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12話 発表会当日~てごわいであい~ 

2本立ての2本目となります


 最初にフィーユとレティシアのひと悶着があったもののその後はもうそれどころではない。ギリギリに申し込んだ俺に残された時間はあまり無く、急いで準備をしなければとてもじゃないけど間に合わないのだ。

 受ける授業も後でフォローが効く分は泣く泣く削って、ひたすら図書館でフィーユと資料を集めて打ち合わせをしたり、あるいは必要なあれこれを揃えるためにあちこちを駆けずり回ったり。

 そんな風にバタバタ動き回っているとあっという間に時間は過ぎて、気がつけば発表会当日。もともと一流魔法師の登竜門である学院のイベントとあって例年も外部からの注目度も高かったが今回はそれ以上。

 なんせ、レティシアと俺の評判は良くも悪くも学院にとどまらない。その二人が揃って出る、それもトップバッターと締めというこれ以上ないほど目立つタイミングでとあっては一目見ようと国内で名の知れた魔法関係者がぞろぞろとやってきて会場はもうぎゅうぎゅう詰めもいいところだ。


「大盛況……ですね。よかった……あちら側にいたら、人混みで酔ってしまいそうです」


 そんな会場の様子を発表者控え室から眺めていたフィーユが俺に対してぽつりっと感想を漏らしてくる。


「俺もまぁ人混みは得意じゃないがフィーユは俺以上に駄目だからなぁ……」


「はい……あのような場所にいるより静かに本を読んでおく方がずっと、好きです」


 だよなぁ。なんせ許可されているからって入学してからずっと図書館にいるくらいだし。そんなフィーユがこうやって大きなイベントの手伝いをしてくれるなんて本当に、ありがたいって忘れちゃいけないよな。


「えっと、フィーユ。改めてありがとうな。フィーユがいてくれたおかげでなんとか間に合って、発表にこぎつけられた。フィーユがいなかったらどうなってたやら」


「それは……すこし、大げさではないでしょうか」


「いやいや大げさじゃないって。フィーユが手伝ってくれなきゃまず間違いなく間に合わなかったし、ここまでやる気を維持できなかった」


 オフィスソフトのありがたみを前世で知っている俺にとって、プレゼンでフィーユの助力がなければそのストレスは半端ないことになっていたのは間違いないからなぁ。

 それにフィーユが手伝ってくれているから半端なことはできないってモチベにも繋がったしな。


「そ、そうですか……それはよかったで」


 くぅー、っとかわいい音がフィーユから響く。これって……


「……す、すいません。きょ、今日は緊張して朝からなにも喉を通らなくて……すこし、気が緩んでしまったみたいです」


 ああ、やっぱり。しかし、緊張でご飯が食べられないくらいか……それだけ、頑張ってくれたってことだし、空腹を感じるのは落ち着いてきたってこと。全然恥ずかしがることないのに。


「はは、ならちょうどいいしなにか軽食と飲み物買ってくるよ。俺もちょっと小腹がすいたし」


「すいません、お願いします……今の状態で人混みはちょっと……」


 多数の来客でいつもより混雑している学内をかき分けてはただでさえ人混みが苦手なフィーユには苦行すぎるから休んでもらってさっさと俺だけで買ったほうがいいよな。


 そしてこの判断はまったく間違っておらず待機室をでたらいつも以上に人、人、人。すでに入場していたまだ会場に入ってない来客やその関係者などが学内で溢れている。

 盛況なのはいいことだがここまでとは。いつものカフェテリアでサンドイッチでもと思っていたけど長時間並ぶのはなぁ……


「あの〜少しよろしいですか」


 なんて悩んでたらいきなり女性に声をかけられた。綺麗に手入れが行き届いた刈りそろえられた金髪で、俺より少し年上かな? こう、雰囲気や姿勢から育ちの良さを感じられるけどなんで俺に声なんかかけたんだろ。


「学院生の方ですよね? 実は今日の発表会を見に来たのですがちょっと迷ってしまいまして」


 ああ、そういうことか。そりゃたしかにこの人混みだし慣れてなかったら色々と大変だよなぁ。


「ええと、会場まで案内しましょうか?」


 道を教えればいい気もするけど、こういう時はもう案内した方が早い。というか、わかったつもりでまた迷子になられても後味悪いしな。


「いえ、会場じゃなくてですね。まずは学院長に挨拶をしなきゃいけないので、よかったら学院長室の方に案内してもらえたらなーって」


「わかりました。いいですよ」


 毒を食らわばなんとやら、っていうしな。一度案内するっていってて断るのは流石にカッコ悪いし申し訳ない。ほんと、こういう所が日本人というか前世が抜けきってないというか。


