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1話 医世界ではなく異世界へ

お久しぶりです。新作投下となります。

 拝啓 ヒポクラテス様、医大生の端くれとして医師となりあなたに誓いをたてるはずだったのですが何の因果かその前に別の世界に生まれ変わってしまいました。

 それでも一応あなたに誓うはずだった思いを忘れず、懸命に努力をしたところ気がついたらなぜか恐れ多くもこちらの世界であなたと同じ「医聖」という称号を贈られてしまったのです。それだけでも大変恐縮なのですが、その……婦長に、殴られそうなので助けてくださいお願いします。

 本当にどうしてこうなってしまったのか、話せば長くなるのですが……


 試験を受けようと家をでたはずが、気がついたら俺は幼児になっていた。いや、何を言っているのかわからないかもしれないが本当にそうとしか言えないんだ。

 俺は確かにその日、医師国家試験を受けるために家を早めに出て会場に向かっていた、それは間違いない。だが、バスを待っているところで俺の記憶はぷっつりと途切れて気がついたら幼児となって見たこともないくらい立派な部屋で積み木で遊んでいたのだ。

 もっている積み木の重さもずっしりと感じるし、周りにある高そうな家具やら暖炉の大きさから判断してあきらかに俺の体が小さく、幼児になっている。


「あら、あなた。みて、メディクったら積み木をあんなに上手に……」


「随分と大きくなったものだ……これならもう少ししたら修行も始められるかもしれないな」


 そして戸惑っているところに、日本語でも英語でも、それから二外でやったスペイン語でもない話し声が聞こえてくる。全く知らない言葉、なのになぜだか頭ですんなりと理解できる。


「おお、こっちをみた。うんうん、どこか目に力がでてきたなぁ。知恵がついてきた証拠だろうな」


 声がしたほうを振り返ると、そこには立派な身なりをしたいかにも貴族! という体裁の赤毛の男女がこちらを見下ろしていてもう嫌でも理解させられる。

 俺、間違いなく幼児になっている。それもこの二人の子どもに。


「うんうん。やっぱりお前に似て頭が良さそうだ。将来が楽しみだな」


 満足気にいうとその推定父親は葉巻らしきものを取り出すと、ライターもマッチも使わずにさも当然と言わんばかりに指先に火を……てっ、なんか奥さんみたいな人が手から水出してぶっかけた⁉


「あなた、メディクの前で葉巻は吸わないでっていいましたよね」


「おっと、そうだったな。いやぁすまんすまん、ついうっかり」


「もう、ついじゃありませんよ」


 手から炎をだしたり水をだしたりするのがさも当然という感じの二人の振る舞い。

 これはあれか、最近流行りの異世界転生というやつか。外国に生まれ変わった可能性も考えたけど明らかに魔法っぽいの使ってたし。

 なんだかんだでその手の本は結構読んだし嫌いじゃないけどまさか俺自身が体験することになるなんてな。

 しかしどうしたものか。いったいどうしてこんなことになってしまったかわからないし、元の世界、いやもっとはっきりいうと元の体に戻れるのかもわからない。というか無理な可能性のほうが高い気がする。

 こうなると今できることは……


「ふぎゃぁぁ! ふぎゃぁぁ!」


「あらメディクのお腹が空いたようだしご飯を用意させましようか」


「そうだな。食べて寝るのが成長の第一歩だ」


 うん、食っちゃ寝生活を満喫して現状に適応するしかないよな。幸い幼児に転生しているからこの世界のことも常識も何もしらないでもおかしくないし、言語は体が覚えているみたいだし。

 将来なにをするか、どうするかは大きくなってから考えよう。前世では医者になるつもりだったからこっちでもって思いはなくもないけど、この世界のことがわからないと決めようがないしな。そもそもこの世界に医者という職業はあるのかもわからないし。

 幸い裕福な家の生まれみたいだし、できれば生活水準を維持したうえでほどほどに豊かで安定した生活ができるのを目指したいな。医者がその条件にマッチしてたら最高だけど……ま、本当に今考えてもしょうがない。

 せっかく始まった第二の人生、今度はちゃんと最後まで生き抜けるように頑張るとするか。



「メディにぃー! まってよぉ~」


「遅いぞレティ、そんなにゆっくりしてたら置いていくぞ」


 俺がメディクという新しい体で異世界転生したことに気づいてから何年か過ぎ、六歳になった。

 あれから幸い病気一つなく成長することができ、おまけにレティシアという同い年の従妹まで得ることが出来た。

 いやうん、この状態になるまで、特に転生したことに気づいてから最初の一年は自由が利かない体で大変だった。すぐ眠くなるし、ちょっと家の中を探検しようとしたら従者や親がすっ飛んで元の場所に戻されるし。そんな感じでまったくはかどらなかったが、それでも時間をかけたおかげである程度の情報は集めることができた。

 まず、この世界に魔法は当たり前にあって俺が生まれた家、ノワル家は攻撃魔法の大家らしい。なにせ寝物語で母さんが何度も父さんやご先祖様がいかにすごい攻撃魔法の使い手で、国のために活躍したかを話し、あなたはその跡取りなのよと言われたら嫌でもわかろうというものだ。

 寝物語だから誇張が幾分か入っているかもだがそれでも前の人生で住んでいた家と比較するのも馬鹿らしくなる巨大な家や、何人も従者を抱えているあたり大きな家であるのは間違いない。うん、こういう大きく不自由がない家に生まれたのは本当に幸いだった。

