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勇士は片思いの相手を追って上洛する

 ジンランは父の元に居た。以前より都に居る兄に変わって都に滞在せよと言われていたからだ。


「そうか、気が変わっったか」


 人質としての価値は兄の方が上なのだろう。今回兄を呼び戻し、自分が都へ行くことで痛くもない腹を探られるのでは無いかという考えはあったが、今はどうでも良かった。リュセがあくまでも自分を男としてでは無く、兄としか見ていないのだとしても、一人で都へ行かせる事は心配だったのだ。


 紫垣王の人となりはわからない、公子の中では武勇にすぐれ、知略にも長けた父である新帝以上の器だという噂も耳にする。


 だが王として優れていても男として女を幸せにできるかどうかはまた別の話だ。


 ジンランの父は勇猛果敢な辺境の守護神として先帝、今は太上皇帝の覚えもめでたいが、男としては女好きのろくでなしと言って差し支え無かった。


 今都にいる兄は正室の息子で嫡男だが、ジンランは妾の子だ。侵略してきた異民族を撃退したところまでは良かったが、英雄色を好むの言葉通り敵将の妻を我が物にした結果がジンランだった。


 ジンランの母は腹を痛めた自分の子は愛おしんだが父の事を死ぬまで許しはしなかった。


 己を愛さない女をそれでも妻の一人として処遇してきた父を立派だと世間は言うが、そもそもいくら美しいからといって敵将の女を我が物にせんとする好色ぶりは男から見れば評価に値するかもしれないが……。


「ならば急ぎ出立の準備を、……今回はワシも同行する」


 そう言ってジンランの父、カザンは不敵に微笑んでみせた。


--


 父の同行は予想外だったが、シン家惨殺事件の報告をあげる為なのだと納得した。ロクシャンを軍事面で支えていたのがカザンならば、地方官として行政面を担っていたのがリュセの一族だった。


 しばらくは副官が代行を行うとしても、替りとなる人員を中央からよこしてもらう必要がある。


 リュセとジンランを都へ送り届け、かつ中央と折衝し、さらにジンランの兄、長兄を引き取る為、カザンも同行するという事だった。


 リュセは馬車に、ジンランはそれを守るようにその後を馬で追いながら、ジンランは父の考えに思いを巡らせていた。


 曲がりなりにもロンシャンは城塞都市のはず。やすやすと賊の侵入を許し、行政官の一家を皆殺しにした者達が警護の者達に気づかれずに脱出する事ができたのだろうかという事だ。


 さらに、狙いすましたようにリュセの不在の時に賊が侵入したのは何故なのか。


 あの日、リュセは都へ行くための準備の為家を空けていた。


 偶然と言ってしまえばそれまでだが、もしリュセも殺害されていたならばどうなっていたかという事をジンランは考える。


 まさか、父が裏で糸を引いていたというのか……いや、そんなはずは。


 母がいくら父を憎んで死んだとて、ジンランにとってはカザンは命の親なのだ。武人として尊敬している父だが、勝つという事に対して手段を選ばない事もまた知っている。


 そして確実に言える事は、父にとってジンランは当然ながらリュセも駒に過ぎないという事だ。


 せめて紫垣王がリュセを幸せにするに足りる度量を持った男であってくれれば。


 ジンランは思った。


 リュセを攫ってどこかへ逃げようかと考えた事もある。しかしリュセにとって自分はあくまでも兄なのだという事をジンランは考えずにはいられなかった。


 もしリュセが自分を男として見てくれていたならば……。


 ジンランにとって、自分を産んでくれた母が死んだ今、最も大切で幸せであって欲しいのがリュセだった。


 父ですらも、それには及ばないだろう。


 見極める為にジンランは都へ向かう。リュセを守るために。


 嫡男と引き換えにできるほどの価値が自分にあるかはわからないが、父が兄と自分の立場を入れ替えるというのであればいかなる手段を持ってしてもそれを成すのだろう。


 人質として都に残される事も、何事かあった時に命を奪われる事になったとしても、リュセの側に居られるのならば、それすらも受け入れようと、ジンランは覚悟を決めていた。

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