亀裂
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「流れるプールにする?それとも、波の出るプール?あ、やっぱり滝のプール?クローバーのプール?」
「あのさ、楽しむ為にミホをこっちに連れて来たんじゃないんだけど。」
「じゃ、何の為?」
やっぱり……ミホは何の悪気もない。
「あのね、ミホは今加島と付き合ってるんでしょ?忘れてない?」
「あ、忘れてた。」
忘れるなよ!
「普通は付き合ってる加島にどう?って訊くんだよ?」
ミホは、そんなルールないって顔してる。確かに、そうしなきゃいけない訳じゃない。けど…………
「私、悠太とのキスで…………魔法が解けちゃったみたい。」
「は?何それ!?」
魔法が解けたからって、開き直っていい事にはならないでしょ?魔法が解けたとしても……誰かを傷つけていい理由にはならない。
「ちーちゃんはさ、私に加島と付き合って欲しいの?欲しくないの?どっちなの?」
「それは…………欲しいよ!だって、加島が告白したんでしょ?だったら上手くいって欲しいよ。」
「そう。やっぱり、ちーちゃんは…………私より、加島君が好きなんだね。」
は…………?
私が……?加島を好き?
「加島君とキスしたら好きになっちゃった?だから、私の事は嫌いになったの?」
「そんな事ない!」
「じゃあ……何で私だけ責められるの?どうして私だけが悪者なの?」
それは…………違う。ミホだけが悪い訳じゃない。そうじゃないけど……。
やっぱり…………ずっと連絡が無視されたのはそのせいだったんだ……。
「ごめん……ミホ。」
「ずるい。ちーちゃんはいつも自分だけ先に謝って、自分だけ安全な所にいる。加島君とキスしといて、自分だけ関係ないふりしてる。」
何も…………言えなかった。
「私、めんどくさいよね。ちーちゃん、めんどくさいの嫌いだよね。だから加島と付き合うようにさせたんだよね?でも、加島君が好きになったから私が嫌いになったんだよね?」
それはまるで…………私自身が、今まで逃げて来た事への、代償を払わされてるみたいだった。
「全部、ちーちゃんの思い通りなのに、何が不満なの?」
不満とかじゃない。自分でも、何なのかわからない。加島に嫉妬なのか、ミホに嫉妬なのか、小崎に嫉妬なのか、何なのか……わからない。
「私、茂木先生と泳いで来る。邪魔しちゃ悪いかもしれないけど……。」
「ちょっと、ちょっと待ってよミホ!!」
私はミホを追いかけて、プールサイドのベンチの近くで引き止めた。
この亀裂を今放置してしまえば、このまま完全に引き裂かれる気がした。