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27話 わしのわかいころはは聞き飽きた

1日3000pv達成!ブクマも90をこえて本当に嬉しい限りです!


「えー、では只今より発表のほうをさせていただきます」


 ようやく相手を席につかせて耳を聞かざるを得ない状態にまで追い込んだとはいえ、そこから納得させられるかは別問題。つまり、ここからが本番ということだ。

 フィーユの準備は……うん、目があったら微笑んでくれた。大丈夫ってことだな。


「ではまず先ほどから色々な御意見を頂いている事柄についてご説明をさせていただきます」


 お、大隊長やその取り巻きたちが無言で恨めしそうに睨んでくる。でもいいだろ、これくらいの嫌味は。というかそれ以外どういえっていうんだ。


「今回私たちは第十九小隊の皆さんに訓練の間に塩を煮詰めて少々味をつけて固めた塩飴とライムの絞り汁と塩を加えた飲料を訓練の合間合間に摂取していただきました」


 まずは先ほどからなにかと非難されているスポドリと塩飴についてだ。もともとはカルテなんかの協力報酬として導入したのにここまで大事になるとは……いまだに高校野球界でスポドリを嫌う人がいる意味をなめていたな。


「訓練をすれば汗をかきます。水瓶の水をイメージしてもらえばいいですが汗という形で水を外にだしてばかりだと空っぽになってしまいますよね? 財布のお金も使えば減ります。だから空っぽになる前に補充するのが大事です」


「普通の水じゃいけないんですか? わざわざそんな面倒くさいものつくらないで汗かいた分水飲んどけ、でいいのでは?」


 さすがシャルロット。俺の例えにたいして鋭いツッコミだな。たしかに汗かいても水のめばいいんじゃね? というのは現代でもわりと多くの人が落ちてきた落とし穴だからなぁ。


「汗まみれになった服が乾いたら白くなってしまうことからもわかりますが、汗には塩が含まれてます。汗がしょっぱいこともそれを裏付けてますね。だから水だけ飲んでも塩は戻らないんです」


「ああ、なるほど。そういうことなら納得ですね。飲みかけのティーカップにお湯をいれてもお茶は薄くなるだけ、入れるなら同じものを。そっちのほうが健全なのはわかりますよ」


 まぁ本当は電解質がどうのという科学的な説明もできるんだが、それはこの場では必要ないからな。感覚的になんとなくわかってもらえば十分、シャルロットも納得してくれたしな。

 ただシャルロットには伝わっても……


「ふん、小賢しい理屈ばかりこねまわしますね。そんなもの必要ありません。わたしが若い頃は水も飲まずに一日中訓練をしたものですし」


 ジャン大隊長、やっぱりだしてきたな、わしが若い頃は。そういうのは本当にいいから。自分が苦労したからってそれを押し付けないでくれ、頼むから。非効率にもほどがあるから。

 とりあえず、その意見今日殺させてもらうからな。


「その上で先日、十九小隊の隊員の皆さんに協力してもらって一つの実験を行ないました。まず三十人の隊員の水筒を事前に預かり、三種類の中身を“本人たちにもわからないように”してつめて渡しました」


①ライムで香りをつけただけの水:十人

②普段だしている飲料:十人

③からっぽ:十人


 俺の言葉にあわせてフィーユが発表会の時にしたように一覧をぽんっと虚空に浮かばせてくれる。これなら勘違いしようがないな。


「えっと、メディク君。なんで本人たちにもわからないようにしたんですか? そんな面倒なことしないでふっつーに渡すかこっちのめーでよくないです?」


「情報が入ると色々と配慮や思い込みをしてしまうのが人間ですし、周囲の人にもなかった、とは言い切れなくなってしまいますからね……阿っておべっかつかったんじゃと思われるのはお互いに不幸です」


 いわゆる情報バイアスってやつだな。新薬の治験なんかをするとき二種類のグループを作って片方には新薬を、片方にはプラセボ、ようするに効果がない薬を患者にはわからなくして渡す。そうでないと新薬を飲んでいるから効くはずだ、なんて意識がでて調査結果に個人的な思い込みが入るリスクがあがってしまうからだ。

 被験者に情報を渡さず情報バイアスを避ける方法を一重盲検といい、これをさらに徹底すると薬を渡す医者にも情報を隠す二重盲検やその解析を行う人間まで情報を隠す三重盲検になる。まぁそこまでやる必要なかったからやなかったが。


「からっぽの水筒だけはごまかしようがありませんが、ただの水と塩をいれた水はちゃんと同じように香りをつけて味でもわかりにくくしてます。そしてその上で訓練後にその日の訓練での疲労度を聞いたところ」


 

