22話 練習後の運動部とかいてピラニアと読む
新作書いてたら夢中になってこっちの原稿が遅れかける不具合……あぶなかった
「うっまぁ⁉︎ え、なんだこれ。めっちゃグイグイいけるんだけど」
「この飴もなんというか……染みいるというか……ほっとする」
隊長の許可も出ていると聞いた隊員たちは患者だけでなく患者を運んだ人や患者と一緒の訓練班の隊員にもスポドリや塩飴を配布した結果、あちこちからこんな声が響いていた。
当然といえば当然だ。今の今までそれこそ昭和な強豪野球部みたいなことをしていた人たちにスポドリと塩飴がおいしくないはずがない。個人的には塩飴には麦茶派だがそこは我慢する。
「あ〜……いっつも後半は意識飛びかけているというか早く終わってくれというか考えないで体動かして誤魔化してたけどこれなら最後までやれるわ」
「ふへへ……この塩飴、最後に限界まで出し切って舐めたら美味しいだろうなぁ……」
うん、若干ヤバい感じの声が混じっているがそれは置いといてやっぱり効果は抜群だったようだな。救護場所からも聞こえて来る稽古の音が先日聞いたそれよりもはるかに大きく活気づいている。よし、この調子で午後の訓練も頑張るか。
なんて、この時の俺は軽く考えていた。でも甘かった。いや、甘すぎた。俺は、俺がもたらしてしまったもの……塩飴とスポドリの魅力を、そして高校球児なんて目じゃないレベルで激しい訓練をしている隊員たちの飢えっぷりを甘くみすぎていた。なんせ……
「第三分隊のギャレットです、頭から血がとまらないんできました! 飲み物ください!」
「第二分隊ザックです! 左腕やばいんできました! 塩飴ください!」
こんな具合に昼食後の訓練で八百屋お七よろしく怪我したら塩飴やスポドリを貰えると思った隊員たちがリミッターを振りちぎって訓練し出すことを全く予想できなかったのだから。
いや、わざと手を抜いてケガするじゃなくてケガするまで本気でやるという思考はさすが十九小隊とは思うけどそれにしても尋常でないというかどれだけ飢えているというか。
その熱があまりに危険すぎたんで隊長にお願いしてスポドリは一回の鍛錬で一人一杯、塩飴は一人一個ということで落ち着いたけどそしたら合間合間の小休止に殺到したりで本当にやばかった。
それでもなんとか、本当になんとか俺とフィーユで捌き切ってその日の夜……
「礼と、それから謝罪をさせてもらう学生……いや、メディク=ノワル殿にフィーユ=ジッド殿」
俺とフィーユは隊長の部屋に呼びだされ、相変わらずフルメイル姿の隊長に深々と頭をさげられていた。
「いや、こちらこそお騒がせして申し訳ありません。危うく訓練の邪魔になるところでした」
「大変……でしたね」
うん、隊長のお礼は嬉しいがあまり体力がないフィーユはもう死んだ目をしている。いやほんとうにやばかった……運動部御用達な食堂のおばちゃんたちってすごいんだと実感するしかない。
「次からはコップでなくて個人個人に水筒を用意して訓練開始前に渡すことにしましょうか」
運動部なんかでマネージャーがよくやる手だな。個別に用意しといて勝手に持っていけっていうのは。人手を増やさないですむし、正直俺とフィーユの本分はスポドリと塩飴を配ることでないしな。
「あ、ああ……そうだな。そうしてもらえると助かるな」
あれ、隊長。妙に歯切れが悪いというか申し訳なさそうというか。
「えーと……その、だな。二人に、いやもっと言えばメディク=ノワル殿に少々相談したいことがあってだな……」
うん、やっぱりだ。いつもならもっとはっきりと意見を言ってくるはずなのに妙に 遠慮しているというか後ろめたそうというか。
「なんですか? こちらでできることなら承りますが」
「うむ……その、こうも好評だった塩飴と飲み物を取り上げると間違いなく隊員たちが暴発しかねない。だから……」
「ああ、大丈夫ですよ。レシピはお渡ししますよ。そう作るのは難しいものでもありませんし、材料も高くは」
「いや、その。レシピはありがたいんだが……すまないが、もうしばらくはそちらで実物の用意してもらえないだろうか? その……代金は、あ、後払いで頼む」
「え?」
レシピじゃなくて材料費とかの心配?
