17話 新しい舞台へ
二章開始!基本的に毎日08:10ごろ更新です!
あの発表会からおよそ一週間が過ぎようとしていたが、俺の周囲にあまり目立った変化は起こっていなかった。
発表会でトリを務めて少しは見る目がかわるかな? なんてのはまさに甘い。あいも変わらず、俺に向けられる目線と評価はノワルの失敗作扱いのままだ。
いや、発表会後はむしろあの雑草やろうが”魔法長の薬を利用したおべっか野郎”だとか”失格とかいう論外未満” なんて感じで詰って周囲も、特にレティシアから逃げた奴らがそれに同調しているから悪化したまであるな。
とはいえ、全部が全部悪い方向にいったわけじゃない。回復魔法長は明らかに俺への態度が軟化して理不尽な嫌味がなくなったし、評価してくれている人もいないではないらしい。
ま、最初の一歩としては十分だろ。さて、今日も図書館にいってフィーユと本を……
「いやいや、すまんな。また足を運んでもらって」
などと考えていたら図書館で受付さんに入館拒否されてそのまま学院長室へと強制連行されてしまった。いやほんといったいなんなんだ。
「何の用ですか学院長。呼び出されるようなことはしてないはずですが」
発表会は失格こそしたがその原因ともいえる回復魔法長とは最近は良好な関係になっているし、うるさい雑草にレティシアをけしかけたりもしていないんだが……
「いやそれなんじゃが……実はメディク、お主に外部実習の話がでていての」
「俺にですか?」
外部実習って、優秀な学生にいち早く現場を経験させるっていうインターンみたいな制度だったはず。しかしなんでそれが俺に?
「うむ。実はだい……大事な当学院の支援者が、お主たちの発表会での発表にいたく感心しておっての」
「発表を、ですか」
一瞬、学院長が言い淀んだがまぁそれはいい。しかし、発表会で評価か……わかってくれる人がいたのかと思うとちょっと、いやかなり、ううんとっても嬉しいものがあるな。
「失格となったのは残念だが内容の素晴らしさに変わりはない。そこでよかったら回復魔法師の欠員がある場所に口を利くが、ということでな」
回復魔法師の欠員、か。それはたしかに大問題だな。回復魔法があるこの世界じゃ医学はそれほど進歩していないし、回復魔法師が治療することを前提に社会も発達しているところ
があるし。だけど……
「ありがたい話ですけど、俺はほぼ基本的な回復魔法しか使えませんよ? いや、一応中級も使えなくはないですけど」
中級を使ったことがあるのはレティシアが火傷した時の一回だけだけだがな。それでもゼロじゃないから使えなくはないってことでいいだろう。
「ああ、十分だ。あちらもまだ入学したばかりのお主にそこまで高度な魔法技術は求めておらん。あくまで次の人員が見つかるまでの繋ぎ、それが役目じゃ」
「繋ぎ、ですか」
なるほどな。現場としては零と一では大違いだからいるだけマシになるし、学院としては実務実習の実績が一つ増えるしうちに恩も売れる。そしてこれを口利きした人は双方に恩が売れて一石二鳥、いや場合によってはうちとの繋がりまで含めて三鳥までありえると。えげつないくらいやり手だな。
「それで、どうする? さすがに実習中はそちらに専念してもらうので授業などは受けられんが」
「うーん……」
授業を受けられないのはたしかに惜しい。惜しいが回復魔法の修練としては実地の方が間違いない上だ。
なんせ攻撃魔法と違って回復魔法はけが人がいなければ実際の効果を検証することもできない魔法。実際の現場で経験を積むことが何よりの訓練となる。昔の剣豪も人を斬り殺すことに勝る修行なし、実践あるのみっていってるしな。
「ありがたく受けさせていただきます」
授業はあとでがんばって挽回すればいいし、うっとうしい雑草から距離を置くのにもちょうどいい。いい環境はなにより大事だし、これを機にレティシアにもうちょっと兄離れを……
「あの……それで私はなんで呼ばれたんでしょうか?」
なんて考えていたら、図書館で一緒に連行されたフィーユが口を挟んできた。俺の話が終わるまで待っていてくれたのか、ありがたい。
「なんでもなにも、お主も実習に行くんじゃよ」
「私も……ですか?」
ああ、なるほど。俺の発表をサポートしてくれたフィーユの書字魔法も評価されたのか。よかった、失格者のサポートをしたとか悪評がついたら申し訳なかったし。
「フィーユの実習となると、どこかの図書館や役所ですか?」
フィーユの書字魔法ならどこでもやっていけそうな気がするが学生が、というかフィーユがやれそうな実習先となるとそのあたりが妥当なところだよな。
「いや、お主と一緒の実習先じゃな」
「は?」
「え……?」
なん、だと? ちょっとまて学院長、どうしてそうなるんだ。
「あの、メディクさんと、いっしょ……ですか?」
「なんじゃ、嫌なのか」
