Side??? 平穏なんて次の波乱の準備期間
いわゆる1.5章になります。フェス限確定ガシャは奏さん、みくにゃん、みかねぇ狙いで卯月……持ってなかったから勝ちは勝ち、か。
「いやー、今年の発表会はなかなかどうして、見応えがありましたねぇ。イキのいい新入生が入ってきていて学院長としてもうれしいですよねぇ」
「は、はは……恐縮ですシャルロット様」
楽しかった発表会が授賞式まで無事終わった後、わたしは発表会の前にもメディク君に案内された場所でもある学院長室で恐縮しきりの学院長を肴にお茶を楽しんでました。
「ほんと、魔法の同時使用に魔法の合成、えっと"輝く左沈みし右"と”混沌の手”でしたか。あれはもうさすが英雄アポロンにノワル家始まって以来の天才と言わしめるだけはありますね、うんうん。あんなの見せられたら普通の優等生たちは心折れて逃げたり発表もメタクソになりますよねぇ」
いやぁ、実際彼女がでると聞いて学院から推薦されておきながら辞退したってのがだいぶいるらしいですけどそいつらは面白くないけど賢かったですねぇ。
なんせ彼女の後に発表した面々のほとんどがもう無様を通り越して哀れになるくらいでしたもの。会場はひえっひえでだーれも壇上のことなんて見てなくてレティシアちゃんの魔法について思いを馳せているし、発表する本人も比較対象を思ってもう涙目だったり……それでも発表しただけマシですけどね、少なくない数土壇場で逃げましたし。
「当学院の生徒がとんだ無様を……ですがまだ新入生ということで平にご容赦を」
「あー、はいはい。いいですよ、別に。さすがにそれをどうこう言うほどわたしは悪辣でも容赦なしでもないですよ」
まぁもともと期待してませんしね。メディク君の言葉を借りればえげつない優しさってやつで接してますし。
「とはいえ、それ抜きにしても、今回の結果はちょーっとお粗末にすぎませんかねぇ」
「お、お粗末とは?」
ああ、学院長せんせーってば声が震えてます。いやー、わたしの敬老精神も痛みますがそれでもねぇ、言わずにはいられませんよ。
「わたしは今回の最優秀賞、ノワルはノワルでもメディク君のほうだと思ったんですけどねぇ」
わたしがぶつけた言葉に学院長はびくって体を震わせます。あー、この感じ、後ろめたさは感じているんですかねぇ。
「そりゃまぁ、レティシアちゃんがしてのけたことはとんでもな〜いことなのはわたしでもわかりますよ? ああ、天才ってのはこういうことなんだなぁってこれ以上ないほどしめしてますしねぇ」
「で、ですよね? いやまったくもって規格外としかいいようが」
「でも、国として考えたら恩恵でっかいのはメディク君のほうですよ?」
レティシアちゃんをよいしょしようとした学院長がわたしの言葉にピシリと固まります。あぁ、学院長、石になってしまうとは情けない。そうなったらタコ殴りしにするしかないじゃないですか。
「果たして何人、レティシアちゃんが編み出した魔法の同時使用に合成を使えるようになりますかねぇ。だれか使えるようになるにしても必要な魔法師の数と時間と費用は?」
正論ですらない、大前提のこの問題。だというのに果たしてあの場にいた何人がこれに意識を巡らせられたのやら。
「なーんてコストパフォーマンス考えたら正直効率悪すぎぃ、っていいますか。研究すれば魔法技術がというかもですけどそのあたりのあれこれ全部レティシアちゃん一人に任せたが結局効率よくね? ってもんですよぉ」
わたしが知る限り誰も実現させたことがない前代未聞の技術、それを可能にした彼女はまさに大天才なんでしょうけど……結局天才の個人技。その技術を一般化する術もなければそこから何かを得るには結局彼女がなんとかするしかない。
「でも、メディク君のは違いますよね? 理屈さえ知ってちゃんと計算さえできれば誰でもできる。そして今まで見向きもされなかった薬や魔法がデータを集めて検証すれば価値がでると証明し、その方法を示した」
そう、理屈さえわかれば誰でもできる。それこそ計算そのものは実に簡単、四則演算さえできればいい。数学の才能も、高いお金と時間をかけて高等数学を学ぶ必要もない。どんな凡人でも誠実さと根気さえかければちゃんとできる。いやー、ほんと上手いこと考えたものです。
「そして彼の頭がいいところは証明に作った薬をここの魔法長、外付けで権威ある人が作ったものを使ったことですねー。自分で作った薬ならテメェが都合よく理屈こねてるだけだろってなりますし、彼に実績ないから信憑性に欠けますけど既に権威も実績もある人の薬なら否定されようがなくて受け入れやすいですもんねぇ」
薬の効果そのものは誰も、それこそあの、クルトンでしたか? 人を雇ってまでメディク君を貶めようとやっきになって大恥かいたボンクラも突っ込めませんでしたしねぇ。それやると魔法長に喧嘩売ることになりますし。
