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プロローグ
シンチェン国第十代皇帝即位の日、後に中興の祖とされた九代皇帝が高齢の為退位し、太上皇帝として収まったその日。
新帝の娘にして太上皇帝気に入りの孫でもある公主フェンは父の即位式の日であるにも関わらずたいそう不機嫌だった。
理由は一つ、兄一、兄ニに縁談が持ち上がるのと同時期に、ほとんどついでのような形で結婚相手を決められそうになっているからだ。
即位したばかりの父は皇太子を定めていない。皇后に子が無く、フェン兄妹の母は出家して宮中に居ないからだった。
そこもフェンとしてはおもしろく無いところで、本来なら皇后として立つのは自分達の生母のはずが、叔父達にかかった謀反の嫌疑の為、母は肉親をかばう形で宮中を出たからだ。
兄達が即位するかどうかはフェンには興味の無いところだが、新皇后の一族と縁を繋げる為に皇后一族と縁談が持ち上がり、その犠牲になるのが自分であるという事は、どうしても受け入れがたい事だった。
それでも、縁談の相手が夢のような美男子か歴戦の勇者であればまだよかったのだが……。