13話 舞台の幕が開く時
本日も二本立てでお届けさせていただきます。羊をつつく気力を執筆に……
「え、ええと……は、話を変えようか。今日は発表会を見に来たっていうけど、知り合いでも出るのか?」
「いえいえ〜。わたし知り合いとかあんまりいないんでそーいうんじゃない、ただのお義理の参加ですよ」
よし、少々苦しいが話題転換成功。あのままだと一体どういう方向に話が転がったかわかったものじゃないし。万が一人前でいい子いい子されでもしたら羞恥プレイすぎるし。
「それはまたお疲れ様」
「いえいえ、義理は大事ですしねぇ。それに今回はちょ〜っと興味を惹かれる人たちが出るんでまぁいいかなぁ〜って」
「興味を惹かれる?」
「ええ。噂に名高いノワル家始まって以来の天才レティシア。幼少時から伯父である英雄アポロンに連れられて社交界にも幾度か顔を出してその腕を披露してますしね」
確かにレティシア、何度か父さんやら父さんが連れてきた教師やらに連れられてそういう場所に行ってるからなぁ。そして、俺は決まって留守番してたけど。
「ですが個人的にはそれ以上に期待というか楽しみにしている人がいるんですよねぇ」
「レティ……シア以上に楽しみ?」
誰のことだ?レティシア以上に期待される参加者がいるとは思えないし、もしダークホースがいるとしたら是非とも知っておきた……
「それはもちろんメディク=ノワルですよ!」
俺かよ⁉︎ いや確かに俺の名前も悪い意味でも有名だけど期待ってなんだよ期待って。
「英雄アポロンの息子でノワル家の嫡男。だけどレティシアを教えた面々が揃ってアポロンの息子はちょっと出来がと口を濁すほどのダメっぷり。おまけにこの学院の入学もコネコネコーネのバーター入学ともっぱらの評判! いやぁ逆に気になりますって」
ひどい言われようだけど不思議と腹が立たない。言われている内容は実際その通りのことだし、この人の口調から貶めたり蔑んだりする空気がまるで感じられないからかな?
「いったいどういう人間なのか。アポロンたちも一切彼を社交界だのには出してませんし話題にもしてませんからもうもう、情報が足りなすぎて本当にもうねー、楽しみなんです」
「楽しみ、か」
「ええ。失格嫡男メディク=ノワル。果たして彼は偉大な父の絞りかすにして身の程を知らぬ愚者なのか、それとも一流の魔法師達でも測りきれない規格外なのか。どっちにせよただの優等生などよりよーっぽど面白いですよ」
まさに興味本位というべきだろうけど、それが心地いい。貶めるでも持ち上げるでもなく、ただただ純粋に興味を持たれる。実にフェアで、ありがたい。
「無様を晒すとは決めつけないんだな」
「そりゃ自分で見てみないとわかりませんもの。他人がどう言ったところで判断するべきなのは自分。美味しいと評判のお店も実際食べないと本当に美味しいかわからないですよね」
「ごもっとも」
まったくもって正論でしかなくて頭が下がる。百聞は一見にと言うけどそれを実践できる人って意外と少ないんだよな。俺も何度情報に踊らされて痛い目を見たことか。
「まーそういうわけなんで! 今回は最初と最後が楽しみなんでワクワクですよ! え、間? まぁそれはそれというかお昼寝タイムというか、面白いのがあればそれはそれでよかったみたいな?」
「そこはもうちょっとこう、未知の何かが眠ってるかもとか期待してあげたほうが」
「いやー、期待しすぎたらかえってかわいそうかなぁって。ほら、期待しないでおけばハードルクリアしやすいし、これも優しさですよ」
「えげつない優しさもあったもんだな」
容赦ないというかなんというか……いやぁ、なんというか頭いいな、この人。おっと、なんていってたら。
「えーと、学院長室はここだな」
最初の目的忘れて話すのに夢中でつい通り過ぎるところだった。危ない、もし通り過ぎてたらなんて言われたかわかったもんじゃない。
「ああ、ここ! ここ! いやぁ、親切にありがとうございます。おかげで迷子も退屈もせずにすみましたよ! またまた高ポイントゲットですよ」
「はは、ポイントはともかくそれはよかった。俺も楽しかったよ」
うん、実際楽しかったしな。それにこの人も楽しみにしてるというならなおさら発表会頑張ろうってモチベもあがったし。
「それじゃ、俺は失礼するよ。発表会の方、しっかり楽しんで」
「ええ、もちろん。最後の大トリまでしっかりと楽しませていただきますから頑張ってくださいね〜」
手をひらひらと降って見送ってくれるあたりサービスが良いというかノリがいいというか。いやぁでもいい出会いだった。さて、そろそろ時間が気になるしもど……あっ、やば。完全に最初の目的忘れてた。い、今から急げば間に合うか? 間に合うよな? 頼むからカフェテリア混んでないでくれ!
