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幼馴染

 フェンは、戻って着替えもせずに寝台につっぷしていた。文机には預かった書簡が丁寧に中央に置かれていた。


 乱暴に放り出したり、盗み見る気持ちにはなれなかった。


 自分宛のものでなくとも、それはジンランが丁寧に取り扱っていたものであるし、信じて託してくれた気持ちを踏みにじるような事はできなかったからだ。


 やはり、ジンランが気にしていた相手はリュセだった。理性ではそうだろうと予想はしていた、そうであって欲しくないというわずかな期待はついさっき粉々に砕かれた。


 恋心を自覚したその瞬間に、相手には別に意中の相手がいる事がわかってしまったのだ。フェンが思われぬ相手に恋をしてしまったように、ジンランの恋しい相手はすでに彼の手の届かない場所へ居るのだ。


 フェンは、兄とリュセが結ばれる可能性について考えた。残された三人の宮女候補のうち、二人はいわば強制されたようなものだ。だが、リュセは違う。選んだのは兄の意志なのか。


 兄はジンランから見れば憎い恋敵であり、愛しい女を無体な方法で奪った相手でもある。


 自分はジンランにとってそのような相手の妹なのだという事を知られてはならない、と、思ってしまった。


 そして、この先自分はどう振る舞うべきかを考えなくてはならなかった。


 紫垣王府の女官であれば、今後もリュセとの橋渡し役としてジンランに会う機会を得る事ができるかもしれない。


 だがそれは愚かな考えだ。


 そして自分らしく無いとも思った。


 けれど、そうした不本意な境遇に自分の身を置いてでも、フェンはジンランに頼りにして欲しいと願い、そして、いずれは破綻してしまう関係であったとしても、側近くで話をして、会えるだけでもかまわないと、思ってしまった。


 そうなれば、フェンがするべき事は一つだった。


 文机に置いた書簡を手に、フェンはリュセの元へと向かった。


--


 リュセの部屋へ続く回廊を進むと、美しい琴の音が聞こえてきた。リュセが奏でているのだろうか、それは胸が締め付けられるような音で、リュセもまたジンランを思っているのだろうかと思った。


 門番よろしく入り口近くにいたフーチンに来訪を告げると、琴の音が止み、リュセが姿を見せた。


「フェン様、色々ご配慮いただきありがとうございます」


 引き裂かれた衣だったとは思えないほどに、リュセの修復は見事だった。リュセの裁縫の技術に比べれば、補修の為の材料や修復の為の布の手配などどうという事は無い、フェンは自嘲気味に微笑んだ。


「他に何かご不便はありませんか?」


 フェンが尋ねると、


「そんな、これ以上は……」


 と、リュセが恐縮した。


 リュセとしては何故フェンがここまで自分に配慮をしてくれるのか戸惑っているようだった。リュセはフェンとジンランが出会っている事は知らない。面識の無かった公主が自分の為に動いてくれる事をありがたいと思いながらも不安も感じているようだ。


 故郷であった事件以降、リュセはリュセで気を張っている。ジエンやチェーツゥのようにわかりやすく嫌がらせをされる方が考えがわかる分楽ですらあった。


「リュセ……ジンランという方をご存知?」


 フェンは手に持っていた書簡をリュセに渡すように取り出した。


「ジンラン……それは、ロクシャン駐留軍将軍、カザンの次男であるジンランでしょうか。ええ、実の兄ではありませんが私の父とカザン様は盟友でしたので、幼い頃から共に育ちました、ですが何故フェン様がそれを?」


「ジンランから預かってきました、あなたに渡して欲しいと」


 フェンはできるかぎり考えが顔に出ないように努力した。リュセに自分の感情を知られるべきでは無いと考えたからだ。


 リュセは、その書簡をすぐに受け取らなかった。


「……リュセ?」


 フェンが再度問いかけるとようやくリュセは書簡を受け取った。


「あ、ありがとうございます」


 フェンは、リュセが自分の方をまるで見ていない事が気になった。今、リュセはフェンがどのような顔をしているかなど気にも止めていないだろう。青ざめて困惑しているリュセにフェンは自分の事も忘れて労りの言葉をかけた。


