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兄と父と夫と

「姐さん大変です!! 敵襲だ!!」


 見張りの一人がバンラの元にやって来た。既に頭目へは伝達済みのようで、周囲が急にざわつき始める。


「なるほど……、で? 相手は?」


 わかっているだろうという顔でバンラが伝令に尋ねる。偽りを言っても仕方がない、時間から考えて、恐らくは兄なのだろう。


「多分……兄が……」


「さて、どうしたもんか、あんたの兄さんはあんたを助けにきたんだろう? だったら、あんたに交渉してもらうのが一番いいような気がするけどね」


「交渉、とは?」


 フェンは、バンラの背後に立ったジンランの姿に驚いて、言葉を失った。


 ジンランが剣の柄でもってバンラを攻撃しようとした瞬間に、バンラが身をかわす。


「クッ!!」


 かわされたジンランがあわてて間合いをとるために飛び退る。


「おーやー、ジンランじゃないかい、やっぱりあたしに会いたくなって戻ってきたのかい?」


 バンラがおどけてしなを作って見せた。


「ふざけるなッ!!」


「あら、まあ残念、さっきはこちらも油断していたからねえっ」


 バンラは懐からうなる鞭のような武器を出した。


「フェン!! 逃げろッ!!」


 ジンランの声にフェンが驚いたが、咄嗟の事で身動きができなかった。


 バンラの鞭がフェンを捉える。両腕ごと巻き取られて、フェンは身動きができなくなった。


「ごめんなさい、ジンラン……」


 もっと早くジンランの声に気づき、行動を起こせていれば、フェンは思わずジンランに詫びた。


「いえ、いいんです、俺の考えが足りなかった」


 そう言いながら、ジンランはじりじりとバンラと間合いをとり、切っ先を向け続ける。一方バンラの方はフェンを引き寄せた。


 手に刃物こそ持っていないが、ジンランが飛びかかる前にフェンを傷つける事はバンラには容易な事だろう。


「あんた、なんだってここへ? あんた達は一応夫婦って事になってはいるけど、実質的な夫婦ではないんだろ?」


 シャング同様、バンラもロクシャン府での二人の状況を正しく把握している。


 言われてフェンが赤面した。閨房の事を言われて恥ずかしさがたったのだろう。


 いかに気丈でも、公主でも、本人を前に言われて平静を保つ事はできないようだった。


「だからこそさ」


 それこそが狙いだとでも言うようにバンラが言った。


「今はあんたの相手をしている場合じゃない、まず剣を捨てな、公主の体に傷を付けてほしくなければね」


 バンラの手が、ギリギリとフェンの首筋に食い込む。バンラとしては、フェンを今殺す事はできない。しかし、ジンランに自由に動かれても困るのだった。

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