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24話 勇気と覚悟とプライドと

一日2000pv突破しました!本当にありがとうございます!

「しかし随分と早いな。毎朝走っているのは知っていたがもっと遅い時間だったと記憶しているが」


「たまたま早く目覚めましてね。気分転換を兼ねていつもより長く走ろうかと」


「なるほど、たまたまか。間が悪いというかなんというか……」


 フルヘルム越しだが、隊長が苦笑したのが伝わってくる。ええ、俺もそう思いますけどそれでよかった。正直知らないほうが辛かっただろうしな。


「隊長、今の人は」


「貴殿には関係ない、と言いたいところだがそうもいかない、か……彼は第七大隊隊長、ジャン=タリアン殿だ。そして第七大隊は我が十九小隊が所属する大隊となる」


「隊長の上司……というわけですね」


「ああ。階級としては五つ上で、自分と同じ白兵魔法師……それも十九小隊で隊長経験もある、な」


 うわ、上司でOBか。なんというかもう最低最悪にめんどくさいパターンだ。地球の運動部なんかでも金も口も出すうるさがた卒業生は本当に色々とトラブルの元だけどここでもそれはかわりないだろうし……


「あの、隊長。俺はここでや」


「それ以上は言う必要ないぞ、メディク=ノワル実習生。気にせず今日も仕事を全うしろ。隊員たちが塩飴と飲み物を励みにまた無茶するだろうからな」


 この前の会議から訓練中以外は俺をメディク殿と呼ぶようになった隊長が、誰もみてないのに実習生か。どう考えても首を突っ込むなといってるよなこれ。だけどさすがにここではいそうですか、はできないよな。


「それだと隊長が十九小隊の隊長でなくなるどころか降格、下手したら除隊までありえますよ」


「……それは、お前が気にすることではない」


「気にしますよ! 俺のせいで隊長が、毎日毎日誰よりもはやく鍛錬場にきて一番最後まで頑張って、その上隊員全員のことを気にかけてる……隊長たらんと常にがんばってる隊長がそうでなくなるのは絶対嫌です!」


 俺が来てからまだ四日。だが、隊長が慕われてることも、隊長がどれだけ努力しているのかわかるには十分過ぎる。この人をこのままやめさせて良いはずがない、ましてやヘルムの下に苦悩を隠したままでなんて論外だ。


「……貴殿は優しいな、メディク殿」


「別に優しくなんてないですよ。ただそう思ったことを言っているだけです」


 むしろなぜ優しいと言われるのかわからない。当たり前のことを当たり前に言っているだけだというのに。


「貴殿の立場なら自分のことなんて気にせずともいいだろ? 無視して自分のことだけ……来週まで続けたら形にといっていたしそれを考えればいいだろうに。貴殿はもし軍に入ったとしても」


 ああ、確かに隊長には来週には納得させるだけの成果を見せられるとはいった……だから、来週まで続けたら十分データは集まり実績になると言いたいのか。


「さすがにそこまで恥知らずじゃないですよ。お世話になった人に迷惑かけたまま我関せずを決め込むのは嫌ですよ」


「気持ちはありがたい。だがそれは隊員たちから塩飴やあの飲み物を取り上げる理由には……貴殿に今やっていることをやめてもらう理由にはならない。いや、やめたら絶対にダメだ」


 隊長、それって……


「貴殿は水分や塩を補充しないで訓練を続けるのは食事を与えないようなものといった。汗のしょっぱさは塩が含まれてるからとも。それはつまり過酷な訓練の途中で、特に暑い日の訓練で倒れる者が続出することと関係あるし、防ぐこともできるのだろう?」


「……ええ。暑い日の訓練で倒れたり動けなくなることの多くは汗で塩が失われすぎれてるせいだから塩飴と飲み物で防げますが」


「つまり塩飴とあの飲み物を使えば確実に訓練の質が向上し、倒れたりするリスクも減らせる。たしかに精神を鍛えるのも大事だが、それ以上にいざという時動けるように身になる訓練をするほうが結局は土壇場で命を救うことになる……それは小隊の回復魔法師としてはこれ以上ないほど正しい」


 胸を張って言い切る隊長。その仕草に気負いも、そしてかっこつけて無理をしている空気もない。いつもの訓練の時の、隊長の姿そのものだ。


「隊長、俺はそこまで考えて動いたわけでは……そんなに、俺の気持ちは高尚なものじゃ」


「だが、結果としてそうなるだろ? それなら隊長として部下が正しい行いをしているならばそれを守るのは当然のこと。たとえその結果上官にどのようにみられたとしても、そこを違えたら職務怠慢であり隊長を続ける資格はなくなる」