「どうしたの? あなたはいずれ私の姉になるかもしれない方、困った事があるのなら話をして、私、あなたの力になりたいの」


 それはフェンの素直な気持ちだった。ジンランの思い人かもしれないフェンを、どうしても憎いとは思えないのだ。


「フェン様……、紫垣王から、兄上から何か聞いていらっしゃいますか?」


 リュセは今フェンに何かを語ろうとしている、けれど迷っているようにも見える。それが何なのか、宮女試験を受けて、紫垣王の後宮に入る事になってはいるが、外に思う相手が……と、もし言われたら。


 リュセに頼って欲しいという気持ちと、知りたくないという気持ちがせめぎあう。フェンは、それ以上自分から尋ねる事はできなかった。


--


 フェンはリュセの部屋を後にした。書簡の内容が気にはなったが、今は兄に話を聞く方が先のように思えた。


 夕刻、既に政務を終えた兄は夕食を終えて部屋へ戻っているという。先触れも出さずに兄の部屋へ行くと、そこにはもう一人の兄が居た。


「おや、フェン殿……えーっと? 紫垣王府の女官? なんでしたっけ?」


 皮肉たっぷりにセイが言った。先ほど料理店でのやりとりを根に持たれているらしい。


「おにいさま 先ほどは調子を合わせてくださってありがとうございましたっ! 感謝します」


 お返し、とばかりに口元を歪ませた中途半端な笑顔で大いに毒を含んだようにフェンも答える。


「……何なんだ、お前たち、喧嘩するなら他所へ行ってくれ」


 恐らくはセイが来てからそれほど時間も経過していないのだろう。うんざりした様子で紫垣王事シュウが追っ払うように手を払うと、フェンとセイは声を揃えて


「「違います」」


 と、兄の方を見た。


「息は合っているようだが……」


 思いがけず同じ言葉を斉唱してしまった弟と妹に、長兄はあきらめて椅子をすすめた。


「兄上、フェンのやつジンランと一緒に料理屋へ行っていたんですよ」


 告げ口するようにセイが言うと、


「ジンランと? 何故フェンが?」


「……先日、助けていただいたのです、……その、街でシャングに絡まれた時に」


 フェンは素直にジンランと出会った経緯を兄二人に説明した。


「……なるほど、そういう事か……」


 ようやく諸々の話が出揃って一本の線に繋がったという様子でシュウが言った。


「ジンランの件が問題になっている、猩紅公主をたぶらかそうとしている、とな、噂の出処はシャングで、ロクシャン営所へ話が届くのも時間の問題だろう」


「え! それは困ります!」


 予想もしなかったシャングのやりように驚いてフェンが言うと、


「そうだな、ジンランはお前の事を猩紅公主とは思っていないから」


 と、セイが皮肉をこめて言った。


「にーさまッ!!」


 ギロりとフェンが兄を睨みつける。


「ちょっと待て、お前、身分を偽っているのか?」


「話の流れでそういう事に……」


 フェンがしゅんとして答えた。


「フェン、お前、大兄と俺と、態度が違い過ぎないか?」


「空気の読めないセイ兄様なんて」


 あざ笑うようにフェンが肩をすくめると、不服そうにセイが鼻を膨らませた。


「そうか、……ならばフェン、お前はそのまま紫垣王府の女官で押し通せ、絶対に猩紅公主だと告げるな」


「兄上、それは……」