「い、いやだとかそういうのではなくて……その……私が使えるのは書字魔法だけ、ですが」
フィーユが戸惑うのも無理はない。俺が実習として受け入れられるのは回復魔法師の欠員があるからであって、書字魔法のスペシャリストであるフィーユではミスマッチだ。
「無論知っておる。知っておるし普通ならそういう場所を選ぶが……図書館や役所にやったところでお主の普段の生活となんもかわらんくて実習の意味がないじゃろ」
「ああ、なるほど」
すごく、納得した。うん、言われてみればそりゃそうだ。
「ちょ、め、メディクさん。な、なるほどってなんですか⁉︎」
フィーユは納得してないみたいだが、でもなぁ……
「いやでもフィーユって基本的にずっと図書館と家の往復だろ? 学外の図書館に行こうがすることは変わらないというか、相手にする本が変わるだけで実習になるかというと……」
「じゃろ? というか、お主の実習なら外に出さんでもうちの図書館でやらせればそれまでじゃろ。それじゃ外に出す意味がなさすぎる」
だよなぁ。外にわざわざ出す意味はうすすぎる。
「で、でも……図書館に好きなだけいていいといったのは……学院長ですよ?」
「にしても限度がある。まさか一度も授業にでんとは……いい加減外の世界の空気を吸わんと蜘蛛の巣はるぞ」
「学びたいことは全部書が教えてくれますから大丈夫です」
書字魔法の使い手であるフィーユにとって比喩でもなんでもないからな。本当に図書館から知りたいことを教わることができるわけだし。とはいえこのままじゃ埒があかないししょうがないから助け舟をだすか。
「えーと学院長。あくまで外部実習は任意だから、フィーユに無理強いすることはないかと。嫌がってるのに参加させるのは良くないですよ」
「いえあのそのい、いやとかそういうのじゃなくてた、ただあのその……」
あたふたと、俺がフィーユに助け舟をだしたらなぜだかフィーユが慌て出す。あれでもさっきまで明らかに渋ってたような……
「書字魔法しか使えない私がついていったらメディクさんのお邪魔で……迷惑ではないか
と……」
ああ、なるほど。フィーユが気にしていたのはそこか。まったく、気が回るというかなんというか、ありがたいやらこそばゆいやらだ。
「そこは別にどうでもいいぞ。それより知らない環境に一人で行くよりフィーユといった方が心強いし、なにより楽しいからな」
実際一人で知らない環境はストレスがものすっごく強い。前世の地域診療実習で大学の提携病院に行かされたけど、その時一人だったら本当に大変だったからなぁ。同じ立場の仲間がいる安心感は計り知れないし、話し相手になってくれるだけでもありがたいってもんだ。
「そ、そうなのですか……」
「ああ。だからフィーユがいてくれるなら助かったけど、フィーユが図書館から離れたくないなら無理することも……」
「い、いえ! そ、そういうことならぜ、ぜひとも参加させてい、いただきます!」
あれ、フィーユのことだから図書館にいていいならいると思ったんだが。
「いいのか、フィーユ。外部実習はあくまで任意だぞ」
「い、いえその……た、たしかに図書館にこもりっぱなしもよくないですし、が、学院長のお気遣いですし……」
あたふたという擬音がつきそうな勢いでフィーユが手をふって否定してくる。いやうん、ちょっとかわいいけど心配になるな。
「いや無理はしなくても……」
「む、無理じゃないですよ! な、なによりその……私もメディクさんと一緒なら、こ、心強いですし……図書館にこもっていたら見られない物語を……感じられそうで……」
おお……出会ってまだそれほど日があるわけでもないけど、それでも筋金入りで出不精のフィーユが……なんだろう、感無量というか頼られている事実がものすっごく嬉しい。
「そっか。ありがとうな。いっしょに頑張ろう」
そこまで頼られて否はさすがにかっこ悪い。なら俺がやるべきは気を使うことじゃなくて一緒に頑張ること。それだけのはずだ。
「はい……楽しみ、ですね」
こんな風に軽い気持ちで俺たちは実習を受けることにした。だが、この時の俺たちは甘かった。そうとしかいえない。なんせ……
「よくきたな学生。ここは地獄の入り口だ」
馬車で実習先にやってきた俺とフィーユを出迎えたのは表情の見えないフルプレートに身を包んだリーダーに引きつられた一団で……
「ついてこい。繋ぎであるお前に期待はしていないが、学生だからと甘やかすつもりは毛頭ない。無能には居場所も食事もないからな」
どう考えても歓迎しているとは言えない空気が全開。これは大変なところに来てしまったな……ハードな実習、くらいで終わってくれれば良いんだが。
イメージとしてはFGOのモーさんや鬼武蔵のアレです。
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