23話 ハラスメントの概念なんてまだありません
昨日(10月5日)は過去最多の1700PV達成しました、本当にありがとうございます!
読んでいただけることが何よりの喜びです!これからもがんばります!
新作のほうはもうちょっとクオリティーをあげてから出したいので本日はなしです。申し訳ありません
「水筒に各自で入れて飴は一つっと……おい、ズルするんじゃねぇぞ! ズルが発覚したら隊長の拳骨に加えてその日は飲み物も飴もなしになるんだからな!」
「わかってる! もしズルしようとしているやつがいたらたとえ先輩だろうと遠慮なくしばき倒せ!」
スポドリと塩飴だがあの会議のあとマネージャー形式でも負担が大きいということで訓練開始前に所定の場所に配置し、それを各自がとっていくスタイルにした。
幸い訓練された部隊であるし、不正をした場合無事ですまないことが確定していることもあって配布は順調そのもの、むしろ混雑を避けるため早めに訓練場に来る人間が増えるという思いがけない副効果まであって隊長が自分の説教より効果があると苦笑したほどだ。
「順調……ですね。訓練も……盛り上がってますしこれならその……隊長にお見せする資料も……充実したものになるかと」
その盛況っぷりにフィーユが安心した声をあげる。確かにフィーユが言う通り順調そのもの、隊長も邪魔をしないと約束してくれているのだが……
「あの……どうしましたか? その、浮かない顔をされてますけど」
「いやちょっと……順調すぎるなって」
「順調すぎる、ですか?」
「ああ。こういう新しいことや今までと違うやりかたはもっと強硬に反発されることが多いし、それに……ちょっと、隊長の言葉が気になってな」
昨夜、隊長はこう言った。”異論を挟ませない”、と。挟まないじゃなくて挟ませない。まるで誰かが挟んでくるのを予見しているみたいだよな。
隊長の慕われっぷりやこの盛況をみていたら十九小隊の人が何かをこれ以上いってくることはないと思うんだが……考えすぎか?いやでも……
あれこれと昨日は考えながら寝てしまったせいか、実習四日目の今朝はいつもより余計に早く目が覚めてしまった。寝直すにも中途半端だし、かといってフィーユがいなければカルテの整理もできない。前世ならスマホで動画みたり漫画読んだり色々あったがこういう時、不便さを感じるな。
まぁないものねだりしてもしかたない、走るか。爺やに鍛えられたせいでもう習慣づいてしまっているのもあるけど、ただ走ることは無心になって気持ちがスッキリする。
さて、いつもより早い時間だけどどこまで走ると……
「小隊長、なにやら勝手なことをしているようですね」
「ジャン大隊長、お言葉ですがこれには理由が……」
あれ? 宿舎の入り口にもはや見慣れた隊長となにやら偉そうで居丈高な声をあげているなよっとしている中年男性の姿があるな。隊長が大隊長っていってることは隊長よりもさらに上の人か。こんな早い時間になにをしに……
「言い訳は結構! ああ、情けない。第十九小隊が、そしてその隊長がこうも堕落しているとは。まったくもって言語道断! しかもその原因が実習にきた学生とはああ、ああ恥ずかしい、恥ずかしいですよ」
……なるほど。原因は塩飴とスポドリか。もう評判になって、野球部でいう水を飲むのは堕落という昭和な先達さんがやってきたと。しかしこんな早朝にやってこなくても良さそうなものだが。
「いえ、ですが彼の意見には有意義なことも多く実際訓練の質も向上」
「あなたの主観は聞いてません! まったく、嘆かわしい。勇名高きかの部隊が訓練中に水を飲むほど落ちぶれるとは」
大隊長は階級差もあってか強く出れない隊長に対して一方的だな。チームの癌といってパワハラ認定されてた俺の前世のころじゃ間違いなくアウトだろ。まぁ時代も文化も違うんだがそれにしてもなぁ。
「だいたい、その学生の治療。傷が残らないようにわざわざ魔法をつかって傷口を洗い、場合によってはさらに魔法で処理をしてから回復魔法をつかっているとか。なんという魔力の無駄遣い! ただ回復魔法を使えばいいと指導すらできないのですかあなたは」
「それについても彼なりの考えがあってのことで、実際それで魔力不足も起こしてませんしそうしたほうが治りも良いとのことで」
うん、隊長も魔力切れを懸念して最初キツく注意してきたけど俺がこなせるのがわかったらそこで文句を言わなくなったよな。
「やかましい! いくら実習で補充人員として受け入れたとはいえ学生はあくまで学生、素人です! その素人に正しい方法を指導せず、意見させ、あまつさえそれを受け入れるなどそれでも誇りある小隊長ですか!」
「……自分は、それが部隊にとって有意義であると判断しまし」
「それもただの学生ならまだしも、よりにもよって“ノワルの出来損ない”とは! あなたに白兵魔法師の誇りはないんですか!」
……またそれ、か。攻撃魔法の面からそれを言われるのは別にいい、事実だから。だがまったく関係ないところからその名前をだされるのはさすがに面白く……
「大隊長、今の言葉は取り消しを」
聞こえてきた隊長の声、それは俺が今まで聞いたこともないくらいに静かに響き、暗く冷えて沈んでいっていた俺の心を現実に呼び戻すには十分すぎる。
「なに? あなた誰に」
「確かに彼は学生で実習で来ているだけ。ですが、それでも今は我が部隊の回復魔法師、自分の部下です。自分についてはともかく、部下を眼前で言われなく侮辱するのはたとえ上官たる大隊長であっても許せません」
迷いなく言い切る凛とした隊長の声からは特別なことをしているという気負いも虚勢も感じない。ただ、純粋にまっすぐ部下である俺のために言ってくれている。特別扱いじゃなく、そうしてくれている……それが、一番うれしい。
「部下、部下と来ましたか。ならばこれはあなたの上司である大隊長命令です。今すぐ、彼らがしていることをやめさせ実習を切り上げさせなさい。さもなくばあなたの監督能力は甚だ疑問があるとして来週の会議にて解任とします」
「――っ⁉」
ちょっとまて、それはさすがにやりすぎだろう⁉ 俺を理由に隊長の首を切るってどれだけ横暴なんだ!?
