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シャングは助けを求める

 ほんの一瞬、ジンランのような男が繋がれたような気がしたが、本当に気の所為だった。


 シャングは、誰にも相手にされず、牢に放置されているような状況だった。


 声をあげても叫んでも、誰もやって来ない。


 拉致をされた時に食らわされた当身が痛みはするものの、他は怪我も無く、今は空腹の方が深刻だった。


 腹が減ると声も出ない。


 まさかこのまま放置されてしまうのか。


 ぞっとして、再び声を上げたが、虚しく響くばかりだった。


 どうして自分がこんな境遇に置かれているのか、黒幕は誰なのか。思い当たるところがあるとすれば、ジンランの父親だろうか。


 自分は、言うなれば恋敵である。


 そもそも、フェン、猩紅公主の本来の結婚相手は自分であったのだ。それをロクシャンごとき辺境の位置警備隊長のしかも次男に嫁ぐなど、依怙贔屓この上ない。


 そこまで考えてシャングは思い至った。


 そうだ、黒幕は太上皇帝に違いない。


 フェン達の祖父、先帝だ。


 現在の皇帝に不満があり、皇后一族は目の上こぶだ。皇后一族の自分が新帝の娘と縁づく事で、力を増すことを恐れたに違いないッ!!


 猩紅公主と自分の婚姻において新帝の力はいっそう強化されて、いよいよ栄えるに違いない、ああ、いつまでもこんなところには居られない。猩紅公主は無事だろうか、今ごろ意にそまぬ縁談で不埒な好意を強要された上、純潔を散らされていると思うと……。


 空腹がなんだ、声が枯れるまで叫び続けるしかないッ!!


 そう、己を鼓舞したシャングがいっそう声を張り上げ続けると、根負けしたのか、心底うんざりした顔のならず者が一人やってきた。


「あー、うるせえうるせえ、いい加減黙れ」


「おお! やっと来たか、やい悪党ども、お前達の目的はお見通しだ、今すぐ俺を都へ還せ、でないと大変な事になるぞ」


 ならず者一人に大見得をきりすぎたか、と、シャングは少し後悔したが、ともかく牢を出て、食事をして、都へとって返さなくてはならないのだ。


「大変な事……ねえ、たとえばどんな?」


「既に俺の奪還の為に一軍が成されているはずだ、我が伯母上が黙っていないであろうし、皇帝陛下はいやしくも俺にとっては岳父ともなるお方、婿を救うため、全力を持って救い手を差し伸べるはず」


 言っているうちに気持ちが高揚してきたシャングは、足を踏ん張り、胸をそって、そのまま背後にのけぞりそうになりながら両手を腰にあてて、大見得をきった。


 一方、ならず者の方は心底うんざりした顔をして、こいつ……斬っちゃダメかな、と、思い始めていた。


 頭目の妻である、バンラが、見慣れぬ女を連れてやって来たのはそんな折だった。


「バンラ様!! 申し訳ありません、こいつ、やっぱり斬っちゃってもいいですか?」


 ならず者はシャングの言うことなどろくに聞かず、不愉快な人質を斬り殺す許しを得たい気持ちでいっぱいのようだった。


「まあそう言うな、殺っちまうのは簡単だがね、利用価値があるかないかの見極めは大切だ、なあ、お嬢ちゃん」


 バンラが顎をしゃくると、連れらしい女がびくりと身を震わせた。


「おお! 猩紅公主!! 我が婚約者殿!!」


 シャングは喜んで、格子の隙間から腕を伸ばし、フェンの方に少しでも近づこうとした。


「ほお? この嬢ちゃんは猩紅公主と、あんたは言うのかい?」


「ああ、そうだ、お前は話がわかるようだな、我が伴侶となる高貴なるお方、貴様らなどが側近くに寄れないようなお方だぞ! 平服せよ!!」


「という事らしいが、どうなんだい?」


 挑むような視線で、回答を求めるバンラは、それまで見せたことのないような怜悧な視線でフェンを睨めつけた。

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