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ジンランの変化

 追手が無い事を確かめて、ジンランは馬から降りた。


 いくら名馬といえど、少し負担をかけすぎている。できれば二人で降りたいところではあったが、リュセを歩かせるわけにはいかず、リュセだけを馬にのせて、疋馬のような形で歩き始める。


 遠からず、紫垣王達が追いついてくるはずで、その時にフェンが共に来ていた事、リュセを救う為、自ら残った事を伝えたならば、紫垣王はどう思うだろうと、ジンランは考えていた。


 事情はどうあれ、猩紅公主は自分の妻だ。紫垣王にとっては妹でもある。


 だが、そうした保身の為で無く、ジンランはずっとフェンの事を考えていた。


 フェンは、自分がリュセを愛している事に気づいていた。気づいていた上で、公主として自らとるべき行動をとった。


 そうした誇り高い公主としてのフェンと、絲束の賊の頭目に蹂躙されそうになった時の怯えた様子も思い浮かべた。


 怖がって抱きついたフェンこそが、素の彼女なのだろう。


 それにひきかえ自分ときたら……。


 ジンランは我が身が情けなく、不甲斐なかった。


 少し前のジンランであったら、リュセを連れてどこかへ逃げていたかもしれない。だがそれは、フェンと比べても、あまりにも利己的で、男らしくない行動だと思えた。


 怖かったと怯えていたフェンを抱きしめた時のあの感覚。


 ジンランはフェンへの愛おしさがつのっていく事を感じた。


 何と気の多い事だ、と、我ながらあきれるが、初めて見た時からフェンが心にかかっていたのは確かだったのだ。


 誇り高く、毅然とした、しかし、どこか脆さもあるフェンが、花嫁衣装を着て眼前に現れた時の高揚は、偽り無い自分の思いでもあったのだ。


 今はフェンの身が案じられた。


 たった一人残ったフェンが、あの頭目を相手にどんな奇禍に見舞われているか、想像するだけでぞっとする。


「ジン兄様」


 馬上のリュセが、ひらりと降りた。


「どうか、フェン様を助けに行って下さい」


「馬鹿な、お前を一人にするわけには……」


「ここまで来れば、すぐには追手が来ることもないでしょう、それにほら……あそこに宗廟があります、あそこに身を顰めております、私が共に戻っては足手まといでしょう、どうか兄様、私の為にフェン様の身に何かあっては……」


「リュセ……」


「お急ぎを!! あのお方は私にとっても大切な方です」


 きっぱりと言われ、ジンランは馬上の人となった。


 どうした事だろうと、ジンランも驚いていた。


 リュセを一人にする事に不安はあったが、それ以上にフェンが気がかりだった。フェンの身が危ういとなったら、胸が締め付けられるような気持ちになる。


「すまんな、もう少しがんばってくれよ」


 紫垣王の愛馬は、実に優秀で、体力もあった。並の馬であれば、これだけの働きはできなかっただろう。


 フェンを助ける、その為ならば、自分もどうなってもかまわない、と、ジンランは思い始めていた。


--


 思えば、フェンは自分のリュセへの気持ちを見抜いていたように思えた。


 見抜きながらも、公主としてジンランの元へ嫁いできたのだ。


 自分とあまりに違う、その覚悟と、信念に、いつの間にかジンラン自身が魅せられていた。


 嫁ぐという事への覚悟は、不本意な相手を娶る自分と比べて、どれほどの決意だっただろうか。


 たった一人で敵地同然の場所へ残る事の恐怖を。


 そして、フェンは恐れている、実際恐れていた。


 それを圧してもなお、成し遂げようとする気概はどうだろう。公主とは、王家の者の覚悟とはこれほどまでなのか。


 守れなかった自らの不甲斐なさを恥、翼なき身の歯がゆさに苛立った。


 間に合わないかもしれない。だが、行かずには居られなかった。


 どうか、どうか間に合って欲しいと、ジンランの心は逸った。

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