「おお、即答! いいですね、ポイント高いですよそういうところ。じゃんじゃんポイント稼いでください」


「ポイント稼いだらいいことがあるんですか」


「わたしがご機嫌になって場合によっちゃ褒めてあげます。いい子いい子って。あ、お試し版もありますけどいりますか」


「間に合ってます」


「ちくしょう! わたしに褒められたくないなんてなんて不敬な」


「いや不敬は流石に言い過ぎかと」


「いーえ実際不敬です。まったく、最近の若い者は」


「あなたも若くみえますが」


「若くないですよ、もう十八と人生曲がり角ですよ」


「早いですね曲がり角⁉」


「いえいえ、実際そんなもんですよ。年取れば取るほど分母が大きくなって一年一年が薄れていくんですからもう実際曲がり角目前ですよ」


「そのとおりかもですけどまだ肌とかそういうのはピチピチですよね」


「そりゃそうですよ。あなた、うら若い乙女に対して肌がボロボロなんてそれをいったら殺し合いですよ。生きて返しませんよ」


「年寄りなのかうら若い乙女なのかどっちなんですか」


「ははは、そんなのその場で都合がいい方に決まってるじゃないですか」


 ああ、ダメだ。この人に口じゃ勝てない。いや、勝とうとしてないけどなんというか振り回される未来しかみえないわ。


「うーん、良い反応してますねぇ。いやー、うちにはなかなかこう打っても響かないというか無反応なのがそろっているからほんと楽しいですねぇ」


「そ、それはどうも……」


 にまにま笑いながら向けてくるその目はまさに獲物をみるハンター。このままじゃまずい。


「え、えっとそれで……」


 あ、しまった。この人の名前まだきいてないからなんて呼べば良いんだ。


「ああ、わたしのことはおねぇさんと呼んでください。それが嫌ならお姉様、ねーたん、あねうえさま、おねぇでも可とします」


「いやいやいやいや、初対面の相手にそれはハードル高すぎますよね⁉」


「えー、しょうがないですねぇ。でもわたしも流石に初対面の年下の男の子にハニーと呼ばせるほど業が深くは」


「なんで姉呼びを拒否したらハニーなんですか⁉ もっとこう、普通の呼び方ありますよね」


「えー、普通の呼び方とかつまんないし運命感じないじゃないですかー。もっとこう、アブノーマルで続々っとしてうふふであはははんな感じのが面白いじゃないですか」


「そういうのいいですから、ほんといいですから。普通がいいですから」


「ふむふむ、つまりあなたはノーマルであると」


「すいません、それ普通の意味が変わると思うんですけど」


「ああ、ぼーやには刺激が強すぎましたか。ごめんなさいねぇ、おねえさんうっかりしてた」


「いやもうほんと勘弁してください」


 勝てないって思ったけど間違いだ。そもそも勝負にならないレベルだこの人。


「はは、すいませんねぇ、楽しすぎてついからかっちゃいました。わたしの名前はシャルロット。どうか愛をこめてロットって呼んでくださいね」


「……シャルロットさんでいいですか」


「駄目ですよ、そんな他人行儀な。まぁわたしのほうが年上ですから呼び捨てしろとはいいませんがもっと愛を感じる呼び方を」


「わかったよハニー」


「――っ⁉」


 おお、顔が真っ赤。攻めるのは得意でも攻められるのは慣れてないのかな。


「あ、ああ、あなたな、なにを」


「いややられっぱなしはあれなんでちょっとばかし仕返しを」


「くぅぅ、やられた。ただの草食系かと思わせていざってときはこんな手を使うとは驚きました。うん、いいですよ、わたしを驚かせたご褒美に呼び捨てを許可します。わたしのことはシャルロットと呼びなさい」


「わかったよシャルロット」


「はい、そうですよね。知ってます、ここで素直に呼び捨てにするようなキャラじゃ……なんですと?」


 眼をしばしばさせるシャルロット。うん、やっぱ攻めに弱いのな。


「あ、あなたなんで人のことを呼び捨てに」


「しろといったのはシャルロットのほうだろ」


「……そうでした、わたしでした。でもさっきまでの君のキャラなら絶対断ると思ったのに、こ、こうも翻弄されるとは」


 なんか一人で悶てる。どうしようこれ……


「あの、シャルロットと呼ぶのやめたがいい?」


「いやいや、それはそれでもったいないんでもういいです。好きにシャルロットともロッテとも呼びなさい、ええ。わたしは一向にかまいませんよ。今までの会話の楽しさでポイント高い高いですし。もういい子いい子したいくらいに」


 うお、復活してきた。しかもなんかものすっごいイキイキとして楽しそうに。まいった、やばいかもしれない。

次話は9月25日08:10ごろです

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