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15話 数字は平等にして絶対の権力者

pv1500突破目前&日間ランキング異世界転生ファンタジー部門242位ありがとうございます!

本日第1章クライマックスとなります!

「まず最初にご説明します。今回の私の発表はとある魔法薬についてですが、その魔法薬を開発したのは私ではありません」


 観客たちから訝しがる声が上がる。発表会とは自分の成果を発表する場。魔法薬の発表なら当然自分で調合したものというのが筋と思うだろう。だが、その筋は今回俺は全力で無視することにしたのだ。


「先日のことです。当校の回復魔法長が魔力枯渇症の新たな検査薬を開発されました。その新薬に使われた薬草はごくごく一般的に流通するもので、現在使われている検査薬の薬価のおよそ一割ほどで量産可能な優れものです」


 そう、俺が用いるのは先日廃棄を命じられた魔法長が調合した新薬。いくら廃棄を命じられたと言っても調合したのは魔法長。ぽっと出どころかマイナスのイメージが強すぎる俺が調合したものよりはるかに薬効に信憑性が持たれる。

 現に観客たちから薬価についてや魔力枯渇症のあれこれに対して食いついている。そうだよな、魔法長の名は抜群だよな。そして同時にこの場に来るような魔法師達にとって魔力枯渇症は他人事じゃないから真剣に聞いてくれるよな。さぁ、撒き餌は終わり。次にいくぞ。


「ただ、この魔法薬はたしかに安価で量産が可能だったのですが飲む人間の多くが、それこそ健康なはずの人間にも反応を示す有様で、魔法長は失敗薬と判断し、私に譲ってくださいました」


 客席からなんだ、という声が聞こえる。薬価一割と期待させておいて、というのもだ。まぁそうだな。でももうちょっと待ってくれ。


「そのうえで、こちらの表をご覧ください」


①新薬反応あり&旧薬反応あり:五人

②新薬反応あり&旧薬反応なし:三十五人

③新薬反応なし&旧薬反応あり:一人

④新薬反応なし&旧薬反応なし:五十九人

⑤新薬反応者合計:四十人

⑥新薬無反応者合計:六十人

⑦旧薬反応者合計:六人

⑧旧薬無反応者合計:九十四人

⑨被験者合計:百名


 俺の言葉と同時にフィーユがキラキラと光る表をバンっと宙空に浮かべてくれる。いいぞ、フィーユ。インパクトバッチリだ。


「これは魔法長が開発した新薬と、そして現在使われている検査薬その両方を現役攻撃魔法師百人に飲んでもらった結果です」


「う、嘘だ! たかが学生に百人も現役の魔法師が協力するはずがない!」


 俺の言葉に客が次々と立ち上がって怒号をあびせてくる。クレソンやろう、どんだけサクラ集めたんだよ。もっと他にやることあるだろうが……まぁいいか。この程度は予想済みだ。


「事実です。この検査結果は我が叔父であるアレス=ノワル氏並びに氏の部下の皆様の協力で集めることができました。お疑いならば彼に直接お尋ねください」


 うっ、とかバカな、ともらしながらサクラたちが黙る。まぁそうだよな。ノワルの失格嫡男である俺に対してノワル家の、それもレティシアの父親が協力しているなんて思わないよな。可愛い娘をノワルの当主にするのに一番邪魔なのは俺なんだから。だが……


「なるほど、発表会でレティシアと勝負か。わかった。お前はかわいい甥っ子でレティシアの恩人、一肌脱ごう。その分レティシアにしっかりとぶつかって……あと、俺が協力したってレティシアにちゃんといってくれよな、な?」


 うん、仕事が忙しくてなかなかレティシアに会えない分娘バカを拗らせている叔父さんにそんな事情関係ないんだ。それに叔父さん、昔レティシアの肌をキレイに治したことで未だにすんごい感謝してて良くしてくれるしね。

