた魔法のお稽古安心してがんばれたし。でも、そのせいでますますメディクの評判が……」
「気にするなって。俺がそうなってるのはレティが悪いからこうなったんじゃないしな」
レティシアが露骨に落ち込むがほんと、気にしなくていいのにな。レティの評価が上がって俺が相対的に下げられたとしても悪いのはレティシアじゃないというのに。
レティシアくらいの才能があればもっとこう調子に乗って俺を下にみてもおかしくないってのに、ほんと俺にはもったいないくらいのいい妹分だ。
「大丈夫だって。レティのお陰でせっかく入学できるんだから精一杯勉強して将来の糧にするさ。学園ならいろんな魔法の勉強ができるし将来の選択肢も増えるからな」
バーターでも入学できたのは事実。なら勉強しないと勿体無いしな。爺やから習えなかった回復魔法はもちろんだし、まだ手をだしてない種類の魔法も試してみたい、とにかく習えることは習い尽くさないと。
第4話は本日11:10ごろに