表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/31

明かされた正体

 まさかシャングが生きて囚われていたとは……。


 フェンは観念して正体を明かした。


 既にバンラには疑われている自覚があったのだ。


 鬼蜘蛛の事を知っている。しかも祖父に聞いていたという話は、一般庶民は知り得ない知識なのだとやんわり言われたようなものだ。


 捕えられている者が居ると聞き、それは恐らくはシャングなのだろうなという事も。


 フェンは、心で舌打ちをしたい気分になった。


 生きていたとは……。


 だいたい、リュセを自分と間違えて拉致したのはこいつなのだ。


 そういう意味では全ての元凶とも言える。


 傷つけられた家人達は気の毒としか思えないが、恐らく自分の愚かな行動のせいで配下の者たちが害された事などすっかり忘れている様子のシャングには、己を省みようとする意識は無いのだろう。


 幸い、シャングはそのまま牢に繋がれていた。衰弱されても困るので、食事を与えるようにと言ったバンラはシャングよりよほど下の者への目配せが効いているのでは無いかと思った。


--


「あたしにはわからんよ、あんたが何だって一人でここに残ったかが」


 バンラはフェンに縄を打つことはしなかったが、扉の外には見張りがおり、簡単には逃げ出さないような措置がほどこされていた。


「あたしらの目的はあんただ、まあ、残ってくれたのはありがたいが、狙われていたのが自分だとわかっていて、身代わりになった娘を救い出したってのはどういう事なんだい」


 フェンは、答えられなかった。


「ジンランの思い人はあっちって事かねえ」


 やはりバンラは鋭い、と、フェンは思った。


「だったらなおさら……ああ、あの娘を助けるジンランに手を貸したかったって事かねえ」


 つぶやくように言うバンラの言葉に、フェンは無言のままではあったが、赤く染まった顔が答えているも同然だった。


「いじらしいというか、愚かというか、まあ、あたしらとしては、あのアホなボンボンに振り回されて、本来の目的であるあんたを拉致できなかったわけだから、目的を達したので、結果としてはよかったんだけどねえ……あんたが一番の貧乏くじって事なのか、それだけは同情するよ」


「私をどうするつもり?」


 こうなってはもう身の危険はあろうが、関係無い。偽らずにそのままの自分で居られるという事はむしろ気が楽というものだ。


 開き直ってフェンは尋ねた。


 少なくとも、絲束の賊は、猩紅公主の首を差し出すのではなく、『生かして』おく必要があるのだという事はわかっていた。


「あれ? 雇い主が誰かは聞かないのかい?」


「いくらなんでもそれは教えてくれないんじゃないの? でも、この先私がどうなるかについては、時が経てばわかる事だし、聞いてもさしつかえないのでは?」


「おーや、公主様、かしこいねー、さすが先帝様気に入り、紫垣王の妹御」


 先帝を引き合いに出された事、頭目の妻がかつて都でも名の知れた鬼蜘蛛のバンラである事から、黒幕は都の誰か、しかも、下手をすると宮廷内部の誰かという可能性が高い。


 都へ連れ戻されるのであれば、それはそれで戻る手間が省けるというものだ。


 だが、今は生かしているが、最終的には首級のみになる可能性もまだある。


 無抵抗の娘の首をはねる事に少々のためらいがある程度に、絲束の賊は情けがあるという事でもある。


「生きたまま連れて来るよう言われている、だから、あたしらはあんたを丁重に扱う他無い、ならず者達の中に放り込んだりもできない、あんたに余計な虫が着くこともまずいようだね、……そして、その虫にはジンランも含まれる」


 つまり、ジンランとフェンの婚姻を望まない誰かという事なのだろう。


 バンラは、全てを語る気は無いが、『察しろ』とばかりに情報を散りばめている。


 では、皇后の一族の者だろうか。


 だとすると、シャングが牢に繋がれている事、屋敷が襲われた事と矛盾が生じる。


 ……ただし、あえてそうする事で、黒幕の正体をぼかしている可能性もある。


 シャングも、(相当ひどい扱いではあったが)殺されては居ないのだ。


 フェンの心情としては、皇后側の誰かが黒幕なのではと思いたかった。


 だが、もうひとつ、恐れている事があった。ある意味皇后と同様なのだが、……それは父である皇帝の差し金だったのではないかという事だ。


 祖父は、鬼蜘蛛は義賊だと言っていた。


 ……そして、正規の軍や近衛兵ではできない荒事をやる、皇帝直属の者でもあると。


 祖父がそうしたように、父が絲束の賊をそのように使っていたのだとしたら。


 フェンは、父が兄を疎んじている事は知っていた。


 けれど、まさか娘をかどわかすとは。


 何故直接語らない。実の親子だというのに。


 だからフェンは、決定的な事実について確かめたい気持ちと確かめたくない気持ちが混在していた。


 けれど、父が雇用主であるならば、殺される事は無いだろう。


 ただし、その場合、待ち受けているのはジンランとの別離なのだろうが。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=587457280&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