 そして叔父さんの鶴の一声で現役バリバリの攻撃魔法師百人があっという間に被験者として集まり、さらに既存の検査薬百本集めるのも簡単だった。ありがとう叔父さん。レティシアにはちゃんと言っておきますから。でもそれは今じゃない。叔父さんの感謝は後でいい。今は言うべきことを言おう。


「この検査にて魔法師百人から都合六名の魔力枯渇症の患者を早期発見できたわけですが」


 俺の言葉に合わせてフィーユが浮かせた表の五と一、そして合計数である六の部分を動かして強調してくれる。うん、こういう動きがあるとどこをいってるかわかりやすいものな。


「その上で新薬の結果にご注目ください。新薬で反応があったのはおよそ四十人、そのうち三十五人は健康。つまり十人使えば四人が反応しますし、反応した八人に七人は健康ということになります」


 新薬で反応があった、いわゆる陽性患者である四十、そしてそれの内訳である三十五と五

の数字を動かしてくれる。そうそう、ここを強調したいから本当にありがたい。


「一方旧薬ですが反応すれば確実に魔力枯渇症といって良い、その精度は百発百中であるのは皆さんもご存知とは思います」


 客席からうんうんとうなずく空気が伝わってくる。そう、高価だけどその精度は極めて高く、使えば確定診断なのが旧薬。効果だけみれば実に素晴らしく、魔法長が比較して無用とした気持ちもわかろうというものだ。


「こうして比較してみると、旧薬と新薬の効果の違いがよくわかっていただけたと思います。旧薬はまさに飲めば完璧にわかり、新薬は多数の無駄な反応を示す……とも言えます」


 さぁここからが本番だ。一気に行くぞ。


「ですが、本当にこの新薬は無意味なのでしょうか? 旧薬があればこの新薬は不要なのでしょうか?」


 客席に怪訝な空気が流れ出したのがわかる。こいつ、何を言っているんだ? と言わんばかりの空気。そうそう、それでいいんだ。さぁいくぞ、算数の時間だ。


「魔力無力症の早期発見に必要な薬費ですが、従来の旧薬でしたら一本金貨一枚、百本ではおよそ金貨百枚で六人の患者が発見できます」


 フィーユが客席に向かって金貨百と患者数六という数字を飛ばしてくれる。嫌でも客席の目につき忘れられない位置に張り付いて……


「一方新薬を全員に、その後反応があった四十人に旧薬を使いますと、新薬は銀貨一枚であるので銀貨百枚に金貨四十枚、すなわち金貨五十枚で五人の患者を発見できます」


 今度は金貨五十と五人の数字がその隣にくっつく。よーし、下準備はオッケーだ。


「新薬を用いる検査で旧薬のみと同じ費用を、すなわち金貨百枚を使いますと二百人の部隊を検査し十名の患者を発見することができます」


 そして金貨五十が百に、その横の五が十へと。旧薬しか使わなかった場合の百枚と六人と並んで突きつける。


「費用対効果は皆様の眼前の数字が示す通り明らかに新薬も使ったほうが良好です。なにせ同じ費用で旧約のみなら六人新薬も使えば十人とおよそ六割増し、しかも倍の数の魔法師を魔力枯渇症の疑いから解放しているのです」


 数字は嘘をつかない。いや、詐欺師は数字を使うがそれでも数字はどこまでも残酷にしっかりと数の差を突きつける。その力にサクラも含めた観客の誰もがヤジをとばせな……


「まて! みんな、騙されるな! 新薬で反応しなくても旧薬で反応した人間が一人いる! こいつのいう通りにしたらその一人が取りこぼされる!」


 いや、一人だけいた。堂々と席をたち、俺を指差しながら糾弾を開始する派手な男……クレソンが。


「こいつは口先で! 本来見つけられたはずの一人を見逃してるのをごまかそうとしてやがる! こんな話聞くだけ無駄だ!」


「そうだ! そのとおりだ!」


「詐欺師だ! こいつはとんだ詐欺師だぞ! 騙されるな!」


 新薬で反応しなかった一人という数字を空いた手で指差しながらクレソンはまさに鬼の首を取ったかのようにまくしたてる。それを受けてクレソンの取り巻きやサクラたちも立ち上がり次々に俺へ非難をぶつける。ここしかないと思っているのかその叫びはあまりに騒がしいもので……


