解けるまで保留
9
シンデレラは12時の鐘が鳴ると、魔法が解けた。眠れる森の美女は王子様のキスで魔法が解けた。魔法を解くには、何が必要なんだろう?
奇跡?ロマンス?それとも愛?
解けない魔法が解けた時、きっといい事ばかりじゃない。
「離婚?」
「そうなんですよ。熟年離婚ってやつで……。」
雑然と声の飛び交う居酒屋で、日野君は少し大きな声で言った。それから、私の隣に移動してきて話始めた。
「え……なんて言っていいかわからないけど…………元気出してね。」
日野君は私の顔を見ると、少し笑った。
「いや、この年じゃショック~とかないですよ。俺の就職が決まったら離婚するって母親が何度も言ってたし。」
「でも、内定決まったからって……これ、お祝いしていいの?」
日野君はサークルの後輩で、最後に日野君がやっと内定が決まって、全員無事内定決定した事をお祝いしようと、久しぶり集まった。
「お祝いしてくださいよ~!俺は離婚だからって悪い事だとは思いませんよ。人生はいつだって再スタートする権利があるでしょ。両親の新しい門出に乾杯~!」
日野君は持っていたグラスを、私のグラスに打ち付けた。
「何、両親の離婚お祝いしてんの?祝われてるのは日野君の方でしょ?はい、乾杯~!」
今度は二人で乾杯した。
「あの…………菜都実先輩、それで、ここからが本題なんですけど、実家が無くなるので……一緒に住みませんか?」
「はぁ?」
「ルームシェアです。あ、別に俺は同棲でもいいです。」
それ言い方変えただけ。
「菜都実先輩、前から1人暮らししたいって言ってたから……」
「ちょっと待って?2人で住んだら1人暮らしじゃないんですけど?」
「2人も1人も同じようなもんじゃないですか~!」
違うよね?全然違うよね?
「じゃあ…………魔法が解けたら。」
「は?魔法?」
「催眠術がね、解けなくて困ってる人がいるの。でも、実際はかかって無くて、かけた本人に魔法がかかっちゃったの。その人の魔法が解けるまでは、その話は保留という事で。」
少し考えて日野君は言った。
「そうか!催眠術!その手があったか!」
「だからちょっと待って?催眠術で同棲しようとしてる?そもそも、そんなのかかるわけないじゃん!」
それから日野君はあれやこれやと眠らせる方法を考えて、結局酒を飲ませるという所に落ち着いた。
飲んでも飲まれるものか。ばかめ。