 本当にこの人はどこまで真っ直ぐなんだ。普通ならここまで頑固だと呆れ、そしていい加減にしろと思うものだがどこまでも筋を通しすぎていてただただ恐れ入るしかない。


「……なに、心配するな。さすがにいきなり除隊はないだろう。隊長を解任されるだけか、それか最悪でも降格ですむ」


「降格ですむって、あの大隊長の様子だと降格で済んでも二度と隊長には戻れない可能性が」


「確かに、な。白兵魔法師は内容と構成員の関係でバリバリの男社会。自分が戻れる可能性は低いだろうが……だが、それでも一度なれたのだから大丈夫だ」


 軽く言うがそんなに簡単なことでないのは隊長のわずかに震える鎧が物語っている。いくら隊長が傑物であっても歳は今の俺とさほど大きな開きはないはず。相応に恐ろしくもあるし、辛さもある。


「隊長、あなたが全部せお――」


 俺が思わず言いかけた言葉、それは隊長が優しくされど見えないほど素早く差し出した手で口をふさがれ言うことはできない。


「それに自分は貴殿に誓っただろ? ”行なっていることの成果が出るまでは自分が責任をもってそのやり方に異論は挟ませない”っと。頼むからどうか自分を誓いを果たせぬ不義理者にしないでくれ……自分の誇りを、守らせてくれ」


「――っ!」


 確かに隊長はそういった。あれはただ隊長が俺たちを守るという言葉じゃなくて守るから成果をあげてほしいということでもあったのか。


「……自分のことはいいんだ。貴殿たちが残した成果で隊員が、そしてゆくゆくは多くの白兵魔法師たちが苦しまなくて済む。小隊長一人の首ではもったいないくらいの大成果をあげられるのだからな」


「隊長……」


「さ、余り長々話すと他の隊員も起きるし貴殿が走る時間もなくなる。ほら、さっさと走ってこい。今日もたっぷり治療してもらうんだからな」


 そう言って隊長は俺に何も言わせず俺を置いて宿舎の中に入っていく。ああ、本当に隊長は全部背負うつもりなのか。

 その隊長の有り様とても真似できないほどまっすぐで尊敬しかない……だが、今俺にわきあがるのはそんな綺麗なものだけじゃない。

 あのジャンという大隊長は隊長が説明することを許さず一方的に殴りつけ、その根拠に俺の名前も利用した。話を聞こうとも、有用性を見ようともしなかった。

 正直、俺をノワルの落ちこぼれとして馬鹿にするのは愉快じゃないが別にいい。実際その通りだし、攻撃魔法使いの目線からみたら本当に出涸らし以外の何者でもない。

 だが、それを理由にまったく関係ないところで他人を攻撃するのはちょっと筋が通らないし……なによりあれだ、あちらがやっているのは医術とそして小隊長を侮辱することだ。


「ああ、そうかこの状況って……」


 今更ながら苦笑するしかない。よく考えれば今の俺が置かれている状況も、やろうとしていることもよく考えたら”とある偉大なる先達”とかなりそっくりだ。

 だとしたらあなたもこんな気持ちだったんでしょうか? 怖くなかったのでしょうか? 正直、俺は怖いです。相手はまだ学生の俺よりはるかに地位も権力もある相手ですから。

 でも、ここで退いてあの世であなたに会うことになった時の方がもっと怖いです。目の前で、俺のために俺より怖い思いをしてくれている人を捨てて逃げてそれで医の道を歩もうとしたのか? 医術をコケにされて平気なのかと聞かれることが。

 だから戦います。あなたの後輩として、医の道の末席にいる者として。こんな俺でも、医者になる道を進んだことにはプライドをもっているんで。苦しむ誰かのためとか人類の未来のためとかそんな高尚な理由でなくても、一生のものとして選んだ道だから。

 そんな安いプライドを、俺のために頑張ってくれた人……俺と違ってまっすぐに理想をもって道を選んで進んでいる隊長のために戦う勇気と覚悟に変えさせてください。

 それから自己犠牲をなさんとしている隊長が一人で全部抱え込まないで良いように、ついでに一言文句を言ってやれるくらいの逞しさをわけてください。

 あなたのように世のための人のための気高さとは違いますが、それでもあなたの真似をして進みますから。

ここからが本番。二章もそろそろクライマックスへ……

明日も08:10ごろに

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