「部下に正しい指導を行わない職務怠慢もひどいですね。なにが有益ですか。我々が行ってきた手法が何よりも正しく、それに従わないのは害悪。余計なことを考えないで回復魔法師はだまって傷だけ治しておけばいいんですよ、それしか価値がないんだから」
こ、こいつ……こいつ、今何を……
「だいたい傷跡が残らない? 白兵魔法師の誇りの象徴たるそれを奪おうなんてさすが攻撃魔法師のなり損ない、浅ましい。訓練中に水を飲む? 心が弱る、飲んだらがんばれるなんて甘えで言い訳。苦しいなんて嘘つき手抜き、本当はできるのにやってないだけじゃないですか」
「ですが、実際に隊員からも治りも良いと評判で訓練の質も……」
「あなたの主観は聞いて、いえ保身のための見え透いた嘘はおやめなさい。そういうのは見苦しいですよ」
「じ、自分は嘘など」
「なら勘違いですね。そこまで目が狂うとは情けない。所詮は女に白兵魔法小隊の隊長など無理なのですかねぇ」
「せ、性別は関係」
「ふん、傷跡が残らないということで絆されましたか? その鎧だって常在戦場の覚悟と性別を隠すためとかいってますが本当は傷跡が残らないようにしたい臆病さからじゃないですか? 少なくともこのままではわたしや他の隊長達はそう考えますよ?」
どこまで、どこまでこいつは……
「よく考えなさい、あなたはどうすべきか。せっかく、苦労して念願の小隊長まで上り詰めたというのに、攻撃魔法師の出来損ないなんかをかばってそれを失っても良いのですか?」
「ですが」
「言うまでもないことですがこちらの賛同者は多いですよ? わたしも、他の隊長も水を飲むようなぬるい訓練も、遠くから攻撃することしかできないくせに持ち上げられるハリボテの英雄も大嫌いでしてねぇ」
隊長に有無を言わさずこいつはまくしたてる。一方的にパワハラセクハラ以外の何者でもないそれで、晒された隊長はただ口を挟むことを許されない。これはあまりにも……
「さーて、今日も一日頑張るかっと。朝訓練前にランニングでも……」
気がついたら、俺は能天気に大声をあげてさも今きたかのように足音を立てて歩きだしていた。
「……大隊長。そろそろ部下たちが起きだしますので今日は」
「おっと、そうですねぇ。では、今は返事をしなくて結構。ですがあなたのために特別に! 忙しい中わざわざ時間を作ってあげたその意味を理解して置いてくださいね」
ドタバタと去っていく足音が俺の耳に聞こえてくる。やれやれ、とりあえず隊長がこれ以上セクパワハラに晒されずには済んだか。さて、あとは素知らぬ顔で隊長をやりすごしてランニングに行くか。隊長も今、俺と話すのは気まずいだろうし。
「ああ、隊長。おはようございます。今日も早いですね」
「おはよう、メディク殿。先程は助けていただき感謝する」
「助けて?」
「途中から聞いていたのだろう? さすがに魔力と気配でわかるさ」
ああ……バレていた、か。まいったな、これじゃごまかしようがない。まったく、朝っぱらから重たい話になってきた。早起きは三文のなんて言うけど今回ばかりは損にせよ得にせよ三文じゃすまなそうだ。
続きはいつもどおり明日の08:10ごろで!10万字が見えてきたしがんばります!




