11話 傍観者にとっての娯楽、当事者にとっての地獄
投下二日目、本日は二本立ての予定で一本目です
とはいえ実のところ、クレソンに言われるまでもなく今回の発表会の注目度が高まりすぎているのはわかっていた。
なんせ申し込み締め切りの通知と同時に学院から公開された発表順、その一番頭の部分に“レティシア=ノワル”、そこからずらっと続いて最後に”メディク=ノワル“ とあるのだ。
自動参加枠のレティシアがトップバッターでギリギリに駆け込んだ俺が最後、申し込み順だとしても納得だがそれをしらない人間からは恣意的なものに見えてもおかしくない。というか、そうとしか見えないし、嫌でもレティシアと俺に注目するよな。
まぁ、注目されているならそれはそれで好都合。落ちこぼれ扱いに慣れているが挽回できるならしたいのが人情だし、どうせやるなら大きい舞台の方が燃えるってものだ。
さて、こりゃ気合いれてフィーユと打ち合わせをして準備を……
「あ、メディ兄! 図書館行くの? ならあたしも一緒に行っていい?」
なんて考えていたらちょうど授業を終えたらしいレティシアがとてとてと俺のところに駆け寄って並んでくる。
「別にいいが、学校ではメディクだろレティシア」
「あ、ごめん。つい」
「次から気をつけろよ、レティシア」
「うん。それより発表会の順番見た? あたしが最初でメディ兄がラスト! すんごい面白そうになったね」
あ、こいつあんまり反省してないな。まったく、ちゃんと公私の区別をつけられるようになっておかないと……まぁいいか。この楽しげな笑顔みてたらこれ以上言う気も失せるな。
「俺が参加を決めたのがギリギリだったせいだが、まぁたしかにな」
「最後まで気が抜けないことになりそう。あたしが負けるとしたらメディ兄しかいないし」
「おいおい、そんなこと言っていいのかよ」
「でも本当のことだし。なんか結構な数があたしが最初だから何やっても印象残らないって投げ出しそうになってるとかなんとかいうし」
そりゃなぁ。レティシアがガチの天才なのは周知の事実だし一度でも攻撃魔法の授業で一緒になったら嫌でもわかるし、学院の優秀な新入生は基本挫折知らずだろうから逃げたくもなるさ。
「ま、そういうわけだから楽しませてね。あたしも本気でいくからそっちも本気できてよ」
「そりゃもちろん本気でいくが、レティシアが楽しめる内容になるかはわからないぞ」
「いいのいいの。あたし、何やってるかはわからなくてもメディ……クが本気かどうかはわかるから。本気で勝負できたらもうそれだけで楽しいし怖いしね」
なんというか構え構えと子犬に甘噛されてるような気分になってくるな。レティシアも学内じゃちやほやされまくりだろうが同時に色々思うところもあるってことか。
「そっか、そこまで言ってもらえるならこっちとしても全力でいかないとな……審査員次第でどうとでもだが負けない可能性は相応に高いと言っておくぞ」
「さっすがメディ兄! そうこなくちゃ!」
「こら、学院でそうひっつくな」
楽しみでたまらないと言わんばかりに昔見たいにひっついてくるからほんと困る。天才だなんだ言われてもまだまだ子どもというかなんというか。
とはいえ、さすがにそろそろ引き剥がさないともう図書館の入り口につ……
「あ、メディクさん。ちょうどいいとこ……」
「……」
あ、あれ。フィーユが珍しく図書館の入り口に? それでなにかレティシアみて固まっているというか、レティシアもレティシアでフィーユの方見て固まって……
「メディ兄?」
「メディクさん?」
「「この人[そちら]は誰[ですか]?」」
そろって怖い顔してこっち向かないでくれ、ほんと。レティシアはなんか飼い主取られた犬みたいになってるし、フィーユもなんかジト目だし。
「あ、あーその……レティシア、こちらはフィーユ=ジッドさん。俺たちと同じ新入生で図書館であってからこっち、色々とお世話になっているんだ」
「初めまして……メディクさんにはとても良くしていただいてます……その、毎日一緒にランチをしながら色々な話をしてもらってますし」
「ふーんふーんふーん……毎日ねぇ……そうなんだそうなんだ、メディ兄、あたしきいてないけど」
「いや、一々言うようなことじゃないだろ」
一々誰とランチをしていたなんて言う必要どこにあるんだ?
「それでえーと、フィーユ。こいつがレティシア。俺の従妹で新入生代表にもなってるやつだ」
「初めましてフィーユさん、メディ兄の従妹のレティシア=ノワルです。いつも”うちの”メディ兄がお世話になっているみたいで、一緒に住んでいるのに全然そんなこといってくれなくて」
「そうですか……一緒に……そうですか」
なんだろう、二人の間の空気がちょっと怖いというか居心地が悪いというか……あれか、レティシアが兄離れできてないせいか? それともレティシアの陽キャな空気とフィーユの若干引きこもり気質なところが水と油なのか?