①ライムで香りをつけただけの水

いつもより疲れた:七人 いつもと同じ:二人 いつもより楽一人

②普段だしている飲料

いつもより疲れた:二人 いつもと同じ:六人 いつもより楽二人

③からっぽ

いつもより疲れた:十人


「こうなりました。いつもというのは既に飲料や塩飴を使っている状態と比較してになります」


 数字をみれば明らかだが、まぁスポドリの味を覚えた人から水分補充を奪えばそりゃ疲れるしからっぽの人はふざけるなになるよな、うん。


「こんな個人の感覚のことなどなんの証拠にもならんぞ」


 お、今度はジャン大隊長以外の人からきたか。やっぱりまだ受け入れられないし、そこを気にするか。


「そう言われると思いまして、この質問のあと全員に追い込みの腕立てをしてもらったところこうなりました」


①ライムで香りをつけただけの水

自己ベストより二十回以上減った:三人

自己ベストより十回以上二十回未満減った:四人

自己ベストより十回未満の減少:三人


②普段だしている飲料

自己ベストより二十回以上減った:一人

自己ベストより十回以上二十回未満減った:二人

自己ベストより十回未満の減少:七人

③からっぽ

自己ベストより二十回以上減った:八人

自己ベストより十回以上二十回未満減った:二人

自己ベストより十回未満の減少:なし


「選んだ三十人の隊員の平常時の記録には大きな差がないのにこのように明らかな数値の違いが認められました」


 さて、わかりやすい区別をみせたけど……


「ふん、こんな数値なんの役にもたたんわ。このような差は気合と精神で補わんか。わしが若いころは物資もなくてそれでもだなぁ」


 まぁそうくるよな。だがそれに対する答えはもう用意してあるぞ。


「気合と精神も結構ですがら白兵魔法師団の志願者数減や離職者増加の解消にはつながるのではないですか? 


「ぐっ」


 隊長から聞いたことだが、最近は白兵魔法師団の隊員数が減っているそうだ。まぁ訓練が厳しく体を張って、そこに水分補給も許さないではそもそも希望しなくなるし、希望しても熱中症で倒れて続けるの無理になるやつらも少なくないよな。



「それでも話になりません! なんですか、この感覚まみれの意見は! それにこれっぽちの人数のあれこれなんてただの偶然かもしれませんよね!」


 ジャン大隊長、たしかにそれはその通り。今回の塩飴とスポドリのデータの弱点はそこだ。感覚的なデータが主であり、データ数も少ない。だから……


「でしたら大々的に試してみませんか?」


「なんですって?」


 ちゃんとどうするかは考えてあるんだよ。弱点をちゃんとどうにかする手を考えておくまでが準備だからな。


「まさか、他の部隊が協力するとでも思っているの? 冗談じゃない、たかが多少数字ででたからってそんな軟弱なことを誰がうけい」


「別に部隊にやってもらう必要はありませんが」


「なっ⁉︎」


 根回しでどこにも協力させなかったりあるいはデータを捏造させるつもりだったのだろうが残念だったな、そこまでこっちは甘くない。


「塩飴と飲み物が有効なのは白兵魔法師の訓練だけではありませんから。建築現場の人や農家の人、見張りの衛兵。動いて汗を大量にかく人たちに試してもらって評判を聞いてみればいいかと」


 馬鹿正直に軍で試す必要はない。それよりはるかに大規模で正直な場所があるのだからそちらにシフトすればいい。


「レシピは無料公開するつもりですし、なんでしたらいくつかの商家に商売させてもいいかと。そうしたら良いものかどうかの結論は嫌でもでますよ」


「そうですねー、効果がこれってわかるものなら商売になるから皆さん買うでしょうし商家もがんばって売るでしょうねー。ええ、論より証拠になりますね」


 さすがシャルロットはわかっているか。そういうことだ、商人は売れるものは仕入れるし売るがそうでないものには見向きもしない。商人が根付かせるということは利益が生まれるだけの需要があるということであり効果がある証拠といってもいい。


「しっかし、レシピを売るじゃなくて公開ってメディク君商売する気ないんですか? メディク印の鍛錬飲料とかメディク印の塩飴で売ったら儲かりますし取り分でガッポガッポ、なんなら商家を紹介しますよ?」


 う、そうきたか。でもなぁこれはさすがに恥ずかしい。俺のスポドリも塩飴のレシピもまるパクリだし工夫したものでもないからな。それに白兵魔法師団で導入検討などを前にだしたほうが売れるだろうし、なにより……


「……利益より一人でも多くの人が元気に働けるほうが大事ですから」


 熱中症はダメだ。本当にダメだ。あれを舐めてるやつはサウナに半日くらい閉じ込められてみるといいし目玉焼きは生卵に戻せないことすらわかってないとわかれ。

 夏場に救急の実習をしたから何人も見たからな、重度の熱中症で運ばれて管まみれになっている人。外から冷やすのじゃ追いつかないから血を体外で冷やして戻すなんて作業しなきゃいけないという本当に危険な病気なんだ。

 俺が稼ぐよりも注意すれば防げる病気であるこの病気になる人が少しでも多く減るほうがよっぽど有意義さ。幸い金には困ってないしな。


「それにノワルの落ちこぼれである俺の名前や持ち込みより十九小隊で好評! とか白兵魔法師団で導入検討中とかそういうほうが信用されてよく売れますよね。そっちのほうがお得ですよ」


「……メディク君は大物なのかバカなのか、無欲なのか強欲なのかわかりにくいですねぇ」


 そんな珍獣をみるような目でみないでくれ。俺は別におかしなことはしてないんだから。

 とはいえ、これ以上軍で試すのでなく外で試すという意見に否定的な人はでてこないみたいだな。それならこれで塩飴とスポドリの話は十分だな。なんせこれは本来おまけなわけだから……


「しかしこうなるとこれだけの大きな案件ですし小隊長はよくこれを認め試させたと褒められこそすれ処罰しては筋が通りませんね」


「ぐ……し、仕方ありませんね」


 このように塩飴とスポドリで隊長が責められることはなくなれば当初の目標としては十分。国全体で熱中症対策が前に進むという大きなおまけ付きだ。

 しかしそんな口惜しそうな顔をしないでくれよジャン大隊長、これはまだまだ序の口なんだからな。


まずはジャブ。本番は次から。明日も8:10ごろに!


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