 それから自由に動き回れない間に色々と自分の……日本の医大生だった記憶やらなんやらをたぐってみたがなにか特殊な処理がされているのかどういうことがあったのか、とかどういう風に感じたのかとか覚えたことは色褪せないままだ。

 そしてこれは動けるようになってからわかったのだが、この世界でも暦の周期やら通貨や数の概念やらは地球と同じなのでそのあたりで齟齬を感じないですむのは本当に助かる。

 特に数字が同じ十進法とわかった時の安堵感は強かった。もし全部が例えば二進法だったらただ数を書くだけでも恐ろしく煩雑になるし、十六進法やら九進法やらだと計算とか何もかもが本当に面倒なことになるのだから。

 これで一から読み書きはともかく計算などをやり直さないですむのは労力の節約になるから時間を有意義に使えるな。

 ただ、いくらこっちでも通じるからって数学やそれからあちらの世界で覚えた医学にもこちらの世界でチートや無双できるとは全く思えない。

 なにせ俺が大学で学んだ現代医学は科学技術ありき。診断にもレントゲンやCTなどの医療機器が必要だし、治療にいたっては化学薬品のオンパレード。たとえばこの病気にはどんな薬が効くか知っていてもその薬を作ることはできない。

 数学だってそうだ。そりゃ俺は日本の受験戦争を戦い抜いて国立医大に入ったから受験数学には精通しているし、普通のやつよりはできる。ただそれは出された問題を解けるってことで、数学的な優秀さや才能があるのとは違うんだよなぁ。

 スライダーやらジャイロボールの理論や投げ方を知っているからってレジェンド野球選手に普通の高校球児が勝てるはずがない、そういうことだ。

 だが、うん。だが、だ。正直前世からの持ち込みチートは本命じゃない。それよりも俺の新たな人生でメインとなってくれそうなことは……


「メディ兄、楽しみだね魔法のお稽古。あたしもお父様たちみたいに魔法上手に使えるかなぁ」


「はは、レティなら大丈夫だよ。すぐに上手になるさ」


 そうなのだ。六歳になった俺とレティシアは今日から攻撃魔法の稽古をつけてもらえることになっている。これが、俺にとって一番の楽しみであり期待していることなのだ。

 なんせ、両親はバンバン魔法使っているし従者が何人もいるこの屋敷の主。その息子、それも跡取りの嫡男なのだから魔法の才能が豊富な可能性は高い。この手の転生ものって魔力量だのなんだのの、とにかく才能が規格外であることも王道だしな。

 まぁ才能云々抜きでも魔法の訓練は楽しみでしかない。だって手から炎や氷を出して操るなんてこと、憧れるに決まってる。前世でも小さい頃なんどそういうことをしたかもう数え切れない。


「んー、でも心配。あたし、メディ兄ほど頭良くないし魔法上手にできるかなぁ」


「はは、大丈夫だって。いつもみたいに僕がちゃんと覚えてレティにも教えてあげるから」


 普段からレティシアとは一緒に読み書きやらなんやらのお稽古をしているが、そこではだいたい俺がレティシアの面倒をみている。

 同い年だが俺の方がちょっとだけ先に生まれているし、読み書きやら数のお稽古は前世でもうこなしているからそうなるのも自然。なによりレティシアは父さんの弟の娘なんだが、母親がレティシアを産んでまもなくなくなったこともあって、ほとんど俺と一緒に育てられているからもう妹も同然だ。


「うん! メディ兄、お願いね!」


「まかせておいて」


 前世では一人っ子だったこともあって妹に、いや実際は従妹だけど頼られるってのは新鮮で嬉しいもの。しかもその頼ってくる子が艶々の赤髪をたなびかせた人形のように愛らしい子なんだから嬉しさ倍付けだ。


「はは、相変わらず仲がいいなメディクとレティシアは」


「あ、おじさん!」


「お父様!」


 そして俺とレティシアがいつものように仲良く屋敷の中庭にでるとそこでは父さんが楽しみで仕方ないという表情で待ち構えていた。


「お父様、今日からご指導よろしくおねがいします!」


「します!」


「うむ! 二人とも挨拶ができて偉いぞ!」


 父さんは俺にもレティシアにも甘いというか可愛くてしかたない、といった具合でもう事あるごとに顔をデレデレにするが、今日のデレっぷりはもういつも以上だ。

 ただ、その気持もわからないでもない。かわいがってる子どもに何かを、それも得分野を教えるってのは楽しいことだし気合も入れる顔がほころぶのもしょうがないというもの。


「さて、二人とも六歳になったし今日から魔法を教えることとするが、覚悟はいいな? 魔法の練習は一歩間違えたら大変なことになるから、二人相手でも厳しくするぞ?」

 しかし、さすが魔法の大家のトップ。その表情はだらけきった表情は一瞬で厳しい真剣そのものに。まだ幼い子にむける表情じゃないと思う、でもそれだけ魔法を扱うのは気をつけないといけないということ。ああ、ワクワクしてきた!


「はい! がんばります、お父様!」


「え、えっと、う、うん! メディ兄と一緒だからだ、大丈夫だもん!」


 父さんの言葉に覚悟を決めて、俺とそして遅れてレティシアも返事をする。さぁ、ここからが本番だ!


次話は本日9:10ごろの予定です。

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