「メディ兄、ちょっと明日からランチ一緒にとろうよ」
「――っ⁉」
「ねぇねぇいいでしょ? お昼も一緒に食べようよメディ兄」
「いやでも、お前と食事取ってたらクレソンがわくだろ。いやだぞ、飯時まであの鬱陶しいのに絡まれるの」
うん、ただでさえ顔を合わせようとしないに出くわすたびにギャーギャー言ってくるし、俺の悪口を垂れ流しているみたいだしな。レティシアとランチとかしてたら絶対ろくなことにならない。
「大丈夫だって、そんなのあたしがさせないから」
「いやそういう問題じゃ……」
レティシア、完全に意固地になってるな。まいったな、どうしたものか……
「あの……無理に誘うのは良くないかと」
「……ごめん、フィーユだっけ。家族の話に首を突っ込むのはやめて」
「ですが……明らかにメディクさんは気乗りされていませんし……いくら従妹でも駄目ではないでしょうか」
「そんなのあたしの勝手でしょ」
「はい、あなたの勝手であるようにメディクさんの勝手ですし……私の勝手でもあります」
あの、なんかまた空気が重くなっていません?
「メディクさん、あの……よろしければ今まで通り、お昼をどうでしょうか」
フィーユが上目遣いでこっちを見て誘ってくる。うん、それは嬉しい、嬉しいけどちょっと空気が怖すぎないかな。
と、ともかくこのままじゃまずい。うん、絶対良くないしなんか危険な気がする。
「えーと、レティ。悪いが昼飯は別でな。俺たちがここで一緒にいたらお互いに良くない」
「でも……」
「でもじゃない。学院ではちゃんとケジメを付ける約束だろ? ちゃんと晩飯は一緒に食べるし自主練も付き合うからそれで許してくれよ」
「そ、そこまでいうなら……」
「ならいい。これからフィーユとは仲良くな。俺の大事な友人なんだから」
「う……」
「フィーユもその、レティのこと頼む。小さいころから面倒みてきたかわいい従妹だし、こいつもこの図書館の利用者だからな」
「わ、わかりました……メディクさんがそうおっしゃるなら」
「頼む。これからも一緒に昼食を取るからその、従妹と喧嘩されるのはあんまりうれしくないから」
「…はい、わかりました。えっとその……レティシアさん、よろしくおねがいします」
「こちらこそ、メディ兄の友達なら、うん……よろしく」
よしなんとか落ち着いたか。まぁ初対面でいきなり仲良くは難しくても喧嘩せず打ち解けてほしいな。レティシアはかわいい妹分だし、フィーユも大事な友人。喧嘩しているところはみたくはない。すぐには無理でも時間が……時間といえば。
「レティ、お前授業詰まってるだろ。急がないと駄目だろ」
レティシアは学院長の個人レッスン以外にも色々と俺以上に授業を詰め込んでいるから時間の余裕はあまりないはず。
「あ、そうだった。あんまりゆっくりしてたら読む時間なくなっちゃう。ごめんね、話はまた今度で」
そう言い残してとてとて、とでも擬音をつけたくなるような勢いで一目散にレティシアは図書館の中へと入っていく。
ほんと犬っこいというかなんというか、走る姿までもろにそれっぽい。
「今の人がメディクさんに以前伺った天才従妹で……今度の発表会の一番手にして大本命、ですか」
それを見送ったフィーユがポツリと予想外のことをつぶやいてきた。なんでレティシアが発表会に出るって……ああ、フィーユもさすがに発表会の順番は見たのか。
「そうだな。どう考えても普通にやればあいつが一番取るだろうな。ひいき目抜きにみてモノが違うしな」
「そう、なのですか……」
おっと、フィーユがなんか複雑そうな顔をしている。いけない、ここで協力を頼んだ側の俺が弱気だったり逃げ腰だったりするのは駄目だよな。
「ただやるからには負けるつもりはないさ。俺も兄貴分として情けないところは見せたくないし」
「……兄貴分として……ですか……なるほど……なるほど」
そうなんだよ、同い年でも早くに生まれたのは俺だし小さい頃から面倒みてるとこういう時、意地がでるんだよ。
「メディクさん……私、がんばりますね。ですからその……あの人に負けない発表をしましょう」
そんな俺にフィーユはぐっ、と小さく握りこぶしを作ってやる気をアピールしてくれる。その慣れない仕草にほっこり癒されるし頑張ろうって気になる。
「ああ、そうだな。やるからには勝つ、そのつもりでいこう」
十二話は本日20:10ごろです




