2話 チートは甘えという風潮
第二話となります。台風やばかったです……
「良い返事だ。さぁ、二人とも! 張り切っていくぞ!」
こうして、父さんとレティシアと俺は魔法訓練を開始することとなったのだがその日のうちに俺は悟る。俺に攻撃魔法の才能なんて欠片もないし、チートのようなものも何一つないと。
我ながら見切りがいくらなんでも早すぎる気もするが、こればっかりはどうしようもない。なんせ……
「おじさん! メディ兄! みてみて、鳥さんこんなにできたよ!」
訓練をはじめて一時間。俺が煙一つだせないでいる横で、レティシアがいとも簡単にその手のひらから無数の炎でできた鳥を飛ばしまくっていれば嫌でもわかるというものだ。
「レティシア、その鳥さんをあそこの木の所まで飛ばしてあげられるか⁉ こう、ぐぐぐぐっと持ち上げてぽいって行ってほしいところに離してあげる感じで」
「うん! ぽいっとすればいいんだね!」
それがいかに規格外なのかは驚愕を通り抜けて興奮を隠せなくなった父さんの姿が物語っている。
これ以上ないほどの宝石を見つけたと言わんばかりにレティシアの指導に夢中になって、レティシアも父さんの指導でどんどんできなかったことができるようになっていくのが楽しい様子。
もはや父さんとレティシアの頭の中に俺のことは欠片も残ってない。天才と天才の共感に凡人は小石も同然なのだ。
「す、すまないメディク。と、父さんついレティシアに夢中になって」
「ご、ごめんねメディ兄。す、すごく楽しかったの」
そんな二人が俺のことを思い出したのはどっぷり日が暮れてあたりが真っ暗になってからだった。
そして最初の訓練から数ヶ月。レティシアは父さんの指導で使えたら一流どころと言える魔法をいくつも習得、ノワル家始まって以来の天才だなんだと大騒ぎだ。
一方俺はというと……
「おお、メディクぼっちゃま。指から炎を出せるようになられたのですね」
「うん、練習頑張ったから」
レティシアにかかりっきりになった父さんのかわりに代々ノワル家に仕えてくれている爺やに見守られながら練習をした結果、ようやく指から炎を出せるようになっていた。
「でも、指からちっちゃいのを出せるだけだよ。レティみたいに鳥さんにしたりお空に飛ばしたりできないよ」
「はは、レティシアお嬢様は特別でございますから、比べてはダメですぞ。ぼっちゃまくらいの年でそれだけできれば十分でございましょう」
爺はすごいすごいと俺を褒めてくれるが俺は知っている。俺がなんとか使うことができたこの魔法は誰でも使えて当然、それもちょっとでも才能があるなら習ったその日や遅くとも一週間以内には使えるようになることを。
一週間たっても煙一つだせなかった時、父さんが俺への指導を諦めて爺に任せっきりにしたことが俺の攻撃魔法の才能の評価を何より物語っているだろう。
「よく頑張られましたなぁ、ぼっちゃま。爺は本当に嬉しゅうございますぞ……レティシアお嬢様と比べられながらよくぞまぁ、折れなかったものです」
そんな爺やが俺が出した炎を見ながら感極まったと言わんばかりにつぶやくが、俺にとっては何のことはない。
才能がないからって腐ったところでどうしようもないし、何より上には上がいるのは正直前世でなれている。
一応俺は医大に行ける程度には優秀だったし、努力もした。うん、中学も中高一貫だったし大学受験に行くために予備校をいくつもいって一日十時間以上勉強するのもざら。でも、それにまけずひたすら努力を重ねて国立の医大に入ったらそこはレベルが違うやつらの巣窟だった。
いや、本当にレベルが違うんだ。一応俺が入ったのは地方のトップ医大だったが東大理Ⅲ狙いから妥協して入ったやつらとか、トップ進学校出身のやつらとかはもうさしたる苦労をせず当たり前として合格している。