「カザンが、ジンランの父が、猩紅公主、つまりお前とジンランの縁組を画策しているからだ」


「私と……ジンランの縁組?!」


 フェンが思わず顔を赤らめると、シュウは今度は別の意味で驚いたようにいセイの方を見た。


「……どうもそういう事らしい」


「ダメだ、絶対に許さんぞ」


「どうして?! だって、まだお互いの気持ちだって確かめていないし、一方的に私が……」


 言葉にしながらフェンはなんだか哀しい気持ちになってきた。


「私が一方的にジンランを慕っているだけで、ジンランは私の事など……」


「それはお前を女官だと思い込んでいるからでは無いのか?」


 妹の気持ちなどお構いなしにシュウが続けた。


「お前とジンランの気持ちどうこうではなく、ロクシャン将軍の息子と公主の縁談がまずいと言っているんだ、私は」


「何で? 兄上は自分の宮女としてロクシャンの行政官の娘を最終候補に入れてるじゃないの!」


「私とお前では状況が違う、というか一緒にするな」


「何でよっ!!」


 フェンは、既に理性で話す事を辞めていた。いつもこうだ、兄二人と話しをしていると、心根が幼い頃に戻ってしまう。


 こんな風に涙を流しながら聞き分けの無い風にではなく、きちんと理路整然と話したいのにそうできない。せめてリュセとの会話の半分も理性的であれたらいいのにと思いながら、フェンは頬を伝い落ちる涙を止める事ができなかった。


 こうなってしまうともう兄の行動は決まってしまう。


「……やれやれ」


 いかにもわがままな妹公主をなだめるように、兄は声音をやわらげた。


「セイ、どうにかしろ」


「兄上ぇ~、俺だってそんな言葉じゃ納得できない、シン・クーリューの娘御を残したのは何か意図があっての事なのか? せめて俺達だけでも説明してくれよ」


 セイの言葉に今度はシュウが赤面した。


 顔を赤くした兄と、泣きじゃくる妹を前に、唯一ロクシャン勢に対して関わりの無いセイが言った。


「兄上……もしかしてフェンに何か言える立場になかったりする?」


「どういう意味だッ!」


 フェン同様、弟妹の前だと紫垣王のままでいられなくなるシュウは弟に対して感情のままに答えてしまった。


「つまりその、政治的な意味とかを除いてその、シン・クーリューの娘に対して……」


「リュセだ!」

「リュセよ!」


 と、今度はシュウとフェンが声を揃えた。


「……わかった、そのリュセ殿に対して兄上は損得以外の感情をお持ちだと」


 セイが言い終わるより前にシュウの顔が真っ赤になった。


 フェンもセイもこれほどに取り乱している兄を見たのは初めての事だった。


 それだけに、フェンはジンランがリュセに対して送った書簡を渡した事、紫垣王府に居る誰かに対して並では無い感情を持っているだろう事を言うべきか迷っていた。


 恐らく、ジンランも兄もリュセに対して何らかの感情を持っているのだろう。だがリュセはどうだろう。


 ジンランからの書簡を渡した時のリュセの顔を思い出しながら、フェンは兄の様子を見た。兄は恋愛感情のようなものを誰かに対して持ったりはしないものだと思っていた。


 父の後を継いで皇太子、ゆくゆくは皇帝となるべくして幼い頃より見出されていた兄の事だ。今は母の元皇太子妃の失脚と、現皇后の台頭によって状況は変わりつつあるが、兄の心構えは変わっていないはずだろうに。