そんな切なる願いが通じたのか、幸いカフェテリアに行列はできておらずすっと目当てのサンドイッチと飲み物を買うことができて戻ったら……
「……おかえりなさ……」
うん、やっぱりまたせすぎた。普段なら本を読んでたから平気といいそうなフィーユだけど空腹で放置されたから本気でぐったりしてる。
「ごめん、ほんとごめん。迷子を案内してて遅くなってしまった」
「……だいじょうぶ、です……怒ってませんから……」
「よかった。は、はいこれフィーユお気に入りのサンドイッチと紅茶買ってきたから……」
「ありがとう、ございます……」
ぐったりしてるフィーユのすぐ横に腰をおろしてその手にサンドイッチを渡せると両手でしっかりと抱きかかえてもきゅもきゅと食べ始める姿。あ、なんだろ。どこかリスというかハムスターっぽくてちょっと和む。
「随分余裕だねー」
なんてほっこりしてたらレティシアが声を掛けてきた。今日は勝負だからと別々に登校してたのだがそれもあってかちょっと言葉に棘がある。
「余裕がないよりはあったほうがいいだろ」
「そうだけど、もうすぐ始まるってのに呑気なことしないでもいいじゃん」
「もうすぐ始まるからだろ。ここで緊張して実力出せなきゃもったいないしな」
実力を出せないのも実力のうちとは言うけど、どうせなら出し切りたいからな。入試本番の時とかもういかに出し切るかに重点したし。ちゃんと寝るにはどうすればいいかとか、食あたりしないように食べるもの気をつけたりとか、願掛けのお菓子買って気休めしたりもしたな。
「ふーん……そういうってことは出し切ったら勝負になる内容になってるのかな?」
「多分、だけどな。まぁどうなるかは正直わからないぞ」
「どっちが勝つかわからないくらいの出来ではあるんだ」
レティシアの口調は実に楽しみでたまらないといった具合でどうみてもその顔はにやけている。
「……できるだけのことは二人でやりましたから」
「へぇ~、言うじゃない。うんうん、ならまとめて叩き潰さないとね」
にやけたレティシアにサンドイッチを食べ終えたフィーユがいつになく強い口調でぶつかっていって二人の間で火花が……うん、これも勝負の醍醐味だよな、うん。
「それじゃあたしそろそろ出番だからそこからみてて。派手にサクッとやるから」
俺たちに背中を向けて壇上に向かおうとするレティシアだがその背中が若干硬い。ああ、なんだかんだで俺たちを意識して気持ちが先走ってるな。まったく、しょうがないな……
「わかった。楽しんでこいよ」
立ち上がってぽんっと、控室から壇上へと向かっていくレティシアの背中を押してやる。いくら勝負する立場でもやっぱりレティシアはかわいい妹分。こういう時応援しないのはおかしいしな。
「……うん、いってくるね」
ニッコリと笑顔を残して壇上へと駆け上がっていくレティシアのその表情にも足取りにも硬さはまるでない。うんうん、これでいい。さて、お手並み拝見といくか。
続きは昨日と同じ本日20:10ごろに!