んで、試験前そいつらはほとんど勉強もせず、それこそ前日さらっとプリントを読んだりノートを借りたり過去問を解くだけで何倍も勉強している俺よりも遥かにいい点をとっていくんだ。
そしてそいつらですら俺がいた大学に「妥協した」組。つまりそいつらの上には東大理Ⅲや京都の医学部に余裕で受かったり文系で本当の上位に入る面々がいて、そしてさらにその上には国内の大学受験を鼻で笑う世界レベルの存在がいるわけで。
だが、そいつらを妬んだところでどうにもならない。あいつらは勉強しないからって勉強しなかったら落第留年が待っているし腐っていくだけ。うさぎが昼寝しようがしまいが亀は気にせず走るしかないのだ。
「レティの方がずっと上手だからって拗ねたらカッコ悪いもの。僕はレティのお兄さんなんだしね」
そのあたりをメディクとして言うならこういうことだろう。お兄ちゃんなんだし我慢しなさいを言われずに実行してるってことで。
「なんとご立派な! ああ、大旦那様がご存命ならさぞ喜ばれたことでしょう!」
「爺や、おおげ……あっち!」
爺やがあまりに大げさに感激するものだから集中を切らしてしまって、自分がだした火で自分を炙ってしまった。急いで冷やさないといけないけど、水道とかないし母さんに氷を出してもらうのが一番はや……
「ぼっちゃま、お手を見せてください。大丈夫、爺に任せてください」
「爺や?」
手を振って少しでも痛みを紛らわせようとしていた俺の側に駆け寄り跪いた爺やが俺の手を真剣な顔で取る。
そして次の瞬間、爺やの手が柔らかく光りそれと同時に俺の手から痛みが消え失せる。
「はい、これでもう大丈夫でございます。悪いところは全部爺が治しておきましたから」
「爺や、こういうこともできたんだ」
「ええ、できますとも。旦那様はもちろん、今は亡き大旦那様も若き頃は毎日お怪我をなされてそれを爺が魔法で癒して差し上げたのですから」
それは知らなかった。しかし、回復魔法もあるのかこの世界。今の今まで怪我一つなくすごしてたから気づかなかった。
病気を癒す魔法があるのかどうかはしらないけど外傷を魔法で治せるというのは便利だし興味深いな。
「爺や、僕にも今の魔法教えて!」
興味をもったら、迷うことはない。俺は爺やに即教えを請うていた。いや、たしかに腐らず努力するのも大事。でも労力は有限なのだから見込みがないものを損切りして別のものに注ぐのはもっと大事だ。センター試験とかそういうことしないと合格ライン超えられないしね。
なにより、医者になろうとしていた俺としては回復魔法なんて興味を持たない方がおかしいし。
「この魔法をですか? いや爺はそう言っていただけると嬉しいですがその、このような魔法は坊ちゃんが習うようなものでは」
「いいから! 僕がこの魔法を覚えたらレティが怪我したら治してあげられるもの!」
この言葉にも嘘はない。実際、魔法の練習は火傷や怪我が付いて回るなら俺がそれを治せたらレティシアが怪我した時すぐに治療できる。かわいい妹分の玉のお肌に火傷あとなんて残してなるものか。
「ぼっちゃまはなんとお優しい! 爺は涙が止まりませんぞ!ええ、ええ! お任せください! 爺がこの身この命に代えてもお伝えしますぞ! ええ、練習台が必要なら爺のこの腕をいくらでも」
「だから爺やはちょっと大げさだって」
爺やの勢いはちょっと怖いが、それでもやっぱりここまで俺のことを考えて、そして褒めてくれる人がいるのはそれだけで嬉しい。
攻撃魔法の才能やチートはないけどそんなの些細なこと。さーて、爺やとそれからレティシアのためにも頑張ろうか。
第三話は本日10:10ごろ投稿予定です