「たしかに最初の百人の調査で新薬を使えば一人を取りこぼしています。ですがその分、頻度を増やしたらどうでしょうか?」


「へ?」


 そして、俺の予定していた通りのものだった。悪いなクレソン、その質問俺の疑似餌なんだわ。


「例えば毎年恒例でこの検査を行う。すると発見できなかったものだけでなく、新規の罹患者を発見することにもつながります」


 これこそが新薬の強みだ。安く調査できるということは回数を増やせるということだ。定期的に検査を行えばそれだけ発見の可能性はますし、重症患者の数は減らせる。さらに……


「加えて、この検査薬の材料は極めて一般的なありふれた薬草でありますので量産は容易ですし、薬草の増産をすれば薬価をさらに落とすことも可能でしょう」


 量産しやすい薬だからこういう側面もある。ただ、これはあくまでおまけだけどな。どっちにせよクレソンはいい具合に食いついてくれた。誰かが一人について突っ込んでくれないと話の盛り上がりがかけるからな。


「か、金、金、金って。は、恥ずかしくないのか。人の命がかかっていることにたいしてそんな金のことばか」


 おっと、まだ言うかクレソン。さすが雑草だけあってしつこいな。だがその質問を元とはいえ医大生にぶつけるなんて甘すぎるぞ。


「命は金で買えませんが金で命は救えます」


 お前は考えたことがあるのか? 綺麗事だけでは表せない命の重みを。俺たち医大生は何度もそれを自覚させられながらも医者を目指してきたんだ。今更薄っぺらい雑草の一言で動揺することがあるはずもない。


「浮いた差額で他の重たい病の人を救うもよし、土地の開墾の費用にするもよし、飢饉の備えにするもよし、炊き出しの費用にするもよし……私達の財貨は有限、ならばそれを効率良くより有効に使うべきなのは自明では?」


「がっ……」


 クレソンが口をパクパク金魚みたいに黙る。ありがとうクレソン、良い出汁になってくれて。さて、ここからが締めだ。お前に関わっている暇はないから勝手にしててくれ。


「さらに、この新薬を飲んで反応がなかった六十人のうち魔力枯渇症の患者はわずか一名。反応がなければほぼ魔力枯渇症であると考える必要はありません。これもまた重要な検査であると言えます」


 いわゆる感度と除外診断の考え方だな。感度が高い薬、つまり病気の人が反応しやすい検査薬で反応がないということはその病気でない可能性が高いという、病名を特定するのでなく絞り込んでいく除外診断という手法だ。

 逆に病名を特定したければ特異度が高い、つまり病気でない人が反応しにくい薬を使う。本来反応しないはずの薬で反応するということはその病気だと確定できる、確定診断のやりかただ。


「検査方法はたしかに病名を確定させることが大事、ですが同時に”この病ではない可能性が高い“と判断させるのもまた価値あることです。早くから病名の幅が絞れれば本当の病気を発見する可能性も高まりますし、同時に患者は安心するのですから」


 感度、特異度の概念やそれを用いた有用性の判断は医療統計学の基礎。だがその思考はまだこの世界にはなく魔法長ですら特異度、すなわち病気を特定する力に優れた薬こそが絶対と信じ、ろくに検証せずにこの感度に優れた新薬を捨てようとしていた。

 しかしそれも無理もない。地球でも統計学の母”フローレンス=ナイチンゲール”によって導入されるまで医療統計学は根付かなかったのだから。

 だからこそ、今この場で婦長のかわりに突きつけよう。


「安かろう悪かろうと判断された薬もまたこのように見方を変えれば役に立つ可能性はあると言えます。ただ単独で病を発見する力に優れているだけが良薬の条件にあらず、肝心なのはいかに正しく評価し使いこなすかです」


 数字は、なにかを評価することはそんなに単純じゃないと。

次話は明日の08:10に。基本一日一話更新を守っていきたいです。

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