フェンからの提案
「入れ替わり……ですか?」
リュセは驚いた様子で聞き返した。
未来の紫垣王妃を守るため、フェンが出した案は自分とリュセの衣装を変えて、敵対する人物をあぶりだすという方法だった。
「紫垣王府内でリュセに護衛を付けたら相手も警戒するでしょう? だから、私と入れ替わる形でジンランと共に居れば、ジンランがリュセを守る事になるわ」
笑顔でそう勧めながら、フェンは腑を捻られるような痛みに耐えていた。
ジンランがリュセの護衛につく、……そして、自分のふりをさせるという事は、つまり対外的には夫婦のふりをさせるという事だ。
リュセがジンランをどう思っているかはわからない。
けれど、ジンランにとって、それは受け入れやすい提案だと思った。
焦がれた相手を自ら守る事ができる、……さらに、側に居る事ができる。
フェンは、ジンランに思いを遂げて欲しいと思っているのだろうか。自問しても、答えは出ない。
感情では到底耐えられそうに無いが、リュセを守る事ができて、なおかつ姿を見せない敵対者をあぶり出す為には最適の方法なのではないかと思った。
きっとジンランならば賛成してくれる、そう思っていた。
しかし、現実は違っていた。
「では、貴女を守るのは誰なんです、フェン」
ジンランはリュセでは無く、真っ直ぐにフェンを見ていた。
「大丈夫よ、だって私、ここで産まれ育ったのよ? 見慣れない人物が近づけばづくわかるし、自分の身くらいは自分で……」
「フェン様、ならば私とて、自分の身は守れます、公主様を敵の前に差し出すなどできません」
今度はリュセに言われてしまった。
「でも、リュセは王府に来たばかりで、知り合いも少ないでしょう? 不審者が近づいてすぐに身構える事はできないわ」
それについてはフェンの方に理があった。リュセも言い返す事はできない。
ずっと無言を通していたシュウが、ここで始めて発言した。
「私は反対だ、リュセとジンランを二人きりにするわけにはいかない」
きっぱりと言う兄にフェンが『はああああぁぁぁぁぁぁ???』という顔を作ると、リュセが顔を赤らめる。
何なんだ、この既に出来上がっている感じ
と、フェンは思った。
まさか兄は既にリュセに……と、今度はジンランの方を見ると、どことなくジンランは青ざめたような顔をしている。
今、この場で兄を問い詰めてもよいが、それでは会合の趣旨が変わってしまう。フェンはリュセと兄が結ばれて、ジンランがリュセを諦めてくれるのではないかと一瞬でも期待した自分の醜悪さにあきれた。
身代わりを申し出たのはそうした自分の醜さを、リュセを守る事で打ち消したかったのかもしれない。
それぞれに思惑はある、だが、今最も重大な事は、リュセの命を狙った者が誰なのかを突き止めて、それを辞めさせる。もしくは排除する事だ。
「……だが、どうだろう、ジンランはリュセにとっては兄同然、フェンには申し出の通りリュセの代役に立ってもらい、ジンランが護衛に着く、というのはどうだろう」
「はあ?! 何言ってんの兄様?!」
一国の公主とは思えないような凶悪な表情でフェンが凄むと、リュセまでもが、
「ジン兄様でしたら安心です、ロクシャン最強の武人ですもの」
などと言う。
リュセは、ジンランが向ける感情についてはひどく鈍感であるのに、フェンがジンランに向けている感情については気づいているようなふしがあった。
いくら二人がそう言ったところで、ジンランに無理強いする気持ちは無いし、ジンランとリュセが共に過ごせるようにしたい気持ちがフェンにはあったのだ。
「わかった、フェン殿の護衛は俺が引き受ける」
ジンランがきっぱりと言った。
そこには、リュセとの時間を期待して裏切られたようなところは無く、純粋に武人としてフェンを護ろうとする意志のようなものが見えた。
フェンは、それまで引き攣れそうな痛みがすっと無くなるような気がした。
鼓動は速度を増して、顔が赤く染まっているのが自分でもわかる。
けれどこうも考えた。
……喜んではいけない。
ジンランが自分の護衛を引き受けたのは、あくまでもリュセを害そうとする誰かをつきとめるためなのだ。
私を守る為では無い。
三対一、そうなると、フェンにはそれ以上異を唱える事はできなかった。