「とまぁここまでお膳立てされてるのにここの審査員たちはそれすらわからないのーみそおかざり揃いみたいですが。いやー、無理筋でしょ。魔法薬作ったのが本人じゃないから失格って。魔法薬の検証方法がむしろ発表のメインと言えるのに」
比較してレティシアちゃんの方に最優秀賞を、っていうならまぁ評価基準が違うで納得してあげなくもないですが、審査対象外はさすがにそれどうなのってなもんですよ。何やってるんですか、ほんとに。
「そ、それはその……やはり学院の発表会としてはあの奇跡とでも言うべき天才魔法の上にたかが計算を置くわけにはという意見が強くて、かといってそのこ、これは儂もいったのですがその価値を評価しないわけにはいかないという意見もまたでまして、ですので……」
あー、はいはい。やっぱりそういうところでしたか。
「だから評価対象外にしてごまかした、と。これだから魔法バカは。いや魔法師のための学園だからそれが正しいのかもしれませんけど、そんなんじゃこの先不安ですよ、本当に」
あれほど優れた発表をたかが計算って、どうしてこう我が国の魔法師は上の方ほど専門馬鹿といいますか魔法至上主義ですかね。だからこそ一流まで上り詰めたと言えるかもですが視野が狭すぎますよ。
「魔法師は確かに魔法のスペシャリスト。でーすーが、魔法のことだけ考えていればいい、そんな時代はそろそろ終わると思いますよぉ」
「そ、そうでしょうか? 専門の魔法を極めてこそ優れた魔法師であるのは不変の真理で」
「学院長、今日の発表会ちゃんと聞いてましたか? ちょうどそんな固定観念をメディク君が否定してのけたばかりじゃないですか」
「――っ⁉」
そう、あの発表が一番のポイントはそこにあるといってもいい。薬は病名を特定できてこそという常識をぶち壊し、全ては使い方次第と実証した。そしてそれは何も薬に限ったことじゃない。
「いやぁほんと、今日は来てよかったですよ。我ながら本当に、彼に目も唾もつけておいたのは大正解、グッジョブですよ、過去のわたし」
「つ、唾つけておいたですか」
「ええ、ちょっと話す機会がありましてねぇ。いやー、面白い子だなー、ポイント高めだなーって思ってましたがまさかここまでとは……」
ここに案内してもらった時の会話、今思い出してもほんと楽しかったですしねぇ。わたしにあそこまでついてきてくれる人、ひっさしぶりでしたし。おまけに不意打ちで逆襲してきたりわたしのことをハニー呼ばわり……あ、やば。思い出すとちょっと照れる。わたしを照れさせるとはおのれメディク君。なんていじり甲斐があるんだ。
「こうなるとあれですねぇ、メディク君を放置しておくのはもったいないというか、こんな価値がわからない奴らばかりのところに置いといてもなーっていうか」
うん、実際もったいなさすぎる。まともに評価されないここにただ置いておくより、もっといい場所がどこかに……あっ。
「ありましたね、ちょうどいいところが……メディク君、君がいけないんですよ。こんなにもわたしの興味を掻き立てる人材なのが」
わたしの頭の中にとある部隊の名前が思い浮かんだ瞬間、実に面白い計画が練り上がります。ええ、これは我ながら名案です。
「ちょーっと苦労するかもしれませんが、まぁメディク君なら大丈夫ですよね、ええ。うんうん、きっといい経験になりますしなにか面白いことをしてくれそうですし」
「あ、あのシャルロット様、一応メディク=ノワルは学院の生徒であり、儂の親友の孫ですので、何卒ほどほど、ほどほどにですね」
「だまらっしゃい。あなたの親友の孫であることとわたしの意向、どちらが重いと?」
「そ、それはも、もちろんシャルロット様の……王女殿下の方かと。の、ノワル家もまた王家に仕え忠誠を誓う一族ですので、ええ」
「そういうことです」
わざわざ口に出すなんて学院長も無粋ですねぇ。ですが、ええ、その通り。メディク君はここの学生ですが、同時にうちに仕える家の嫡男でもあることを忘れないでほしいですよ。ま、弁えてくれたからいいですね。
「さぁてメディク君、ピンチはチャンス。ポイントを稼いだ君にわたしからご褒美のチャンスタイムですよ。大変だと思いますけど頑張ってくださいねぇ、うまいことやったらさらにさらにポイント大増量ですよぉ」
今日、わたしの期待を遥かに超える物を見せてくれたメディク君ならまたわたしの予想を超えてくれますかねぇ。いやほんと楽しみですねぇ。もしまた予想を超えてくれたならその時は……そうですね、第二王女シャルロット=ブロイとしてあなたに報いるとしましょうか。ふふ、楽しみですねぇ。
明日は新作の予定です。
新作もいつもどおり明日の08:10ごろに
2章1話目は30日08:10ごろに!