「私の事はいい、今はフェンの話をしている」


 言われてフェンは涙がひっこんでしまっている事に気づいた。


「私と兄上、どこが違うというの?」


「違うとも、私は男でお前は女だ」


「女は望まぬ相手であっても拒めないと? リュセがそうだから? リュセにだって選ぶ権利はあるはずよ、ここへ来たのだって誰かに強制されたのかもしれないじゃない」


「それは無い」


 やけにきっぱりと言い切る兄に、フェンは少し毒気を抜かれてしまったが皮肉をこめて言い返した。


「驚いた、ずいぶん自信がおありなのね」


「自信では無い……それに、……お前たちには言わない」


「言わないって……じゃあ私も言わない」


 ツン! と腕を組んでフェンがむくれると、言い合う兄と妹の間に立たされるはめになったもう一人の兄がため息をついた。


「フェン、だがそこは兄上の言うとおりだ、俺達が数年前ロクシャンへ出兵した事があっただろう」


 料理店でのジンランとセイの会話を思い出しながらフェンは続く兄の言葉を待った。


「ロクシャンはシンチェン国防の要だ、ゆえにそこを守る軍隊は国内でも精鋭が揃い、その軍隊を預かるカザンは当然力を持っている」


「そして、太上皇帝陛下から絶大な信頼を得てもいる」


 続けてシュウが言うと、フェンが皮肉を込めて言った。


「シュウ兄上と同様に、ね」


 シュウもセイもフェンの言葉には答えず、続けた。


「という事は父上から疎まれているという事だ」


 シュウは自嘲気味な笑みを浮かべつつ言った。数居る公子の中で、太上皇帝である祖父から父を差し置いてでも皇帝にと言わしめたシュウだが、そんなシュウをうとましく思っている者が少なくとも宮中には三人いる。


 一人目は皇后、未だ懐妊の兆しは無いようだが、若く野心家な皇后が自分の地位を固める為に最も欲しているのが自分の産んだ皇太子の擁立だった。


 二人目は宰相、娘を宮女候補として差し出してはいるが、政策において対立しがちな紫垣王をうとましく思っている事は朝議に出ている者であれば皆知っている。


 そして三人目は、誰あろう現皇帝だった。シュウがいたからこそ皇帝の座につけたのだなどと公然と言ってはばからない貴族がいるほどに、太上皇帝の信任厚い公子、紫垣王を、頼もしい息子としてでは無く、自らの座をおびやかす存在として恐れ、隙あらば追い落としかねないのも父だった。


 だが、父が息子を理由も無く失脚させるのはあまりにも外聞が悪い。


 ゆえに、父が本気で息子を排除したがっている事に気づいているのはごく少数だ。対立が明白で無いだけにその溝は深い。


「強い軍隊を持つロクシャン将軍の息子と、私の実妹の縁談は痛くもない腹を探られかねないと、……そういう事か」


「どうしてよ! お祖父様の信頼厚いカザン将軍の息子と私の縁談だったら、お父様が何と言ってもお祖父様が……」


 言いかけて、途中でフェンも気がついた。


「……お父様は、謀反を恐れていらっしゃる? でもそうだとしたらリュセとの縁談だって……」


 そう言いはるフェンに対して通告するように言ったのはシュウだった。


「カザン将軍と行政官のシン・クーリューが実は対立していたとしたらどうする」


「……その根拠は?」


「リュセの一家は惨殺された、一族ことごとく、刺客の襲撃の際、家を離れていたリュセとフーチンのみが生き残った」


「嘘……でもリュセはそんな事一言も……」


「大声で触れ回るような内容では無かろう、第一それを言ったところでどうなると言うのだ、ロクシャンの文と武が対立し、その結果行政官一家が殺されたなど」


「待って、それは本当にカザン将軍の手によるものなの?」


「……それについてはまだ確定はしていない」


「じゃあ、リュセを宮女候補にしたのはリュセを保護する為?」


「それは違うぞ、フェン、リュセ殿が宮女試験を受ける事は事件の前から決まっていた」


「逆に言えばそれゆえにシン・クーリューの一家が……とは?」


 恐ろしい考えになってしまった。フェンは身震いし、そして、もう一つの可能性に思い至った。


 ジンランのリュセに対する感情は、自分を裏切った事への恨みであった、とは考えられないだろうか。と。


 そうなると、リュセに対してジンランからの書簡を渡した時の反応も納得できる。


 ならば、リュセはジンランを怖がっている?


