幼馴染で部下
大魔王が去って行くと辺りがまた、ざわめき始めた。
「出発は明日、正午になる。遅れることの無いよう。では、解散」
皆各々の家に帰って行く中、俺だけはその場に残る。
大魔王の住まいであるこの城は俺の家でもあるからだ。
「レオン様、お身体は大丈夫ですか!?」
そこに、後ろから声がかかった。
振り向くとそこには、栗色の髪を肩の辺りで切り揃えた、俺の幼なじみが心配そうな顔をしていた。
「よう、エルク。カッコ悪い所を見られちまったな」
振り向いた俺の顔を見て、エルクと呼ばれた少女の深緑の瞳が見開かれる。
「レオン様! その額は…!」
「あん? どうかしたのか? もう痛くも何とも無いぞ?」
「これを…」
エルクは何処からか手鏡を取り出した。
覗き込むと、そこには見慣れた黒髪黒目の俺の顔が写っていた。
「ん…?」
しかし、いつもと違う所が一つあった。
額に不思議な紋様が刻まれている。
「何だこれ?」
「大魔王様に伺ってみては…?」
エルクが不安そうに聞いてきた。
「バカ言うなよ、今親父に会いに行ったら殺される」
人前という事もあって、あれでも控え目な方だ。
不安そうな顔をするエルクの頭をポンポンと撫でながら俺は笑って言う。
「心配すんなって、この俺がこれしきでどうにかなると思ってるのか?」
小さい頃から俺様の後をちょこちょこと付いてきていたエルクは妹みたいな物だ。
俺の言葉を聞いて安心したのか、エルクも笑って頷く。
そこに、もう一人の幼なじみが近づいて来た。
2メートルを近い身長の大男で、金色の髪を短く刈っている。
「何だ、ドゴもいたのか」
「何だとは、随分なご挨拶だな…。そりゃあ居るさ、何たって我らの陛下の任命式だからな」
「だったら俺が親父に捕まった時、助けてくれよな」
「誰が大魔王様の前に割って入る事が出来るかよ。笑いを堪えるので精一杯だ」
「お前なぁ……」
「ドゴ、レオン様に対して度が過ぎますよ!」
エルクが妹なら、ドゴは兄貴みたいなもんだ。
俺にこんな口の聞き方をするのはドゴぐらいだが、気にしていない。
一人くらいそんな相手がいた方が楽しかった。
ドゴが俺をからかい、エルクがたしなめるのが大体いつものパターンだ。
「出発は明日か、向こうに着いたらもちろん、俺たちを召喚してくれるんだろうな?」
「私も精一杯お役に立ちますので!」
ドゴが聞くと、エルクが勢い込んで言った。
任務には一人で行くが向こうに着いたら部下を召喚することが出来る。
ただし、召喚魔法は難しく、条件が揃わないと出来なかったりするのだが。
「ん~。どうすっかなぁ…。俺一人でも楽勝かも知れないしな~」
わざとそんな事を言ってみると、
「そんなぁ…。呼んで下さらないのですか?」
エルクは悲しそうに、ドゴが呆れたように言った。
「出番無しかよ。そりゃ無いぜ」
「ハハッ、冗談だよ。まっ、状況次第だな」
「是非とも呼んで下さいね!」
「ところで、準備は出来ているのか?」
「ん? いや、な~んにも」
「で、では、急いで準備しないと!」
「おいおい、のんびりし過ぎだろ!」
一つの世界を征服するのには、それなりの準備が必要だ。
だが、俺は特に何もしていなかった。
俺様にかかれば余裕だから、と言うのももちろんあるのだが、俺は夏休みの宿題は31日にまとめてやる派なのだ。
俺はエルク達と共に準備しに向かった。