集中できない
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夏場の体育館は死にそうだった。
「小崎、生きてるか?」
「死ぬ……死んでる……。」
「よし、まだ喋れるな!行くぞ!」
僕達はまた、ディフェンスに走った。
このくそ暑い中、美帆乃は野々村と一緒に、僕の監視に来た。応援だと言っていたけど……全然応援じゃない。まるで体育館の監視員だ。
「悠太がパスとったよ!」
「いや、取るでしょ!」
感動しすぎだ美帆乃。
「悠太がシュート打った!」
「いや、打つでしょ!」
だから感動しすぎだって。
「悠太、ドリブル続くよ?凄くない?」
「まぁ、あのポンコツが上達したと思うよ。」
あの野々村が褒めた!?
「小崎よそ見すんな!!」
思わず、先輩にボールを取られた。
「小崎!!集中!!」
集中!!って言われて集中できるか!?体育館が暑いからじゃない。
好きと言われた相手が見ている。パスを送る奴と付き合ってて、何も思わず平然とボールを送れるか?
おかげで加島の顔がまともに見れなかった。ボールを持って、平静を保つのがやっとだ。
美帆乃の好きは、幼なじみの好きかもしれない。きっとそうだ、友達としての好きだ。そう思えば軽くなる。
「加島、こっちだ!!」
「小崎!!頼む!!」
加島にパスされたボールを外側から狙って投げた。珍しくそのシュートが成功した。
「やったな!小崎!」
嬉しいはずのゴールシュートが、複雑な気持ちになった。この加島の笑顔が…………いつか崩れると思うと、何だか素直に喜べなかった。