 フェンはジンランの真意がわからなくなってしまった。ジンランがリュセに対して送った書簡の中身を、確かめるべきだったのかもしれない。


「ならば好都合じゃない」


「好都合とは?」


「私とジンランの縁談が、よ」


 きっぱりと胸を張って言い切ったフェンに、兄二人は困惑したが、乱暴ではあるがフェンの提案には一分の理があるにはあると思い至った。


「ダメだ、危険すぎる」


 まず長兄のシュウが言った。カザン将軍が中央との結びつきを欲している事はあきらかで、人質替わりに都に滞在していた長兄をロクシャンへ戻し、妾腹の次兄を替わりに都に残そうというのはあからさますぎる。


 今やフェンはカザン将軍の眼前に吊られた餌も同然であるが、同盟が成ればよいが万が一決裂し、カザン将軍が謀反を行動に移したとなればジンラン諸共フェンの命も奪われかねない。


 政略結婚を勧めてはいても、命の危険のあるような相手では無い。だがジンラン相手ではそういうわけにはいかないのだ。


「……だが、縁談が成らずとも、ロクシャン側の情報集めにはなるのでは?」


 そう言ったのは次兄のセイ。これはカザン将軍の企み云々というよりも一兵卒としてジンランと共に戦場を駆けたからこそ、ジンラン自身への信頼によるところでもあった。


 カザン将軍はわからない、だが、ジンランは女を盾に己だけ助かろうとするような人物では無いというのがセイの見立てだった。


「……ただその場合、フェンがジンランを偽っていた事はわかってしまうがな」


 料理店でのやりとりを再び引き合いに出してセイが言うと、フェンは痛いところを、と、顔をゆがめた。


「……だが待て、フェンが猩紅公主だと知られないままならどうだ」


「そうよ、であれば猩紅公主として利用される事は無いはず!」


 三人兄妹のうち二人がまるでそれはよい考えであるかにょうにはしゃいだが、シュウの考えは変わらなかった。


「フェンの身の上に危険がある可能性は変わらない、むしろ逆だろう、紫垣王府の女官にそうやすやすと情報を漏らすとも思えない、一女官の命など、あいつらから見ればどうとでもなる、……このような事は言いたくは無いが、猩紅公主の身分があればこそ守られる身の安全もあるだろう」


「でも、あちらの出方を探る人間はいた方がいいでしょう?」


「戦術としての有用性についてお前に問われるまでも無い、だが断る、……フェン、私を妹を犠牲にした愚かな兄にしないで欲しい」


「でも!」


 兄の思いを断ち切るがごとくきっぱりとフェンが言い、戸惑いながら言葉を続けた。


「……でも、リュセにはそれをさせるつもり? 兄上がどうやるつもりかはわからないけど、自分の陣営へ取り込んだ上、同郷の相手の間諜のような真似をさせるおつもりですか?!」


 フェンはリュセを守りたいのか、理由をつけてジンランの側に行きたいのかわからなくなってきた。ただひとつ言える事は、リュセの事もジンランの事もどちらも大切にしたいと思い始めているという事だ。


 シャングを相手にフェンの立場がどうかも考えず救いの手を差し伸べてくれたジンランも、意地の悪い二人の宮女候補を前にひるまず、凛としていたリュセの事も。


 もっとひととなりを知りたかったし、何を大切にして、何に喜びを見出すかを見たかった。たとえば、ジンランが本気でリュセを思い、リュセもその思いに応えたいと思ったのならば、できる力の限りを尽くして手伝いたいとすら言えたかもしれない。


 ただ、それがフェンの中で美化された二人ゆえなのか、理想化していないそのままの二人を知りたかったし、知る好機だと思ったのだ。


「私はジンランの元へ参ります、真意を確かめたいのです」


「……それは、猩紅公主としてか、それとも紫垣王府の女官としてか、それとも……」

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