「見ての通り当部隊の財政はよろしくない。その……塩飴と飲み物も確かに高価ではないのだろうが、隊員全員分を毎日揃えるほどの出費をいきなりは無理なのだ」
ああ、たしかにこの宿舎のボロっぷりだと納得しかないな……というか、そこまでカツカツだったんだ。
「宿舎もボロボロ、ですしね……」
「ああ。こちらも宿舎の修繕を行いたいが、訓練具の整備と隊員たちの給料、それから日々の食費でもうカツカツでな。どんどん後回しになっているのが現状だ」
「なるほど……食費、削ってないんですね」
「副隊長たちは削れるところは削れといったが食事は生命線だ。厳しい訓練は腹一杯食べられるからこそ。第一食事という楽しみがなくなったら自分は何を楽しみに……」
ああ、隊長やっぱり食べること大好きなんですね。食事の塩の話にものすごい食いついてましたし。
「……わかりました、では俺が実習でいる間は俺が費用をもたせてもらいます。俺の手出しなら実習のうちですし、ノワル家からであっても賄ではなく実習先への付け届けや差し入れ、で筋が通りますしね」
幸いうちは貧乏でもないし、実習先に付け届けを送るのはおかしくない。それが現物の差し入れなら尚更、これならこの真っ直ぐな隊長嫌いな賄賂やら不正、癒着とは無縁の支援ができるというものだ。
「すまない、助かる」
「いえ、隊長がこちらの意見を受け入れてくれたから起きた問題ですしこれもこちらの責任のうちですよ」
「……律儀だな、貴殿は。まったく、どうにも今日は貴殿に弱みを握られっぱなしだ」
「はは、おきになされずに。隊長に頼られるのは光栄なことですから」
実際隊長すごいからなぁ。訓練の時、隊員全員をよく見てその動きの一つ一つに注意を払っているし、先頭に立って突撃する時は全員が一つの生き物であるかのように一糸乱れず動き回る。
そしていざ自分が戦うとなると歴戦の猛者たちが複数でかかっても触れることすらできずまとめて殴り倒されて鎧が防具としての役目をまったく果たしていないくらいでなんというか……
「訓練の時の隊長は実に綺麗ですからね、援助させてもらえるなら逆にうれしいくらいですよ」
「……存外にたらしだな、まったく。つい甘えてしまいたくなる」
たらし? 秀吉みたいな人たらしってことか。いや、俺はコミュ力に難あるからむしろ逆だと思うんだが。
「まぁいい、ここは素直に甘えさせてもらう。その代わりといってはなんだが、メディク殿とフィーユ殿が行なっていることの成果が出るまでは自分が責任をもってそのやり方に異論は挟ませないと誓おう」
「本当ですか⁉︎ それは、助かります」
フィーユとしている魔法カルテ、その恩恵は母体のデータが大きければ大きいほど成果がある。だからじっくりと日数をかけた方がいいし、その許可がでたならこれほど助かることはない。最短で翌日、遅くとも一週間と隊長にはいったがそれは隊長を説得するための目安だったのでわざわざその説得をしないで済むならありがたいことこの上ない。
「なに、礼はいいさ。貴殿らの邪魔をしない方が隊員たちの為になると判断しただけだ。その分貴殿らもしっかりと働いてくれ」
「ええ、もちろん」
「……なんだか、小隊長とメディクさん親しげすぎませんか? その……何か、ありましたか? 私になにか隠してませんか?」
うっ、フィーユ、鋭い。というか、ジト目でこちらをみないでほしい。隊長のあれこれを隠してはいるけどそれは別にやましいことがあって隠しているわけじゃないから。
「ははは、なにもないぞフィーユ殿。ただ少し仕事の話を正面からぶつけ合って認め合っただけさ」
「……本当ですか? 隊長の仕草がその……初めて来たときと違って……少し柔らかくなっている気がするんですが……メディクさんの前でだけ」
「いやいやいや、それはさすがに気のせいだろう」
フルヘルムはこういう時表情隠せていいですね、隊長。訓練の時の凄まじさとは逆に味見の時とかで見せた素の部分はうっかり屋というかちょっと抜けてるというかでポーカーフェイスや目線のコントロールとか絶対無理ですよね。
今もフィーユの言葉に露骨に動揺してるというか、ちょっといくらなんでも過剰すぎるというかこれじゃいくら俺が黙っていてもばれかねないというか……しょうがない、フォローいれるか。
「まぁまぁフィーユ、それくらいで、な?」
「ですがその……」
「大丈夫だって。本当に話さなきゃいけないことやまずいことがあったら真先にフィーユに相談するしちゃんと話すから」
「……本当ですか?」
「ああ、本当。フィーユがいてくれないと本当に困ったことになるし、絶対嘘つかないって」
「……約束ですよ」
これで一安心、か。よかった。フィーユのむくれ顔は可愛くもあるけどどうせなら普段のほうが好きだし、これで隊長の身バレリスクも減ったな。
「……仲が良くて結構なことだ」
あれ、隊長。俺隊長のためにフォローしたんですけどなんか声が不機嫌じゃないですか? 気のせい、ですよね?
明日も08:10ごろに。新作のほうは明日投下できそうならまたこちらで告知させていただきます




