もどかしい二人
ロクシャン将軍、カザンは息子の婚姻にまずまず満足していた。思っていたよりもずっと猩紅公主が美しい事に驚いていた。
紅蓋頭を付けていてわからなかった顔を覗きに行くと、ジンランと並ぶ猩紅公主の容貌は明るい髪のジンランに対して漆黒の艷やかな髪に白い肌と、何より聡明そうな眼差しで、似合いの一対だった。
妖艶で肉惑な女が好みなカザンとしては少々肉付きには欠けるが、兄二人同様高貴なたたずまいは出自の高さゆえか、屈服させたいと思わせるような、山岳に凛と咲く花のような印象を持った。
既に初夜は過ぎ、ジンランと肌を重ねたであろうはずなのに、そういった営みとはまだ遠いような可憐さを持ち続けているというところはカザンの興味を誘った。
だが、カザンは秀麗な息子と違い、醜悪な見た目の男であった。舅としての礼節以上のものを期待してはならないと、ひとまずは思うことにした。
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容貌は全く異なるのに、どこかジンランの母を思わせるのは一国の公主という出自ゆえだろうか。ジンランはフェンを見て思った。
ジンランの母は族長の娘だった。婚約者と引き裂かれただけでなく、一族は惨殺され、それでもなお、顔を上げて生きていた。
夫や近侍達に心を開く事は無かったが、息子のジンランとリュセのシン家の者達には不思議とやさしかった。
だが、病死したと聞かされた母が、実は毒をあおったのだと知った時、ジンランはひどく裏切られたようにも思った。
「お母上は、ジンランが独り立ちする日までは生き続けるおつもりだったのですよ」
そう教えてくれたのは今は亡きリュセの父、シン・クーリューであった。
ゆえに、フェンの瞳の奥に輝く強い意志のようなものに、母の面影を重ねてしまうのかもしれない。
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「……何か?」
じっとジンランに見つめられたフェンが問いかけると、ジンランはあわてて視線を外した。
「……いや、何でもない」
一応では夫婦であるのだから、顔をじっと見るくらいは許されてもよいのだろうが、最初に他の女へ操を立てていると宣言した手前、ジンランはフェンをどう扱って良いのかわかりかねていた。
側妻だとでもお思い下さいとフェンは言ったが、言葉通りに受け取る事はできないし、少なくともフェンはジンランにとってどうでもいい存在では無いのだった。
「……猩紅公主」
思い切って話しかけたジンランだったかその言葉はフェン自身の声でかき消された。
「どうしました! 何かあったのですか?!」
フェンとジンランを呼びに来た近侍はジンランがフェンに話かけようとしていた事に気づいていたのか、申し訳無さそうに言った。
「フーチンが一人で……公主様にご相談があると」




